Interlude 02 加熱する報道、加熱する推理

 「人気漫画家の芦原あかねが2001年1月18日、大阪市阿倍野区のビルの前でバラバラ死体として発見されました。大阪府警では、一連の連続殺人事件との関係を冢宰しているところです。」

 「それにしても、この犯人は快楽殺人者サイコパスですね。7人も人をバラバラにして殺すなんて考えられませんよ。」

 「そうですね。あっ、今速報が入ってきました。大阪市天王寺区で8人目の被害者が発見されました。被害者等は今大阪府警で調査を進めているところです。」

 「8人目ですか・・・。」

 大阪で発生した連続猟奇殺人事件、通称「大阪バラバラ連続殺人事件」は全国ネットでの報道も加熱していた。

 5人目までは所詮関西ローカルのニュースとして全国ネットでも見向きがされなかったが、6人目から徐々に盛り上がりを見せるようになり、7人目の被害者が有名な漫画家だったのも相まって一気に全国区の事件となってしまった。

 当然、ネットでの憶測も加熱していた。

 何処から漏れたのか分からないが、大阪府警の容疑者リストから犯人を憶測する動きも出てきた。

 ある人は「桃谷詩織が怪しい」と言い、またある人は「大正光が怪しい」と言う。

 私は、煙草に火を点けつつ加熱する報道を見ていた。

 「麗子ちゃん、例の推理ショーっていつ頃出来そうなの?」

 「もうちょっと待って欲しい。まだ私の中で考えが纏まっていない。」

 「そっか。それは残念。」


 「一体誰が容疑者リストをネット上に漏洩ろうえいさせたんだッ!」

 「僕じゃないです。」

 「もちろん、僕でもありません。」

 「いや、一連の事件を担当しているのは君たちなんだぞッ!機密情報を漏洩させるなんてあってはならないんだッ!」

 「新堂警部、すみません。以後気をつけます。」

 「反省しているなら良いんだ。」

 ネット上に容疑者リストを漏洩させたのは紛れもなく僕、神結英樹だ。この事件は関西ローカルで推理させるには勿体ないと思っていたからだ。

 そして、いっちゃんねる経由で件の事件の容疑者リストは拡散。犯罪を扱ったとあるテキストサイトでは独自の推理が進んでいた。


 深夜。

 普通なら眠りにつく時間帯だが、「テレホーダイ」と呼ばれる割引サービスを利用してネットサーフィンを行う人は後を絶たない。

 もちろん、私もその一人である。

 私は、テレホーダイを利用して有名な犯罪専門のテキストサイトを見ていた。

そのサイトは、古今東西のあらゆる犯罪が網羅されているのだ。そして、私も暇つぶしによく見ている。

 「いっちゃんねるに私が作ったリストがアップロードされてから、推理合戦があちこちで行われているな。まぁ神結くんに頼んで私が漏らしたようなモノだし、当たり前か。」

 私は、犯罪を専門に扱ったテキストサイトを潰さかに見つめる。

 「えーっと、この人の推理は大体私と同じだな。いい線行っている。しかし惜しいな。私の推理の方が上手うわてだ。この人の推理は・・・全然私と違うな。でも着眼点はいいところを突いている。見習いたい。」

 「麗子ちゃん、こんな時間まで何やってるんですか?」

 「あぁ、乃愛ちゃんか。テレホーダイの間に色々と推理サイトを見ていたんだ。」

 「それって、所謂答え合わせってヤツですか?」

 「まあ、言ってみればそうだ。私の推理と同じサイトもあれば、全くもって見当違いのサイトもある。ネットなんて所詮は玉石混交ぎょくせきこんごうだよ。」

 「なるほどねぇ。『神戸のホームズ』さん的には、一連の推理はどんな感じ?」

 「その呼び方をやめてくれないか。それはともかく、テキストサイトの力もあるけれども推理が大分纏まってきた。推理ショーを披露できる日は近い。」

 「もしかして、その推理ショーって・・・。」

 「ああ、関西ローカルのテレビ局を私の仕事部屋に招いて行う。関西ローカルと雖も、在京キー局経由で全国ネットに放送されるから、ほぼ全国区で私の推理が披露されるんだ。私はマスコミを嫌っているが、ここまで大体的に報道されるとやむを得ない。私にとって、これは一つの賭けでもあるんだ。」

 「例の爆弾魔のときと比べて、規模が大きくなっちゃいましたからね・・・。」

 「爆弾魔は飽くまでも神戸の事件だったが今回のバラバラ殺人事件は大阪の事件だ。規模が大きくなるのも当然だろう。」

 「コホン。とにかく、明日関西のテレビ局に電話してみるよ。」

 「毎度すまないな、乃愛ちゃん。」

 「麗子ちゃん、大丈夫ですよ。私はあなたのアシスタントであることに誇りを持っていますからっ!」

 「それこそ、よく出来るアシスタントがいることに私も誇りを持っている。」

 夜が明けていく。

 朝日が眩しい。


 2001年1月20日。

 ――それは、一連の事件への終止符を打つ日だ。私は決意した。

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