第12話

私は修学旅行の班がきっかけで、彼女が好きな人との事で悩んでいるのを知る。

いつもいつも明るい彼女が涙を流すのは、長塚君の事だった。

そんな彼女を何度となく慰めては、抱き締めたくて上げた手を、片方は握り締めて下ろし、もう片方を頭にポンっと優しく置いて切なそうに無理して笑う田川君を何度も何度も見掛けた。

時には、悔しそうに壁を殴って耐えている姿を見掛けた。


(早く……早く気付いてあげて……)


祈りに近い願いだった。

田川君を見ていると、まだ、石橋君と付き合う前の自分を見ているようだった。

自分の気持ちを素直に言えなくて、苦しくて切なかったあの日々。

決して人には見せない、田川君の苦しそうな顔が……見てるこっちも切なくさせた。


修学旅行の前日、買い物にみんなで行った時、偶然出会った田上さんと長塚君が楽しそうに会話しているのを、田川君が切なそうに見ていた。

そんな田川君を見ていられなくて、私達は田上さんを残して先にフードコートに移動した。

でも、田川君はフードコートでも落ち着かなくて、ずっと貧乏ゆすりしている。

「そんなに気になるなら、迎えに行けば?」

と呟いた石橋君の言葉に席を立ち上がった田川君に

「お!お迎えですか?」

ってからかう小野君。

田川君はムッとした顔をしながら

「便所だよ!」

と言いながら、トイレとは逆方向に足早に向かって行く。

「やっぱり……田川君は、たまちゃんが好きなんだね」

そう悲しそうに呟いたのは、田上さんのお友達グループの人だった。

恋の神様は、時に残酷だ。

あんなに全身で、長塚君が大好きだと語っている田上さん。

そんな田上さんを、可愛くて仕方ないと見ている長塚君。

あんな姿を見せつけられて、田川君が落ち着いて座っていられない気持ちも分かる。

そしてまた、そんな田川君を好きな彼女の気持ちも痛い程分かる。

複雑に絡み合う赤い糸に溜め息を吐くと

「でも、田上って面食いだったんだな」

と、ポツリと呟いた小野君に

「聡だって……!」

と言いかけた石橋君が、暫く考え込んでから

「身長しか勝ってないな」

って苦笑いしていた。

私がそんな石橋君に苦笑いしていると、ぎゃあぎゃあと言い合いながら、田上さんと田川君が現れた。

田上さんが傍に居ると、本当に良く喋るよね。田川君。

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