第11話

私と石橋君が付き合い出すと、須藤さんと中川さんは私を無視し始めた。

そうなる覚悟があったから、私は全然平気だったけど……。

田川君はショックだったようだ。

「あんなに仲良かったのに……」

と、呟いていた。

そして、中川さんも田川君に告白して

「好きな人が居る」

と振られたから、完全に私は悪者にされた。

私が須藤さんから石橋君を奪い、田川君と中川さんの仲を引き裂いたと噂が流れた。

(田川君が好きな人か……)

無自覚に、田川君の肩をバシバシ叩いて笑っている「たまちゃん」と呼ばれている彼女を見る。

普段は寡黙な田川君が、彼女と居ると多弁になるのには驚いた。

楽しそうに笑う田川君に、人の恋愛だと冷静に見られるものだなぁ~と思って眺めていた。

「なぁ、繭花。俺、聡の為に一肌脱ごうと思うんだ。協力してくれないか?」

意を決した顔をして言う石橋君に頷くと、田上さんの所に歩いて行った。

「なぁ、田上と添田。俺らと同じ班にならないか?」

添田さんと抱き合っている田上さんに言うと

「ら?」

「そう、俺ら」

と、石橋君は私も指差して訊いたのだ。

(あぁ、だから『協力して』なんだね)

と思っていると、隣で寝ていた田川君がむくりと起き上がってソワソワしている。

そんな田川君に全く気付かない田上さんは

「え?別に良いけど、男子は石橋君だけ?」

と、なんともつれない返事。

そんな田上さんに笑顔を浮かべ

「そんな訳ないじゃん。聡と俺と小野っち!」

そう答えた瞬間、田上さんの顔が一瞬引き攣った。その後、真顔で悩み出して

「もしかして、迷惑?」

って、石橋君が思わず訊いてしまう位に考え込んでいた。

(田川君……全く脈ナシか……)

と石橋君の隣で思っていると、田川君が明らかソワソワ度が上がっている。

何故か私に『お前からも!』的な空気を醸し出しているのには、笑いを堪えるのに必死だった。

「え?何で?そんな事無いよ」

そう笑顔で田上さんが答えると、石橋君はホッとした顔をして

「良かった~」

と言って

「田上達なら、繭花を任せられるから」

そう言って微笑んだ。

その瞬間だった。

「田川君、足!」

っと、田上さんがピシャリと田川君の太ももを叩いた。

「貧乏ゆすり、止めなさいっていつも言って居るでしょう!」

そう言って、バシバシと田川君の太ももを叩いている。

「痛てぇな!」

と言って田上さんの額を叩いている田川君は、嬉しそうだ。

好きな子に太腿叩かれて嬉しそうな田川君を、思わず生暖かい眼差しで見てしまう。

田上さんは、気付いて居るのだろうか?

田川君が親しげに触れているのは、田上さんだけだと。

田上さんを見る田川君の眼差しは、いつだって田上さんを大好きだと語っている事を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る