第6話「朝ごはん」




――はるとサイド――




朝、焼き魚の香りで目が覚めた。


ママかな……?


目を開けると見慣れない天井と沢山の本が視界に入ってきた。


ああそうか……僕は昨日学園の寮に引っ越してきたんだ……。


トントントンとドアを叩く音がする。


誰だろう……?


そうだよ玲さん!?


僕は昨日から玲さんと同居してるんだ!


僕は急いで起き上がり扉を開けた。


「おはようはるとくん、ご飯できてるよ」


ドアを開けると笑顔の玲さんがいた。


玲さんは白いシャツの上に紺のエプロンを身につけていた。


玲さんはエプロン姿も似合うなぁ。


昨日のスーツ姿も良かったけど、こういう家庭的な姿も絵になるなぁ。


眼福だなぁ。


朝から玲さんの家庭的な姿を拝めたことを神様に感謝した。


「はるとくん、寝癖ついてるよ」


玲さんが僕の髪を撫でてくれた。


玲さんに触れられると心臓がドキドキする。


髪を撫でられただけでハニカンでる男の子なんて、気持ち悪いって思われたかな?


「顔洗っておいで、タオルは洗面台にあるから」


「……はい」


僕は洗面台に駆け込み、はぁ……っと息を吐いた。


「玲さんは美しすぎる」


寝起きの頭にギリシャ彫刻のように整った玲さんの笑顔は刺激が強すぎる。


こんなやり取りをこれから毎朝するの??


僕の心臓は耐えられるだろうか?



☆☆☆



着替えがないからパジャマのままご飯を頂く。(昨日着ていた服は洗濯中)


朝食は焼き魚に卵焼きにお味噌汁にご飯。


凄く美味しそう!


僕も明日は早く起きてお手伝いしなくちゃ!


「はるとくんは朝食はパン派? ご飯派?」


「僕はご飯派です」


「そう、よかった。

 私もご飯派なんだ」


玲さんと同じで嬉しい。


玲さんの対面の席に座り、「いただきます」と手を合わせる。


「玲さん、この鮭はとても美味しいです!

 卵焼きも甘くて僕の好みの味付けです!」


お味噌汁は僕の好きなわかめとネギと豆腐……玲さんは僕の好みを熟知しているのかな?


そんなわけないか偶然だよね。


「それはよかった。

 はるとくんは甘い卵焼きが好きだと思ったんだ」


玲さんはエスパーなのかな?


「はるとくんほっぺにご飯粒がついてるよ……」


玲さんが僕のほっぺについたご飯粒をとって、自身の口に運んだ……!


なんだろう、凄く恥ずかしい。


玲さんは僕の顔を見てニコニコと笑っている。


いい年してご飯粒を頬に付けていた僕のことを笑っているのかな?


僕たちが和やかにご飯を食べていると……。


ドンドンドンドン……!


と玄関の扉を叩く音が。


玲さんが眉根を寄せ、ほんの一瞬怖い顔をした。


でもすぐにいつもの穏やかに表情に戻っていた。


「はるとくんはご飯を食べてて、来客のようだ」


「こんな朝早くにですか?」


まだ8時前なんだけどな。


春休みなのに早起きな人だなぁ。


もしかして寮に住んでる子かな?


僕の他にどんな子が住んでいるんだろう?? 気になる。


こう、朝から大きな音で扉を叩くのは他の住人に迷惑だと……」


「玲兄さん!

 パリからフランスパンを空輸で取り寄せたんだ!

 一緒に食べよう!」


玲さんが扉を開けると、ショートカットの男の子が部屋に飛び込んできた。


うわぁ……綺麗な子だな。


整った目鼻立ち、白磁のようにきめ細かくて白い肌、黒目がちな大きな瞳、サラサラの黒髪。


こうと呼ばれた少年は、白のシャツに浅葱色のベストと紺のハーフパンツを身につけ、フタとレース付きのウィッカーピクニックバスケットを持っていた。


背はあんまり高くなくて全体的に華奢。


華奢な男の子にも見えるし、中性的な女の子にも見える。


でもここは男子寮だし、女の子が入ってくるはずがないよね?


ということは紅くんは男の子。


「玲兄さん」と呼んでたから、玲さんの弟さんかな?


「玲兄さん、スイスからチーズも取り寄せたんだよ」


紅くんはそう言って愛くるしい笑顔を浮かべ玲さんの手を握った。


「残念だけど朝食は済ませた、人がいるんだ帰ってくれ」


玲さんはクールな表情で紅くんの誘いを断り、紅くんの手を振り解いた。


「えっ?

 人がいるの?

 玲兄さんの部屋に?」


紅くんはその時初めて僕がいることに気づいたようだった。


「誰?

 お前?

 なんで玲兄さんの部屋にいるんだ!」


紅くんが鋭い目つきで僕を見据える。


僕を見る紅くんの瞳は真冬の湖のように冷たかった。


もしかして僕、紅くんに嫌われてる??



☆☆☆



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