第一章 君の身体で歩みだす人生

1-1 4月8日 午前8時24分

今日は寝起きがとても悪い。


さき姉に無理矢理起こされたのもあるがそれ以上になにか気持ちがムカムカしている。


表現として正しいのか怪しいが夢の中に何か忘れてきたような感じ。

ただ内容までは思い出せない。



「柚希!動かないで!」


「いや慣れないんだから仕方ないだろ」


「退院してから1週間も経ったでしょ。入学式から遅刻したくないなら動かずにいて。その方が早く終わるから。」



俺は今ひとつ上の姉 「西岡咲季」

今俺はさき姉に髪の毛をセットしてもらっている。



「はい終わり、崩れてきたら自分で櫛で直してね」


「はあ、何でこんな身体に、、、っていてっ」



さき姉は俺の頬をつねってきた。



「その容姿をこんな身体って言ったことと、ドナーになってくれたその身体の元の持ち主に失礼だからつねりました〜」


「はいはい、すいません〜以後気をつけます〜」



そんなやりとりをして俺は洗面に行き鏡に映る自分を見つめた。


黒いセミロングの髪、長く凛としたまつ毛、つぶらなひとみの大きな目、その目の下にある小さなホクロ、筋の通った鼻、透き通った水のような唇、鏡に映る自分は美人や可愛いでは言い表せれないほど可憐だった。



「何見惚れてんの」



後ろからさき姉が声をかけてきた。



「いや、綺麗だから見惚れてんだよ」


「そりゃね。うまくやれそ?」


「わかんねえよ、だけどやるしかないだろ」


「別に髪切って男として生きる道もあったのに」


「いや、それはしたくないんだよ、何でかはわからないけど」


「そっかそっか。まあ柚喜のしたいようにしなさい、じゃあ私先行くから、がんばりなさいよ!あれだけ練習付き合ってあげたんだからね」



はあ、気が重い。無意識に目を閉じて下を向いてしまうほどだ。

まあ凛太郎がいるのが唯一の救いだが、、


もう一度顔を上げて鏡に映る顔を見た。疲れた顔をした美少女が映る。

不思議なことに他人の顔を見ているという感覚にはならない。

俺の脳はこの身体をすでに自分の身体と認識できているようだ。



「行ってきます」



弾けるような高い声で俺はこの身体になって初めてその言葉を口にした。



「いってらっしゃい」



一瞬間を置いて母さんの返事が聞こえてきた。


多分だが一瞬、違和感を感じて戸惑ったんだろう。


俺は「西岡柚喜」としてではなく「西岡柚希」としての人生を不安に包まれながら扉を開けてスタートさせた。

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逢いたいから君とこの人生を愛す 葉瑠 マキ @megayabai7

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