【magible-魔法の書-】

 「例の魔法書は見つかったかい?」声がそう言う。まだ見つからない、そう応えると影はしっとりとした動きで鎧張りのような服を揺らした。服と呼称する以外に表現がうまく出来ないその姿かたちは、人智を逸脱している為形容するのに時間が掛かる代物が多い。薄暗い陰影を好むので、その輪郭を固定するのに作業時間を割くことはしたくない。


 そんな不確かな存在が数多ある中で、唯一稀有で分かり易い部類に入るのが【magible-魔法の書-】と謳われる書物。魔法の因子、或いは妖精素子と呼ばれる観測不能な性質を含有したモノで構成されている。


 「これだけの本が幾重にも存在するのに、君はその書物を掛け合わせる手法を確立した。あまりに異端で禁制すべき方法だが、魔法遣いと言う生き物の在り方としては悪くない。例え理を崩壊する事象になっても、君はその崩壊した世界の後も粛々とその腕を研磨し続ける異端たれ」声が勝手に話を続ける。


 「悪くないたとえだね。悪くない」まるで呪いを絞ったような糸で製本の作業を行う。質素な容姿の魔法装飾師は黙々と【magible-魔法の書-】を生成し続けた。禁書と呼ばれるものもあれば、階級の低い【wizzard-魔法遣い-】が利用する書物も手掛ける。ある意味でとても親切で真っ直ぐな信念を持っている。しかしその信念は決して善では無いし、命や概念が消失したり様々な弊害が誰かの世界を崩壊させても曲がる事も決してない。その事で自身になにがあっても構わないと思っている。


 「それでいい。その方がいいのだから」誰とも言えない声がする。

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