青い夢
オレンジのアライグマ【活動制限中】
青い夢
その星の海には美しい街が沈んでいた。
かつて、この星の文明は栄えていたという。人々は自分たちの寿命を延ばす為に自身の身体の細胞をナノマシンとよばれる非常に小さなロボットのようなものに置き換え、住んでいる街なども周りの環境に最適化された状態で持続可能な発展ができるようにすべてナノマシンでつくり、その中で悠々自適に暮らしていたらしい。
しかしある日、不幸なことが起きた。すべてのナノマシンを司る中央制御AIが致命的なバグを起こしてしまったのだ。その頃の大多数の人々が文明の更なる発展を望んでいたのを、AIは文明の発展が最優先だととらえてしまい、人々の身体に使われているナノマシンたちをリソースの無駄だと判断してしまったようだ。
まさに悲劇だった。誰一人残らず一瞬にして、溶けるようにこの星から消え失せてしまったのだ。一方で人々の身体に使われていたナノマシンはそれから、主に街の建設に使われて、数ヶ月もすると世界各地でみたこともないような美しい街が次々と完成した。新しくつくられた街たちはAIによってそのまま維持管理されていったが、やがて気候が変わったせいで多くが海に沈んだ。
今、辺りは真っ青。高層ビルの間から日の光が差し込んで、花屋の棚ではサンゴがゆらゆらと揺れている。ガタゴトと海底を走り回る電車やバスに乗るのは魚たちの群れだ。AIがまだ稼働を続けているおかげで、街は水没しながらも周囲の環境に適応するように拡大を続けている。
錆ひとつない、よく手入れされた公園のブランコ。駅のベンチに座るクマのぬいぐるみ。マンションの一室の棚には家族の写真。
時計台の時報。教室の机に答案用紙。ステージで出番を待ったままのバイオリン。
全部、青い世界に染まっていく。みんな青い世界の底に沈んでいく。
今、ここに海に沈んでいく街がある。醒めることを知らずに、早朝の微かな青い光に照らされて、ゆっくりと、ゆっくりと、深く深く沈んでゆく青い夢たちよ。
青い夢 オレンジのアライグマ【活動制限中】 @cai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます