第7話
それから間も無く、席替えがあって田川君とも石橋君とも席が離れてホッとした。
3年生になり、クラス替えで石橋君とは別のクラスになって受験に追われる毎日。
いつかこの気持ちも消えるのだろと思っていると、受験会場にバスケ部の3人組の姿があった。
そして春が来て、入学式であの3人組を見付けてしまっい愕然とした。
離れれば……忘れられると、そう信じていた。
でも、想いは募るだけだった。
もう、みんなと楽しく笑い合った日々は返って来ないのだと、そう思っていた。
高校は部活動が自由だったので、私は部活に入らずにバスケ部を覗きに行ってみた。
経験者でも初心者でも、最初は基礎練から始めるみたいだったけど、しばらくしてから仲良しトリオは3年生の引退を待たずにレギュラー入りを果たした。
(凄いなぁ~、あの3人)
物陰から覗いていると
「ねぇ、同じクラスだよね?」
って声を掛けられた。
同じクラスの須藤さんと中川さんだ。
快活で明るい須藤さんと、そんな須藤さんが大好きな中川さん。
2人は石橋君を追いかけて、うちの学校に入学したんだとか。
そして私達は、3人で行動するようになった。
石橋君な相変わらずの人気ぶりで、高校生活でも早速蝶々のようにヒラヒラと美しい花から花へと渡り歩いていた。
私は受験と恋煩いで30kgの減量に成功(?)して、私を「ぬりかべ」と呼ぶような人は居なくなった。
そんなある日、いつもの如くバスケ部の練習を見に行こうとして、先生に頼まれごとをされてしまい、結局、練習を見に行けなかった。
ガッカリした気持ちのまま、家路を歩こうとした時だった。
足元にバスケットボールが転がって来て、つい拾ってしまう。
すると、体育館から
「聡の下手くそ!」
って笑いながら、石橋君が現れた。
石橋君は私の顔を見ると
「あれ?繭花ちゃんじゃん」
と微笑んでくれたのだ。
「え?」
驚く私に
「ボール、拾ってくれたんだ。ありがとう」
って変わらない笑顔を浮かべてくれた。
「どうして……」
そう呟き掛けて、喉が詰まったみたいに喋れない。
「痩せたね~。俺は、前の繭花ちゃんもす……可愛いと思ってたけど」
変わらない石橋君の笑顔。
声が出せなくて無言でボールを渡す私に、石橋君の笑顔が悲しそうな笑顔に変わる。
(違うの!緊張して、声が出ないだけなのに……)
素直に好きという感情が出せたら、もっと違うのかもしれない。
スカートを握り締めて
「ごめ……ん……なさ……い」
必死に絞り出した声が、蚊の鳴くような声しか出せなくて情けなくなる。
石橋君は私の声に気付き
「何で謝るの?」
ゆっくり近付き、首を傾げる。
「前に……私、自信なくて……八つ当たりしちゃって……」
必死に話す私に、石橋君は俯く私の顔を覗き込む。
「ほら……折角痩せて、益々可愛くなったのに、俯いてたら勿体無いよ」
しゃがんで私を見上げ、にっこり微笑む石橋君の笑顔が眩しい。
石橋君は、スポーツ万能で頭も良くて顔もかっこよくて誰にでも優しい。
そんな人が、私みたいな地味な人間にも優しいから、人気があるんだと思う。
「ずっと……謝りたかったの」
そう呟くと、石橋君は驚いた顔をしてからゆっくりと微笑むと
「そっか……。嫌われたんだと思ってた」
ボールに回転を掛けて上に投げ、キャッチするを繰り返して呟くと
「じゃあさ、又、話しかけても良い?」
そう言われて、コクコクと頷く。
するとフワリと笑顔を浮かべて
「良かった」
と呟くと、一際高く上に放ったボールをキャッチした。
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