真白の騎士

真坂 春彦

プロローグ 色の衝突

———今から千年前のとある話


 黒色のオーラを纏った斬撃と黄色のオーラを纏った斬撃が交差しあう。両者が剣で壮絶な打ち合いをする。


「まさか君が立ち向かってくるとはね。王を殺す時は止めなかったのに」


 ガキンッ!


 互いの剣が打ち込まれる。


「俺たちは選択を誤った、彼女も…。決着をつける時がきたんだ。俺たち3人の」


 剣を薙ぎ払う。


「彼女はもうこの世にはいない!」


 黒の男が声を荒げる。


「どうして、僕の前に立つ!?君だけは殺したくない!」


 言葉を放った先に黒の斬撃を飛ばす。


「俺もだよ…」


 黄色の斬撃で応戦する。


「彼女は死んだ!そして、あの無能の王への復讐も果たした!もう僕に残っているのは君だけだ!」


 黒の男は剣先を地に向けて攻撃を中断する。


「これ以上……僕に奪わせないくれ…」


「……俺もお前と一緒の気持ちだったよ。だが、お前は奪いすぎた…。無能の王だけではなく、関係のない一般人にまで手を出し、殺した」


 男は悔やんでいた。彼女の仇ともいえる王を殺された事の喜びと共に、彼女との約束を守れなかったことを今更ながら後悔した。


『彼を止めてあげて…。そうしなきゃ、二度と戻れなくなる』


 彼女の言葉が戦闘中に何度も頭によぎる。復讐に囚われた男とそれを止めようとせずに望んだ男。復讐を望んでいなかった彼女。それぞれの思惑が複雑に絡み合い、皮肉なことに彼女の願いを彼らには叶えられなかった。


「もう遅いよ…。あの時、僕がもう少し強かったら…この力に早く気づけていれば…そのことばかり考えてしまうよ…。でも、もう彼女はいない…」


 禍々しい漆黒が男に集中する。


「だから、全てを黒に染めるよ」


「だったら俺はお前を倒さなければいけない」


「それは君の正義か?」


「ああ…そして彼女との約束だよ」


「君じゃ、僕は倒せないよ!」


「知っているよ」


 突如として七色の光が男を包み込んだ。


 黒の男は異様な光に動揺した。


「それは…?」


「俺がお前に唯一対抗できる術だよ。使い方は彼女が教えてくれた…」


 黒の男が初めて後退りをした。虹色の光に怯えていたのだ。まるで、初めてのモノをみて怯える幼な子のように。


「やめろ!!それをボクに向けるな!!!眩しい!!!!」


 ザッ、ザッ、ザッ。


 一歩ずつ、確実に一歩ずつ間合いを詰める。外さぬように、狙いを定める。


「確かに俺の色だけじゃお前を倒せない。だけど、押さえ込むことはできる」


 虹彩の輝きが剣に集結する。


「倒すのは、俺じゃなくていい…」


「やめてくれ!ボクたちは友達だろ?今まで一緒にいたじゃないか!?彼女の復讐をしようとしただけじゃないか…」


「復讐に囚われて、市民を残虐し、魂を喰らい、黒色に呑まれてしまった…。そっち側に行ったらもう、戻れないんだよ」


(彼女が生きてたら、お前を救えたかもな…)


 虹色の斬撃が黒の男に降り注ぐ。


 辺り一面が虹彩に包まれる。


「眠れ、友よ…」



———————————————————————————



「……………終わったか」


 長い沈黙が決着の狼煙となった。


 虹色の斬撃を放った元へ駆け寄ると、そこには虹彩を放った宝玉が地面に転がっていた。


「綺麗だ」


 しかし、宝玉を拾い上げて目をよく凝らすと中心の方に漆黒のような影が生き物のように蠢いていた。


「コイツをどこか安全なところで保管しないとな。それが俺の残された使命だ」


 宝玉を持ちだして男は歩き始める。


(コイツを倒せるのは彼女と同じ色の魂ソウルだけだ。いつになるかは分からないが、先の未来にきっと生まれてくるはずだ)


「真白の騎士…」

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