第7話「責任」最終話




「あの……僕は……」


「彼は朝日あさひはるとくん。

 昨日この寮に越して来たんだ」


玲さんが僕の横に立って、紅くんに紹介してくれた。


玲さんの手は僕の肩に置かれてる。


「はるとくん、彼は東雲紅しののめこう

 私のいとこでこの春から高等部の3年、この寮の2階に住んでるんだ」


紅くんは僕と同い年だった。


紅くんは玲さんの弟じゃなくて、いとこなんだ。


玲さんとあんまり似てないな。


「はじめまして朝日あさひはるとです。

 紅くんって呼んでいいかな?

 同じ学年だし、これから仲良くしよう?」


笑顔で手を差し出した手は、紅くんに冷淡に払われてしまった。


「なんで寮生が玲兄さんの部屋にいるの?」


紅くんがちらりとテーブルを見る。


テーブルの上には二人分の食べかけの朝食が……。


「もしかしてこの朝食は玲兄さんの手作り?

 玲兄さんの手作りのご飯を一緒に食べてたの?」


紅くんが冷たい目で僕を睨む。


怖いよ〜〜。


「えっと……それは……」


「つうかそのパジャマ、玲兄さんのじゃん!

 なんでお前がきてるんだよ!」


紅くんが僕の腕を掴み前後に揺する。


止めて〜〜! ゆすらないで〜〜!


パジャマのズボンがゆるいから、そんなにゆすられたら落ちちゃうよ〜〜!


ストン……!


僕の不安は的中し、ズボンが膝のところまで落ちてしまった!


僕は慌ててズボンを上げた!


「…………お前……なんでパンツ履いてないんだ?」


紅くんが汚いものを見る目で僕を見る。


昨日シャワーが壊れたあと、パンツを履き忘れてそれっきりだって言ったら紅くんは信じてくれるかな?


「紅、はるとくんは昨日から私の部屋に一緒に住んでるんだ」


「はっ? 玲兄さんの部屋にこのちんちくりんが!?」


ちんちくりんって僕のことだよね。


「はるとくんの部屋のシャワーが壊れて、修理に時間がかかるから、修理が終わるまで私の部屋ではるとくんを預かることにした」


「なんでだよ! 玲兄さん!

 ボクがこの部屋に泊まるのは許してくれないのに、昨日会ったばかりの男の子とは同居するの?!」


「紅がこの部屋に泊まりたがる理由がわかかっていて、泊めるわけないだろ?」


「こいつだって同じだよ!

 絶対玲兄さんの体が目当て!

 わざとシャワーを壊して玲兄さんの同情を誘って部屋に転がり込んできたんだよ!

 玲兄さんを誘惑しにきたんだよ!

 その証拠にこいつはパンツ履いてないじゃん!!」


紅くんが僕を指差しキッの睨みつけた。


パンツのことは触れないで〜〜!


本当に昨日うっかり履き忘れただけなんだよ〜〜!


「あの……紅くん、僕はそんなんじゃ……」


「紅、いい加減にしろ!

 はるとくんはお前とは違う!」


玲さんが紅くんに厳しい口調で言い放つ。


「玲兄さんはなんでこいつのことをかばうんだよ!

 玲兄さんのバカーー!」


紅くんがバスケットを玲さんに投げつけ、泣きながら部屋を飛び出していった。


紅くんが出ていったあと、玲さんが玄関の鍵を閉めた。


「いとこがごめんね、朝食が冷めちゃったね。

 作り直すよ」


「あっ、大丈夫ですから」


「はるとくんは冷めたご飯でも平気?」


「そうじゃなくて、えっと!

 紅くん泣いてました!

 追いかけなくていいんですか?!」


「いいんだよ。

 紅のヒステリックはいつものことだから。

 紅は少しわがままで甘ったれたところがあってね。

 気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こすんだ。

 紅ももう18歳だし、そろそろそういう性格も治さないとね」


玲さんはそう言って、ガスのつまみを回し味噌汁を温めなおした。


「なら僕が紅くんを追いかけます!」


「それはだめ」


「どうしてですか?」


「はるとくんはパジャマ姿だし、それにパンツ履いてないし」


「はうっ!」


パンツのことを言われると辛い!


「違うんです、昨日慌てて着替えたからパンツを履き忘れて……」


決して玲さんを誘惑しようと思ったわけでは。


「わかってる。

 はるとくんはそんなことする子じゃないって信じてるよ」


「玲さん信じてもらえて嬉しいです!」


味噌汁が温まったのか玲さんがガスを止めた。


「偶然とはいえ2回もはるとくんの裸を見てしまった。

 責任を取らないとね」


「へっ? 責任??」


玲さんが僕の前にひざまずき、僕の手をとった。


朝日あさひはるとくん、君の裸を見てしまった責任を取るよ。

 私と結婚してほしい」


「ふぇっ??

 けっ、結婚…………?!」


結婚ってあの結婚だよね?


教会で指輪を交換して誓いのキスをして夫婦になることを誓うあの結婚……??


「だめ、かな?」


玲さんが悲しげに眉根を下げた。


そんな辛そうな顔をしないで下さい!


「だ……だめじゃないです!」


「よかった」


玲さんがふんわりとほほ笑んだ。


玲さんの笑顔に僕は弱いのだ!


その瞬間、またパジャマのズボンが落ちてしまった。


玲さんは僕の前でかがんでいるから、至近距離で僕のアレを見せることになってしまった!


一度ならず二度までも……恥ずかしさで死ねる!


「玲さんこれは、あの……」


「はるとくんはそそっかしいね。

 私以外の人の前でそんな無防備な姿を晒しちゃだめだよ」


玲さんが僕のズボンを引き上げてくれた。


「……はい」


玲さんにポンコツ認定されてしまったかもしれない。


「はるとくんはキスしたことある?」


「はひっ?!

 キキキ……キス!?

 あっ、ありません……!!」


昨日まで自慢ではないが恋人がいない歴=年の数だった。


「じゃあファーストキスは鮭の味になっちゃうかな」


玲さんが立ち上がり、僕の後頭部に手を回す。


玲さんの顔が迫ってくる……嬉しいけどファーストキスが鮭の味なのは嫌だ!


僕は玲さんの口に自身の手を押し付けてキスを回避した。


「ちょっ……ちょっと待って下さい!

 歯磨きタイムをもらっていいですか?」


「いいよ。

 いちご味の歯磨き粉にでもする?」


「ミント味で大丈夫です!」


ぐぅぅぅぅぅ……!


そのとき僕のお腹の音が鳴った。


「朝食の途中だったね、歯磨きはご飯のあとにしようか?」


玲さんがくすりと笑う。


「……はい」


それから二人でご飯を食べて、二人並んで洗面所で歯磨きをした。


玲さんとのファーストキスはミントの味がした。








――終わり――



最後まで読んで下さりありがとうございます。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


【後書き】

※玲が高3、こうが小6の夏頃に玲の海外への留学が決まった……ということで。説明ヘタですみません。


※作中の季節は4月上旬、春休みです。はるとの誕生日は4月2日です。


※部屋を飛び出して行った紅のターンもあったのですが、暗いので全カットしました。


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ラピスラズリ荘の同居人〜寮の管理人さんに恋しちゃいました・完結・BL まほりろ @tukumosawa

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