第8話

この日以来、廊下で、体育館で、石橋君は私を見掛けると声を掛けて来るようになった。

すると

「最近、石橋君が良く声を掛けて来るね」

と、須藤さんが言い出した。

「ねぇ、なんでだと思う?」

中川さんに言うと

「え~!そんなの、公ちゃんが好きだからだよ!」

そう言って、二人が私の顔を見た。

私が何も言えずにいると、須藤さんが私の手を握り締め

「石塚さん!この中の誰が石橋君と付き合っても、友達だよね?」

と言い出した。

「う……うん」

頷いた私に

「良かった~!」

と笑う彼女。

(そうか……。石橋君は、須藤さんと近付きたくて私に声を掛けて来たのか……)

妙に納得してしまう。

確かに、須藤さんは石橋君の歴代彼女達と同じタイプだ。

明るくて、好き嫌いがハッキリしていて美人。

しかも、ボン!キュッ!ボン!でスタイルも良い。

私のように、全部真っ平らなのとは違う。

「公ちゃんって、バービー人形みたいだよね」

須藤さんが大好きな中川さんはそう言うと、私の顔を見て

「石塚さんも可愛いよ!コケシみたいで」

って微笑んだ。

(コケシかぁ……。ぬりかべから出世した)

思わず嬉しくて

「ありがとう」

と答えると、二人は微妙な顔をしていた。

すると

「ま~ゆ~か~ちゃん!」

階段から、ヒラヒラと手を振る石橋君が見えた。

私達が見上げると

「相変わらず仲良しだね」

って微笑む石橋君の隣には、新しい彼女が並んでいる。

(高校に入って、一体何人目?)

びっくりして石橋君を見ていると

「健ちゃん、早く行こう!」

新しい彼女が石橋君の腕に腕を絡め、先を促す。

「またね~」

と手を振る石橋君。

なんだろう……。

石橋君、チャラさが増し増しになっている気がする。

そんな石橋君の後ろに、いつもの田川君と小野君がこちらをチラリと見て軽く手を上げた。

(相変わらず、3人組なんだな……)

って思って手を上げようとした瞬間、須藤さんと中川さんが手を振っている。

(あ……2人に手を振ったのか)

恥ずかしくて赤面していると

「公ちゃん!どうする?もしかして、2人にも好かれてるんじゃない?」

「やだ~!」

盛り上がる二人。

(いや……田川君はちっちゃい子が好きだから、須藤さんはタイプじゃないと思う)

そう心の中で呟いていると

「どうする?あの3人の友情が、公ちゃんのせいで崩れちゃうかもよ~」

「もう!止めてよ~」

と盛り上がる二人。

「石塚さんはどう思う?」

期待MAXの顔で見られて

「田川君、女子校に通ってる彼女居るよ」

思わず素直に答えてしまった。

その瞬間、須藤さんと中川さんから笑顔が消えた。

「だから?」

と中川さんに言われて

「あの……田川君、ちっちゃい子が好きだから……」

そう返すと

「あ!そうか。田川君、あややが好きなんだよ!」

と須藤さんが言い出した。

(中川さんは確かにちっちゃいけど……)

そう思いながら、歴代の田川君の彼女を思い出す。

どちらかと言うと、明るくてちょこまかしてる小動物系が好きだったような……。

中川さんは小さいけど、顔立ちがキリッとしているからなぁ~。

ぼんやり考えていると

「やだ~!石塚さんったら!」

って、盛り上がっている。

「じゃあ、公ちゃんと石橋君。私と田川君。小野君と石塚さんで遊びに行きたいね~!」

何故かグループ交際の図式が出来上がり、二人が盛り上がっている。

(田川君、付き合うと長いからなぁ~。今の彼女と別れないんじゃないかな?小野君も、確か彼女居たよな……)

心の中で呟き、まぁ……中学から知っている私だから知っている事だし、余計な波風は立てないに限る。と思っていた。

それが後々、面倒な事になるなんて、この時の私は思いもしなかった。

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