死ににくい彼女

 口から朱い糸が出て、息も荒く目まいが程よく頭をかき乱している。なんとも恍惚とした恐怖を自分に与えるのでその苦みはなにものにも例えようがない...


 「眠りたい」彼女がそう言うので、ワタシは彼女に伝えた死なない程度に休むことだ。彼女は口角を上げて吐血しながら静かに笑った。


 回復薬がないのか?彼女に問うと小さく返答があった。ワタシは少し逡巡すると彼女の肉体の【coal tar-魔素-】を増殖させ致命傷の止血帯、結紮(けっさつ)を筋肉繊維から生成した。彼女の呼吸が少し落ち着く。次に整復手術に近い治癒を行い、骨格の損傷や変成を整える。


 「う...」彼女の瀉血を行い、命の前借をした。体に借金をした彼女は最後にメトフェロンに近い作用がある鎮痛剤で痛みを和らげる。


 魔力を異かいから抽出するまで意識が戻ると彼女は魔法の杖をホルスターから取り出した。


 溶けた甘いチョコレートがそのまま停止したかのような先端、石のような質感の杖がそれを絡め取って彼女の手先に宿っている。彼女は赤い口元で囁いた。


 「腐臭の連鎖、滴る紫、喪失の心、青い肉片、意思のない眼」


 その呪文の羅列から連想された魔法が自身を脅かす存在へと飛んでゆく。その敵性存在はその呪文で体が腐敗し皮や筋繊維や血管や神経を崩壊させゆっくりと溶けていった。その液体がまるで生き物のように何度か脈打つと静かになった。彼女は近くに落ちている装備品や液体で濡れた装飾品を引きちぎると目の下のクマをより一層深くして建物に寄りかかりながら姿を消した。

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