第30話「町を出ていく、魔王と出会う」

「おや、出て行くのかね?」


 町の出口には老人が一人座って待っていた。


「あなたは?」


「ワシはジョー・ボルト、この村の長老じゃよ」


「へー、それで長老さんがなんで出口で待ってるんですか?」


「門番みたいなものじゃよ……ワシも若いことは魔王軍と戦ったものじゃがのう……」


 この人、なんだか深く関わると面倒なことになりそうな気がするな。逃げるべきだろう、心の底がそう叫んでいる。


「ジャンヌ! 行くぞ!」


「ふぇ!? 待ってくださいよぅ!」


 俺がジャンヌの手を引いてその場を離れた。その後、昨日酒場で出会った男が長老と話しているのが遠目に見えた。やはり目立ちすぎたようだな。


 そういえばこの前聴力に関するスキル付与されてたな……


『有効に出来ますか?』

『バッチ来いですよ! お勧めを盛っておきますね!』


『『指向性聴力』取得、『聴力強化』取得『ノイズ除去』を取得しました』


『出口の会話が聞きたい』


『わっかりました~』


「長老! 引き留めるんじゃなかったのか!」


「あの若者達はワシの手にはおえんよ、あんただった自分の手に負えないからワシに頼んだんじゃろ?」


「くっ……長老でも無理か……」


「まあ魔王討伐なんぞそうそう出来ることでもなし、焦る必要も無いじゃろう?」


「あの二人ならやりかねませんよ! 若者が死に急ぐの放置するのは……!」


「死なんよ」


「えっ!?」


「あの二人は死なん、まるで神の寵愛を受けているようじゃったからの……」


「何か分かってるんですか?」


「なに……ワシも昔は神童と呼ばれたものじゃ、そういう存在は分かるんじゃよ」


「本当ですか……?」


「さあての……」


「長老!」


「冗談じゃ、あの二人なら魔王に負けることは無いじゃろ」


「信じますよ?」


「ワシの目の黒いうちは信用してくれて構わんぞ」


「明日死ぬかもしれない人間がそう言われても困るのですが……」


「言うのう! ガキじゃったころとは大違いじゃわい!」


「昔のことはいいでしょう……」


「はん、しかしもったいない人材を逃したのは確かじゃの、酒でも飲んで忘れるぞ、ついてこい! 稼いだんじゃろ? 年長者に奢れ」


「はぁ……分かりましたよ」


 そこで聴力強化のスキルを切った。あの人、結構な大物だったんだな。しかし魔王討伐かあ……やる気も無いのに押しつけられたなあ……


「ソル? どうしたんですか?」


「いや、なんでもない」


「なんでもないって顔をしてないじゃないですか!」


「お前は本当にそう言うところだけは嗅ぎつけるのが上手いな……」


 ジャンヌとのやりとりを少ししてから再び旅路についていた。そして半日くらい歩いたところで少女が倒れていた。唐突に荒野に倒れていたので思わず見過ごすところだった。


「なんでいきなり女の子が倒れてるんですかねえ……」


「俺に聞くなよ……」


『鑑定を使用します』


『魔王、ステータス『空腹』『損傷』『魔力損耗』』


「どうしたんですか? ソル?」


「いや……その……」


「助けますよ? ほら! 起きなさい! エリクサー飲みなさい!」


 ジャンヌは少女の正体に気が付くことなくエリクサーの瓶を口に差し入れて流し込んだ。目を白黒させていた魔王もすぐに全快したのか元気な顔になった。


「なんじゃお主らは! ワシは人間なぞに頼るわけには……ヒィ……」


「どうかしたか?」


『魔王、ステータス『混乱』』


 さっきから怒濤の展開なのに脳内がうるさいな……


『あー……ソルさん……大変言いにくいことなのですが、そちらが魔王になります……』

『はぁ!? なんでこんな何も無いところに捨てられたように魔王がころがってるんですか?』

『魔王というのは魔力の源であって魔族の力の源ですが、魔族を総ているわけでは無いですから……それとたぶん私が後輩に捨て……あげたゲームに魔王がフィールドで通常モンスターと変わらずポップするクソゲーが混じっていたのでそれのリスペクトでしょう……』


