第3話 レッツキャンプ! 「お兄ちゃん、夏の思い出作っちゃお?」 幼馴染みで妹みたいで。最近小悪魔なあの子。

 青春だ、弾けるようなキラキラがいっぱいの夏休みだよ。


 美優は大好き、夏!

 大好き、夏休み!

 大大大好き、お兄ちゃん!

 

 美優は、今日は大好きなお兄ちゃんとキャンプに来てま〜す!


 晴れて暑くて陽射しが眩しすぎちゃうよ〜。


 でもね、二人っきりじゃないのが残念っ!


 今日こそは、お兄ちゃんに美優のファーストキスを奪ってもらうんだから〜。

 キャンプだもん。きっといい雰囲気になってお兄ちゃんも美優にチューしたくなっちゃうよね。

 このチャンス、絶対逃したくな〜い。

 カズくんの邪魔さえなければきっと、ロマンチックな星空の下でラブラブな空気になれちゃうよねっ!?

 ねっ? お兄ちゃん!


    ◇◆◇


 うちのパバママとお兄ちゃんのお父さんお母さん、それから美優と同い年でお兄ちゃんの弟のカズくんの七人で夏休み旅行をするのは毎年の楽しみな恒例行事だよ。


「今年は美優の誕生日のお祝いを兼ねて、オープンしたての海沿いのキャンプ場にしたからな。お楽しみに」

「お兄ちゃんが予約してくれたの?」

「そうだよ、夜は近くの浜辺で打上花火がちょうど上がるから」


 車はパパがワゴン車をレンタルしてきたから、みんな乗れちゃう。

 目的地までの運転は大人とお兄ちゃんとで代わりばんこでしてくれるんだよ。

 私はお兄ちゃんの運転の時だけ、助手席に乗せてもらっちゃうの。

 お兄ちゃんが車を運転してる姿を真横から見られて眼福〜。真剣な瞳で運転する横顔にドキドキ。格好良くて、大人の男の人って急に感じて、胸の鼓動が高まっちゃう。

 チョコのスティック状のお菓子や長い棒状のポテトを「お兄ちゃん、あーん」とかして食べさせてあげちゃった。

 すぐ後ろの席のカズくんが例のごとく邪魔してくるけど車内だし危ないから口の攻撃だけなので、ウフッ、かわしやすい。

 カズくんもそういうとこはわきまえてて偉い偉い。

 さすがお兄ちゃんの弟だ〜。


「美優、太一兄にあんまり寄りかかったら危ないだろ?」

「は〜い」

「美優ったらホントに太一くんが好きねぇ」

「ママ、美優はお兄ちゃんひと筋だから」


 う、嬉しいけど俺、なんとも恥ずかしい。

 ……親勢ぞろいだし、ふーっ、返しに困るなあ。


 結局、美優の誕生日プレゼントは和臣たっての希望で二人でデパートのアクセサリー売り場で選んできた。

 美優に何度誕生日プレゼントは何が良いかって訊ねても「……お兄ちゃんとファーストキスが良い」って言われてしまうから。

 プレゼント、喜んでくれると良いけどな。




 キャンプ場に到着すると手際よく準備をしていく。

 この気心知れたメンバーで毎年キャンプには来ているから、手慣れたもんだよな。

 新しく出来たばかりの整備されたキャンプ場はいたれりつくせりで、売店も温泉施設も併設されている。トイレは綺麗だってレビューもあったから大丈夫。ロッジやグランピングも完備。もちろん自分たちでテントを張れる場所も予約制なので場所取りの心配はない。適度に植えられた大樹の木陰にテントを張ってタープを張って、昼のバーベキューの支度をする。

 野菜に海鮮にお肉にと途中の道の駅の直売所で土地の特産品を買い込んだ。

 食材や飲み物が足らなくなったら、キャンプ場の売店で買えるから問題なし!

 事前にあれこれ本やネットや口コミとか友達に聞いたりだとかで、色々調べてから決めて良かった。

 事前のリサーチはバッチリ!

