Phase 08 追憶
私は、女優であることが厭だった。
時間に縛られた生活。役作りと言う名の頭髪制限。食事制限。そして化粧すら制限されていた。
普通の女性だと、25歳ぐらいに結婚しなければならない。しかし、私は恋愛すら
そんな私に転機が訪れたのは2年前の事だった。テレビドラマ『殺人倶楽部』でバラバラ殺人事件の犯人役をやるというオファーだった。
正直、
結果的にドラマは大ヒット。女優「西九条悦子」の新たな一面として私は大ブレイクを果たした。
翌年には、後に映画化される程の人気シリーズとなる刑事ドラマ『ダンシング大捜査線』にも主役として
そして、私は殺人に手を染めることになった。それは「西九条悦子」ではなく、「九条涼子」としての犯行だった。
最初の獲物は大坂亮一。殺人現場は大阪城公園の堀だったかな。
犯行時刻は午前8時。
あの時間帯はお堀ランナーで溢れている。だから人を殺すには絶好の時間帯だった。
私は、適当なランナーに薬品を嗅がせて気絶させた。
そして、誰にも気づかれない場所で大坂亮一を解体し始めた。
最初は人体の肉を切る音が気持ち悪かったが、犯罪を重ねる度にそんなことはどうでも良くなった。
――バラバラになった大坂亮一は、大阪城公園のホームレス街の近くに棄てた。
2人目の獲物は桜宮和子。殺人現場は十三の路地裏。
人を殺すことに対して性的な快楽を覚えた私は、大坂亮一を殺した日の夕方に十三へと向かった。
路地裏で無防備な女性を見つけた私は、大坂亮一のように桜宮和子に薬品を嗅がせて気絶させた。そしてそのまま解体し始めた。
――解体した桜宮和子を棄てる場所は、敢えて目立つ場所を選んだ。つまり、阪急十三駅の駅前広場である。
3人目の獲物は森宮匠。殺人現場はコスモスクエア。
コスモスクエアは大阪市の「負の遺産」として知られている。だから殺人を犯すには格好の場所だった。
人間の解体に慣れてきた私は、躰のみならず内臓の解体にも手を出し始めた。
――そして、森宮匠は心臓を抉り取ってWTCの空きテナントに棄てた。
4人目の獲物は鶴橋千春。殺人現場自体は環状線の中と言っても過言ではない。
満員電車は殺人を犯すには難しいと思っていた。
しかし女性専用車両だと真逆そんなところで事件が起こるとは思わないだろう。だから私は敢えて女性専用車両で犯行を行うことにした。自分の性別が女性であることを利用して。
ラッシュアワー時の環状線で、短髪の女性に薬品を嗅がせる。そして、西九条駅で降りてトイレの中に連れ去った。その女性こそが鶴橋千春だった。
鶴橋千春を解体した私は、工事中の遊園地の駐車場にバラバラ死体を棄てた。こんなところに警察が来るわけないと思っていたからだ。しかし、この計画は目撃者である
5人目の獲物は寺田真澄。殺人現場は梅田の病院だ。
強盗を装って寺田クリニックに潜入した私は、薬品ではなく薬品棚にあった睡眠薬を寺田真澄に嚥ませた。
そして、そのまま寺田真澄を解体した。
普通に梅田の家電量販店建設予定地に棄てるのは
――流石に西成区だったら気づかないと、私は思っていた。
6人目の獲物は天王寺博史。殺人現場は日本橋の路地裏。
必死に抵抗していたので、思いっきり心臓をナイフで突き刺した。もちろん、即死だった。
――そして、天王寺博史を解体した後、改めて心臓をナイフで突き刺して、道頓堀に天王寺博史だったモノを流した。
7人目の獲物は芦原あかね。殺人現場は阿倍野区のカラオケ屋だ。
流石に友人を手に掛けるのは抵抗があったが、酒で眠りこけている彼女を見ると殺人衝動が芽生えてしまった。
カラオケルームの中で、丁寧にあかねちゃんを解体していく。
正直、彼女を殺したことだけは後悔している。小中高と同じ学校だったから当然だ。
高校の時に『里見八犬伝』がヒットしてから私は高校を中退してしまったが、あかねちゃんから手紙をよく貰っていた。そして、私がプライベート用の携帯電話を買ったことを話すと、あかねちゃんは喜んでいた。
そんなことを思い返しながら、私はあかねちゃんだったモノをゴミ袋に詰め込んでいった。
外は雨が降っていた。しかし、今の私にはそんなことはどうでも良かった。
カラオケ屋の近くの「フラット電機」のビルの路地裏に、あかねちゃんだったモノが入った袋を棄てた。
――そして、私はあかねちゃんだったモノに手を合わせて、その場を去った。
8人目の獲物は弁天隆史。殺害現場は天王寺動物園。
マスコミに私のことが知られようとしていたから、敢えて目立つ場所に死体を棄てた。
しかし、これが裏目に出てしまう。
私は阿倍野区在住だ。
そして、天王寺動物園は天王寺区にある。
つまり第7の事件の殺害現場から約2キロメートルしか離れていない。
正直、この点に関しては完全に私のミスである。
――結果として、この時の私のミスをあの女は見抜いてしまった。
ドアが開かれる。
2人の刑事が、九条涼子を取り押さえる。
「九条涼子、あなたを殺人罪の疑いで逮捕するッ!」
その瞬間は、もちろんテレビ局のカメラに大写しにされていた。
九条涼子が持っていた凶器のナイフが地面に落ちる。
背筋が凍りつくような音がする。
私は、体制を直して、改めて九条涼子に質問をした。
「改めて問います。九条涼子さん。あなたが、一連の事件の犯人ですね。」
「なぜ、分かったんですか。」
「探偵の勘ですよ、勘。」
「あなたは探偵じゃなくて小説家が本業と聞きました。そんな茶番劇に付き合っている暇なんてないんですよ。」
「あなただって女優じゃないですか。俳優、そして女優というのは『茶番劇』の元に成り立っているんですよ。残念でした。」
「くっ・・・。」
こうして、九条涼子は大阪府警の元へと送られた。それは、女優としてではなく事件の容疑者としての顔だった。
――九条涼子は、嘲笑うかのような表情をしていた。
茶番【ちゃばん】
①その場にある物を用いて行う滑稽な即興寸劇。
▽「茶番狂言」の略。
②底の見えすいた、ばかばかしい物事や振る舞い。茶番劇。
「とんだ―だ」
――明鏡国語辞典
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