第13話

それから色んな事があって、田上さん……たまちゃんと田川君が付き合い始めた時は本当に嬉しかったな……。

実を言うと……クラスでも、ほとんどの人が田川君の恋を応援していた。

(みんな田川君の気持ちに気付いているのに、唯一気付かないのがたまちゃんっていうのがね……)

思わず苦笑いを浮かべてしまう。

二人の距離がゆっくりと近付いて、いつしか並んで歩くのが自然になった頃、偶然、私は見てしまった。

その日は石橋君が進路相談で放課後担任に呼び出されていて、私は図書室で本を読んで時間を潰していた。

その時、渡り廊下を歩くたまちゃんが見えたので、本を返却してたまちゃんが歩いていた方へと向かってみた。

すると

「きゃあ!」

ってたまちゃんの悲鳴が聞こえて、慌てて声の方に向かうと、田川君が後ろからたまちゃんを抱き締めていた。

「びっくりした!」

驚くたまちゃんを

「ちょっとこっち来て」

って、実験室に二人で入って行く。

お邪魔しちゃ悪いな……って、図書室に戻ろうとすると、石橋君が隣に並んで

「なにしてんの?」

と声を掛けて来た。

驚く私に石橋君が口を開き掛けた時

「ちょっと!ダメだって!」

「大丈夫だよ。こんな時間に、誰も来ないって」

「ちょっ……ダメだって!」

ガタガタと何やら音がし始めて

(え!まさか学校で!!)

と、それはいくらなんでもイカン!と、石橋君と顔を見合わせて中を覗き込むと、窓側の席でたまちゃんをすっぽり後ろから抱き締めて座っているらしい。

(何故、らしいになっているかと言うと、私達からは田川君の背中しか見えない)

「優里、少し充電させて」

「私は電気か!」

相変わらずのやり取りが始まり、石橋君と目配せをしてそっとその場を離れようと歩き出した視線の隅に、窓から逆光を浴びた二人がゆっくりとキスをする姿が目に入った。

思わず立ち止まり見入ってしまった。

上手く表現出来ないけど……、まるで宝物に触れるように大切に大切に触れるキスがあるんだと思った。

他人のキス現場なんてハッキリ言って見たくないけど……、二人はまるで映画の中のワンシーンのように素敵だった。


「はぁ……」

素敵なシーンを見て、思わず胸いっぱいで溜め息を吐き出す。

二人は人前でベタベタしないので、友達と恋人の境界線ってなんだろう?と心配していた。

多分、たまちゃんなりに、亀ちゃんへの配慮なのかもしれない。

石橋君なんて、隙あらば直ぐに腰を抱いて来るけど、たまちゃんと田川君は並んで歩くだけ。

しかも、友達の時と同じ距離を保っている。

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