第5話「ラピスラズリ荘の同居人」




はるとくんを私の部屋に保護し、業者に来てもらった。


水はすぐに止まったが、キッチンの床を直すには時間がかかるそうだ。


私は親切心とほんの少しの下心ではるとくんを、私の部屋に住まわせることにした。


本当は開いてる部屋があるから、はるとくんに空き部屋に移動してもらうことも可能だ。


私は空き部屋も修理する必要があると嘘を付き、はるとくんが他の部屋に移動できる可能性を潰した。


はるとくんはシャツを裏返しに着て、左右別々の靴下を履き、パンツを履き忘れるようなポンコツな子だ。


はるとくんに一人暮らしは無理だ。


大人がそばにいて彼の生活を管理してあげないとね。


落ち込んでいるはるとくんを慰めていたら、キスしたくなってしまった。


はるとくんの髪を撫でると少し湿っていた。


はるとくんの涙を拭う為に頬に触れると、はるとくんの顔は冷たかった。


はるとくんの体が小刻みに震えている。


冷水のシャワーで体の熱を奪われたみたいだ。


お風呂に入って温まった方がいい。


理性ではそうわかっているのに、衝動が止められない。


私の体温をはるとくんに分けてあげられたら……。


はるとくんに顔を近づけていく。


お互いの鼻と鼻が触れ合うほど顔が近づいたとき、はるとくんの精子の声が聞こえた。


「玲さん?」


はるとくんに声をかけられなかったら、私ははるとくんの唇を奪っていた。


いけない、いけない。


まだ同居初日だ。


はるとくんが私を大好きになって、私から離れられなくなるまでは、手を出さないようにしないと。


「あっ……ごめん!

 はるとくん、体が冷えてるね。

 お風呂で温まってきなよ」


「いいんですか? でも……」


「大丈夫だよ、私の部屋のお風呂は壊れてないから」


自室のシャワーが壊れていたせいで、はるとくんはお風呂というワードに若干恐怖を感じているようだ。


「迷惑だったかな?」


「いいえそんなことありません!

 ぜひ入らせて下さい!」


はるとくんを私の部屋のお風呂に入れて、私のパジャマを貸してあげた。


はるとくんの部屋は隣、キッチンは水浸しになったが寝室は無事だ。


はるとくんに自分のパジャマを取りに行かせることも可能だ。


だが私ははるとくんに自分の服を着せたかった。


お風呂から上がってきたはるとくんはブカブカのパジャマを着て、なんとも愛らしかった。


この一点の汚れのない子を、私の色に染めてしまいたい。


はるとくんを汚したい欲望を抑え、にこやかな笑みを称える。


はるとくんの目に映る私、害のない親切なお兄さんでなくてはいけない。


私と一緒の部屋で暮らすことを提案すると、はるとくんはすんなりと受け入れてくれた。


はるとくんには他に選択肢がないから、断われないよね。


実家には帰れないし、寮を追い出されたら野宿するしかないもんね。


夕食ははるとくんと一緒に食べた。


私の手作りシチューははるとくんの口に合ったようだ。


はるとくんと一緒のベッドで寝たいけど、朝まで欲望を抑え切れる自信がない。


書斎に布団を敷き、はるとくんにはそこで寝てもらうことにした。


「ふわわ〜〜玲さんの匂い〜〜」


「あっ、そうだはるとくん明日の朝食なんだけど……」


明日の朝食のメニューについて確認しようと書斎の扉を開けると、はるとくんが布団に鼻をくっつけて匂いを嗅いでいた。


えっ? 何してるのはるとくん?


「はるとくん、布団の匂いを嗅いでたの?」


「あっ、いやこれは……」


「その布団新品だから安心して」


「……は、はい」


「明日の朝食は鮭にしようと思うんだけどいいかな?」


「……はい」


「それじゃあ、おやすみ」


もしかしてはるとくんは加齢臭がしないかチェックしてたのかな??


18歳から見たら24歳は加齢臭のする「おじさん」なのかな……私はちょっとだけ泣きそうになりながら書斎の扉を閉めた。




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