第3話 雨乞い

 それから、日々が過ぎ、梅雨が明け、夏が来た。マサル君は、風邪もすっかり良くなって、いつものマサル君に戻った。しかし、俺は、あの子猫の事が忘れられなかった。それで俺は、あの日から、晴れの日には、神様に雨乞いすることが習慣になった。

 「神様!雨を降らせて下さい!そして、あの子猫を生き返らせて下さい!もう一度会いたいんです!」そう願うのであった。何故かと言うと、そう願う事で、子猫が死んだ事実から逃げたいという思いがあったからだ。

 ある日のことであった。朝から、大雨が降った。時間が過ぎていき、子猫が死んだあの時間になった。その時、俺は、何かを感じ取った。あの子猫がガレージにいる。そんな気がした。俺は急いで、ガレージへと走った。するとそこには、あの子猫が座っていた。俺は信じられなかった。夢でも見ているのかと思った。すると、子猫は犬語で喋り出した。

 「タロウさん。あのときは、食べ物を持って来てくれたり、私の体を温めてくれて、本当にありがとうございました。私は、生まれてすぐに捨てられました。ゴミの中から食べ物を見つけて食べたり、雨水を飲んだりして、なんとか生きていました。私は、生きる意味が分からなかったんです。でも、タロウさんから優しくしてもらって、もっと生きたいって思えたんです。今日はね、神様が特別にタロウさんに会える機会を与えてくれたの。私は、タロウさんに会えて、本当に良かったです。タロウさんは、もっと、もっと生きて下さい。そしていっぱい生きる事を楽しんで下さい。私の分まで。ありがとう、、、。ありがとう、、、。」

 俺は続けて言った。「俺も君に会えて良かった。俺は犬、君は猫。でも、気がついたら君の事が好きになっていたんだ。誰かを好きになるって素敵な事だね。“生きていて良かった”って気分になれる。君が生まれてきたのは意味があるよ。だって、少なくとも、俺は、君の事が好きだったから。」

 2匹は話し終わると、ガレージの外に出た。雨が止みかかっていた。目の前には、綺麗な虹がかかっていた。俺が子猫の方を見ると、子猫はキラキラと光りながら消えかかろうとしていた。

 俺は虹に向かって吠えた、「君の分まで、生きて、生きて、生き抜く。そして君の分まで、楽しんで、楽しんで、楽しむんだ!!」そう言うと、子猫は優しい目でタロウを見つめ、消えていった。

 タロウの目には涙が浮かんだが、涙がこぼれないように、天を仰ぐのであった。

                   完

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雨乞い(雨恋) 伯人 @Takashi2525

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