カラーペンと数字

@copo-de-leite

第1話一本の赤い。

 私は、ゴワゴワした紙袋を机の上に苦労して置いた。此の紙袋の皺は擦れるたびに籠った音を立てるのだから。私はその中から数本のカラーペンを取り出した。色は赤と言ってもいいが、どちらかと言えばより朱色に近く、深紅と名付けるには行き過ぎなのだ。私は右手で引き出したペンを一本一本机の上に立ててみた。全部で6本。それら全てを等間隔に直線状に立てて並べる。私は並べ立てたペンの底に対して、真横から改めて其の羅列を観察した。

 

 すると不思議なのだね。6本あった筈のペンの”赤”が何重にも溶け合い混濁する。禍々しい原色に移り変わる。光の加減と呼ぶには餘に頼りなく、6本の軸が明瞭に個体性を発揮する。canvasに勢いよく振り下ろされる時を待っている。つまり”6本”は鍛え上げられた意志なのだ。

 

 いいか。カラーペンを見誤るな。底に含まれているのは人間に対する弾性力なのだから。”1本”はまだいい。しかし”2本”は既に危うい。カラーペンを数え上げる行為を止めた途端、埋没するのは工場の生産ラインに積まれたカラーキャップか、それとも人間自体の意志か?

 

 すると此の空論を吐いている間にも机の上のペンは右に左に振れだす。振動数はどんどん上昇して遂には熱を放射する。私は蒸気にいたたまれなくなり、右手の5本指でブンとペン軸を掴み上げた。そして其の儘、目の前のメモ帳の上にペンを書き殴った。ペンは新品な筈なのに、何故だろう掠れてヒョロヒョロな字体を刻んだ。

 

 つまり”反逆”なんだ。此のペンは”6本”じゃない。紛れのない”1本”なのだ。

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