死神さん

@Tori0123456789

第1話 死神さん

今日はとても天気が良く、快晴と言っていいくらいだった。

グラウンドからは夏休みだというのに、野球部たちの威勢の良い声が響いている。

そんな心地よい日に私は、屋上で一人寝転がっていた。いや、こんな心地よい日だからだったのだろう。

私は朝一番にここに来た。野球部より早かったかもしれない。そしてかれこれ、二時間ほどこの状態でいる。どうして私はここに来たのだろうか、なんの意味があるのだろうか、それは私自身にも分からなかった。不思議な話だ。

急に屋上のドアが開いた。

こんな朝早くに変わった人もいるものだ。

と思ったが、私もその変わった人の一人だ。

私は特に気にもせず、そのまま寝転んでいたがその人は、こちらにゆっくりと歩いてきた。

寝転んでいるので姿は見えないが、足音だけが近づいてくる。

その人は、私の右斜め後ろで止まった。

「本当に君は行くのかい?」

その声はとても低く、暗く、この世のものではないようなものだった。

しかし私は、不思議と驚きも恐怖も感じず、それどころか、やっぱりという思いすらあった。

「本当に行くのか?」

その人はもう一度尋ねてきた。

「うん、行くよ。」

私は見えない相手に答えた。少しの沈黙の後その人は

「そうか。」

と呟いた。

「あなたは誰?」

今度は私が尋ねた。その人は考えるような声を出した後

「死神と呼ばれるものだ。」

と言った。

死神は本当にいたのだ。しかし私の心はこれを聞いてなお、全く動かなかった。

「君の両親や友達、担任の先生も悲しむんじゃないかい?」

死神は言った。

「そうかもね。でも私は彼に会いにいくだけだから。」

私は今日ここに、彼に会う為に来た。

彼とは、まあ普通に私の付き合っている人のことだ。

「そうか。君の中ではもう決まっているんだな。」

死神は残念そうに唸った。

気がつくと野球部の声は聞こえなくなっていた。かなり時間が経っていたらしい。

「そろそろ行こうかな。」

私は立ち上がり、ゆっくりと前に歩いた。

喧嘩は悪いことだ。いや、喧嘩ではなく私自身が悪いのだ。もはや、何が悪いかなどないのかもしれない。

私は柵を乗り越え、端に立つ。かなりの高さだ。高所恐怖症だった私にはここに立つことは無理だろう。

「最後に一つ。」

死神が口を開いた。私は死神の方を見なかったが、死神が私を見ているのは分かった。

「それは罪滅ぼしなのか?」

「ああ、そうだね。会ったら彼にちゃんと謝らないと。」


私は飛んだ。


このことはきっと昼のニュースになるだろう。そして私は彼のことを追った、悲劇のヒロインになるだろう。しかし誰も本当のことを知らない。私の本心は誰も知らない。


死神は彼女が飛んだ後、ぽつりと呟いた。

「死はとても美しい。この世に無意味な死など存在せず、一つ一つに意味がある。」

しかし死神は一瞬だけ後悔した。

彼女に教えた方が良かったのだろうか。

死んだ者にはもう二度と会えないのだ。



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