「えぇ……」


 魔王が通常エンカウントするゲームなんてあるのかよ……レトロゲーの時代でも魔王は専用イベントがあったぞ……


「どうしたんですか、さっきからおかしいですよ? 早くこの子を助けましょうよ?」


「あ、ああ、そうだな」


 彼女をテントに寝かせて睡眠魔法を使って意識を落としてジャンヌと話し合うことにした。


「じゃあ、あの子が魔王だって言うんですか?」


「そうだ」


「冗談は程々にして欲しいですね。あんな魔王がいるわけ無いでしょう! 魔王と言えば昏くそびえ立つ城の中で勇者を待っているものですよ?」


「いや、普通はそうなんだがな……」


 まさか地球産のクソゲーのせいでその辺で魔王と出会う仕様になっているとは言えない。しかし神様も何も言ってくれないな……


「じゃああの子を倒せば勇者になれるんですか?」


「そうなる……と思う。でもお前アレを殺せるのか?」


 テントの中にいる黒髪の少女を殺せるか? それは大変難しいことだ。ジャンヌだって最低限の倫理観は持っているらしく押し黙った。


「お主ら! よくぞ我を助けた! 魔王として礼を言うぞ!」


「マジで魔王じゃないですか……」


 げんなりするジャンヌだが俺は魔王を倒したいとは思わなかった。この子を殺すのは良心が痛むし……


『神様……魔王ってリポップしませんか?』


『さあ? 何の事でしょうね~? ソルさん! スキルは今まで通り渡すように後輩に引き継いでおいたのでそちらでの生活楽しんでくださいね~!』


『逃げんなよ!』


『プツッ』


『神界との回線が遮断されました』


 マジかよ……あの神はこの状況で投げ出しやがった!


「ちょっとソル! 本当にどうするんですか?」


「あー……魔王だったかな? 名前は?」


「無いぞ!」


「は?」


「神のやつがそんなものつけなかったんじゃ! 一応『ああああ』という札が生まれたときに手にあったがの、意味が分からんので捨てたわい!」


 神様はクソゲーマニアなのかな? つーか魔王の名前を適当につけやがって……まあリポップするような存在に一々名付けるのも面倒だったか……


「じゃあ名前をやる、『マオ』でどうだ? 名前がないと不便だからとりあえずそう名乗れ」


「ふむ、命の恩人じゃしの……分かった! 我はマオじゃ」


「あと、俺たちの旅に付き合え、魔王討伐の旅だ」


「ソル!?」


「我を倒す気かの!」


「お前を倒す気がないから付き合えって言ってるんだよ」


『ソル……どういうつもりですか? 魔王と旅をするなんて前代未聞ですよ!?』


『コイツは魔王の一体だ……倒しても別の存在が現れる』


『なんでそんなことに詳しいんですか……?』


『神託……だよ』


『あなたが言うと嘘とは思えませんね……』


『とにかく、俺たちが魔王を確保しているあいだは新規で魔王が出てこないし、潰して回るより管理下に置いた方がいいだろう?』


「なーにをコソコソ喋っておる! われと戦う気かと聞いておる!」


「そんなつもりは無いさ、それより俺たちと旅をすれば安全に生きていけるがどうする? ちなみに俺はここでお前を殺すだけの力を持っている」


 少し凄んでみるとマオはドン引きしていた。


「お主からは神の匂いがするのじゃ……アレの加護を持ったやつとは戦いとうない……」


「じゃあお前も仲間な!」


「ソル! 私の意見は!?」


「お前がこれを殺せない程度には倫理を持っていることは知ってるよ」


「お主は我と戦う気か? お主からは神の匂いがせんから戦ってやってもよいぞ?」


 ジャンヌもため息を一つついて諦めたように言った。


「分かりましたよ! マオ! あなたは私たちの仲間です!」


「よろしい」


「うむ、お主らと一緒なら我も討伐される心配はなさそうじゃ!」


 こうして俺とジャンヌ、そして立場上魔王であるマオとの旅は始まった。旅のための旅であり、そのたびには終わりはない。それ以降、魔物の暴走は減り魔族との衝突も減ったそうだが、その原因がどこにあるかは研究をいくらしても分からなかったそうな。


 おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王討伐を頼まれたのでチートをたくさんもらおうと神にごねたら世界最強に転生しました、討伐したら元に戻してやると言われたので魔王軍から全力で逃げます スカイレイク @Clarkdale

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