第6話

「健太となんかあった?」

 突然、田川君に言われて驚く。

「何で?」

「いや、なんとなく?健太が落ち込んでるみたいだから」

そう言われて石橋君を見ても、いつものように綺麗な女の子をはべらかせているだけ。

「そうかな?」

首を傾げる私に

「石塚って、健太が好きなんだよね?」

どうしたのか、普段はあまり喋らない田川君が多弁だ。

「どうしたの?」

驚いて聞くと

「いや、ちょっと気になって」

そう答えると

「まぁ、お節介は性に合わないから……良いっか」

と呟くと机に突っ伏して寝てしまう。

バスケ部は朝早くから放課後も練習が厳しくて、田川君は昼休みは練習か、練習の無い日はほとんど寝ている。

私は机から本を取り出し、読み始めた。

活字を見ると、心が落ち着く。

沈んだ気持ちを起こすように、本の世界に没頭していると

「繭花ちゃん」

って声を掛けられた。

慌てて顔を上げると、石橋君が立っていて

「先生が呼んでたよ」

と言われた。

「ありがとう」

本を閉じて席を立つと

「あのさ……」

って石橋君が何かを言い掛けた。

私が疑問の視線を向けると、石橋君は小さく笑って

「ごめん、なんでもない」

と答えた。

これが、中学時代で私が石橋君と会話をした最後になってしまうなんて思いもしなかった。

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