最終話 想い合う日々

 それから一年弱でグゼン国との戦争は終結した。

 最終的には協定が結ばれただけの、無益な戦争であったようにヘイカーは感じた。もっとも、ヘイカーが知らぬだけで、なんらかの取り引きがあったのかもしれなかったが。


「おかえり、リゼット」

「ただいま、ヘイカー!」


 クルーゼ家で勝手に待っていたヘイカーは、久しぶりに会う妻を迎える。リゼットはヘイカーを見た途端、涙を滲ませ飛びついてきた。


「会いたかった、ヘイカー!」

「オレだって! 毎日毎日、気が気じゃなかったんだからな!」


 抱き寄せて、抱き締めて、キスをして、顔を見合わせてもう一度抱き寄せる。リゼットが今、手の中にいる。リゼットが無事だという新聞の報道なんかよりも確実に、その手の中にある温もりを感じて安堵した。


「ヘイカー、結婚届は提出してくれたの?」

「あったりまえだろ! 俺達、そろそろ結婚一周年記念だよ」

「そう……新婚というものに、憧れていたんだけど」

「新婚、だろ!」


 ヘイカーはリゼットを抱き上げ、お姫様抱っこをした。いきなり体が浮いたリゼットは、小さく悲鳴を上げる。


「ヘイカー!?」

「お姫様、どうぞこちらへ」


 ヘイカーは移動し、広間に向かった。そこにはクージェンドが柔らかな笑みを浮かべて起立している。


「おかえりなさいませ、奥様。旦那様と共に、ご帰還を待ち兼ねておりました」

「クージェンド……苦労をかけたわね。ごめんなさい」

「もったいないお言葉でございます」


 ヘイカーの腕からスルリと降り、労いの言葉をかけるリゼット。クージェンドは嬉しそうに目を細め、「では始めましょうか」と、リゼットとヘイカーの間に移動した。


「始める? なにを?」


 首を傾げるリゼットをよそに、二人は真剣な表情で……しかしどこか含み笑いをしながら、ヘイカーは膝を折り、クージェンドは小さな箱を開いた。


「……ヘイカー、それは」

「あん時は、用意する暇もなかったからな」


 ヘイカーはクージェンドが持つ箱の中から、光り輝く指輪を取り出した。リゼットのように、透き通ってキラキラと輝くダイヤモンド。リゼットの指にはこれが一番相応しい。騎士隊長という立場の彼女に、半端な物は贈れないと判断してのこの選択だ。

 ヘイカーはリゼットの手を取り、彼女の薬指にそっと指輪を嵌めた。


「オレと結婚してくれてありがとう。これからも、ずっとオレの嫁さんでいてくれ」


 リゼットはその指輪を見て、涙を流しながら微笑んでくれている。


 新婚のやり直しをしよう。

 リゼットが騎士を引退するまで、オレがリゼットを支えよう。

 そしてずっと、死ぬまで夫婦でいよう。


 ヘイカーの囁きに、リゼットは一言だけ応えてくれた。


 愛しています、と。






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君を想って過ごす日々 長岡更紗 @tukimisounohana

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