區域の殿-5thチルドレン-

 なんだ【wizzard-魔法遣い-】。

 異形がヌッと少年を見下ろした。


 「區域の殿はご健在ですか?」少年がそう聞くと、「區域の殿か...多分お前が言っている存在とは少しズレているが、同じ名前のものがいるよ」と向こうを指さした。


 確かにこの場所は以前来たところと形状が違う。座標は同じだけれど、異かいは時に全くかけ離れた空間を提供する。恐らく、僕がそう願ったのかも知れない。


 いつもの住宅街より少し違った低いビル街を歩くと、確かに區域の殿がいた。

 「やあ【wizzard-魔法遣い-】久方ぶりだ」そこには5人の子供がいた。それぞれに全く容姿が違うのに、同じタイミングで同じ言葉を口にする。声量は違っているのでまるで讃美歌を歌う合唱団の様だった。


 「區域の殿、僕を知っていますか?」少年がそう言うとああ、知っているよと5人の声が木霊した。

 

 「ただ、違う」そう声が続いて、僕は言葉を選ぶことにする。「違うとは?」


 「周波数と言っていいし、位相相違性があると言っていいし、相対性の揺らぎの結果と言っていい」讃美歌がそう言うので、僕は話を戻すことにした。


 「いい判断だ。続けて」木霊がそう言うと「以前契約料として発生した緑の繊維の解析が終わりました。あれは僕らの概念では定義出来ない遺物として保管されました」と伝えた。


 「そうか。対価として受領してくれ。こちらの不手際は罰を受けている」


 「そうですか」と短く答えた。


 「人を喰ったアレは、我々の処罰を受け入れ、人間性を学ぶ制約を課されている」子供たちはそう言った。笑みがこぼれる。その笑みは何所か無機質で、感情がないみたいだ。


 「・・・僕らの世界にいると?」少年の顔が険しくなる。


 「そうだ」子供たちは笑みを保ったままだ。


 「処置とはどんなものですか?我々の契約書に違反する疑いがあります。抵触した際は追加の違約金か、罰則が追加されます」憮然とした態度で契約書を取り出した。


 「安心しろ。それはない。アレは今、完全な人間の子供として機能している。自分が喰われる立場にいるよう手配され、怯えながらお前たちの社会にいるのだ。そしてその立場に似つかわしい場所にスポイルされている」


 「この子供たちは?」との問いに子供たちが一層笑みを深めて「ああ、我々由来のものだよ」と答えが返ってきた。

 

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