第14話

お互いを呼び合う名前が

「たま」「田川君」

から

「優里」「聡」

に変わった位だと思ってた。

そうだよね、恋人だもんね。

うっとりしている私に

「他人のキス現場見て、何でそんな顔してんの?」

呆れる石橋君。

私達にあんな可愛い時代は無かった。……筈。

「健ちゃんは、少し田川君の純情を分けてもらって来なさい!」

目を据わらせて言うと

「はぁ?キスはキスだろう?」

って言ってますよ!

(私、ファーストキスでいきなり舌入れられそうになって、あんたを引っぱたきましたよね!)

ギロリと睨み上げると

「繭花、男なんてみんな……中身は一緒」

ポンっと肩を叩かれ、溜め息を吐く。

何故、こんな遊び人を好きになってしまったんだか……。

それでも、石橋君は石橋君なりに大切にしてくれているのは分かっている。

でもさ、女の子なら一度位、あんな風に大切に大切に扱われたいよね。


泣いてばかりいたたまちゃんが、今は毎日笑っている。

「私も、あんなカップルになりたかったなぁ~」

思わず呟いた私に

「じゃあ、俺達もあんな感じにする?」

そう言われて、強く腰を抱き寄せられてキスをして来た。

ここは廊下で、いつ誰が通るかも分からない。しかも、ロマンチックの欠片も無い。

その時、小野君の言葉が脳裏を過ぎった。

「あいつ、バカでアホですんげぇ最低なんだよ」

そうだね、小野君。

勉強の頭の良さと、人の感性は違うんだろうなぁ~。

「はぁ……」

今度は落ち込む溜め息を吐いた。

「なんだよ!」

「もう良いよ。健ちゃんにロマンチックを求めた私がバカでした」

そう呟いた私に、石橋君はブツブツ文句を言っていたけれど……。


私にとって、二人は憧れのカップル。

お互いを大切に思い合い、寄り添う二人。


ずっと、ずっと……そんな二人で居て欲しい。


そう願わずには居られなかった。

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