和菓子辞典

本文

 射たように高い蒼天下のことだった。


 小高い丘の、野原に背を預けては濡らされて、ほほを緑が白光って撫でる。見上げるとその、蒼天が高くて、果てまでも見上げさせられた。私はそちらへ落下してしまうのでないの、そんな、浮遊感の不安を与えられる。

 薫風が流れて急にここへ帰ってきた。確かに先程まで、空にいたのだ。けれど、今や肌を濡らす露の感覚に疎ましくされる。


「私は、帰りたい」


 指にくちゃと湿りで貼っついた草きれを取って、はらうのに難渋して。


「何言ってるの」


 何言ってるのでないことをわかっている。


「帰ろう」


 起きあがるとくらん、と血圧が足りない。すぐ取り戻して、んーと伸びた。歩こう、帰ろう。どこに?


 見渡せる街並みを見渡した。それらに人が収納されていることを思って、くすと笑った。私はそれを嫌悪しないのだ。忌まわしさを知らなくなった。






 ぱきり、大嘘。

 夜露が吹雪くように飛びついてきた。


「この街は……」


 どこも光っている。どこへ行くのだろう。私は誰のことも知らない。楽しそうだな。

 終わってしまったのだろうか、これは。


「帰ろう」


 さやかな星の光が、今とたん、大風に吹かれ。


 何かが私の前に着陸したようだった。


「どなた?」

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