 だって美優に不自由な思いはさせられないからな。うん、偉いぞ、俺。


「御飯が出来るまで、貴方たち海で泳ぎに行っても良いし、遊んで来ても良いわよ〜」


 ナイス、母さん。今日は美優の誕生日だから、カズとサプライズでプレゼントを渡したいって相談したかいがあったぜ。


「は〜い。お兄ちゃん、カズくんどうする? 三人で何して遊ぶ〜?」

「美優、太一兄。あそこで肝試しが出来るらしいよ」


 和臣が指差した方を見ると、キャンプ場の一画に農業体験場と鬱蒼としたトウモロコシ畑があってそこに「迷路&肝試し大会」と看板がある。

 受付には若いバイトの男女がにこにこしながら二人座ってる。


「ポイントに着いたら置いてあるトウモロコシを持ってゴールしてください。トウモロコシは差し上げま〜す。朝採れで甘くて美味しいですよ。ぜひぜひご参加くださ〜い」


 肝試しかあ。ちょっと怖いけど暗くないしお昼だし、本物のオバケは出て来る心配はないよね?

 これはお兄ちゃんと美優が二人っきりになれるチャンスじゃないっ!?


「お兄ちゃん、カズくん。美優ね、肝試し行ってみたいなあ」

「美優はオバケが苦手じゃないか。そこのトウモロコシ畑のトウモロコシは俺たちの背丈を有に越えてるぞ。中は薄暗いんじゃ?」

「美優、三人だから心配はないんでしょ? 太一兄の方向音痴の方が僕は心配です。さっ、行こう行こう! こんな体験、いい夏の思い出になるよ」


 そう言ってカズくんは私とお兄ちゃんを引っ張って行く。

 私は成り行きで、右手はお兄ちゃんの手と繋いで左手はカズくんと繋ぐ。

 二人は美優が怖くないように真ん中にしてくれたみたい。


 ドキドキ。

 お兄ちゃんと繋いだ手が嬉しくてときめいてる。

 ドキッ、ドキドキドキ。

 オバケは怖い。

 偽物だって分かっているのに。


「大丈夫だよ、美優。俺と和臣で守ってあげるからなっ」

「そうだよ、怖がらないで。美優のことは僕らが守るからね。まっ、怖がってる美優も可愛いけどね」

「カズくん、からかわないでよぉ」

「からかってなんかないよ。……僕はいろんな表情の美優が見れて嬉しいから」

「その言葉は照れるな。むず痒いぞ、和臣」

「なんで太一兄が恥ずかしがるんだよ。僕は美優に言ってるの!」

「ははははは」


 なんだかんだ、お兄ちゃんとカズくんは兄弟で仲が良いよね〜。

 美優は一人っ子だからこういう時、羨ましくて寂しくなる。

 一人だけ置いてかれたみたいに。


「どした? 美優。なんか顔が暗いぞ〜。まだオバケは出て来てないけどな」

「美優はどんなオバケが出るか緊張してるんだよね?」

「ううん。……私ね、美優は二人が羨ましいの」

「「ええっ!?」」


「俺と和臣が?」

「嘘だ〜。僕と太一兄なんかの関係が?」


「「美優が羨ましいだって?」」


 俺と和臣の声に、美優はこくんと頷いてそのままうつむいた。


「信じられん。うちはそんな兄弟睦まじくもないぞ。いたって普通普通」

「お兄ちゃん、カズくん。分かってないんだよ。二人はとっても仲良しだもん。贅沢なことなんだよ。いつも楽しそうだし、笑いあってるし。そんな二人は血の繋がった正真正銘の兄弟で絆があって。時々、美優は心がポツンてなるの。……あのね。美優もね、兄妹が欲しかったな〜って思い出したの。二人みたいな仲良しの兄妹が欲しかったんだ」

「美優は俺たちの妹みたいなもんじゃないか」

「そうだね。美優は家族に近いよ」

「ぐすん。ホント? ……ありがとう。ぐすん……、お兄ちゃん、カズくん」

「ねぇ美優、僕と太一兄のどちらかと結婚したらさ、もれなく兄弟が出来るよ?」

「そっか。うんっ、そうだね」


 まだ入口付近、立ち止まったトウモロコシ畑の通路で次々と三人の横を他の人たちが通り過ぎていく。


「泣いてるの? 美優」

「な、泣いてないよ」


 家族連れがそばを通る時「まだ入ったばかりであのお姉ちゃん泣いてるよ〜」と小さな子が心配そうに眺めていった。


「美優、元気出せ。……ハッピーバースデー美優」

「――えっ?」


 お兄ちゃんがパーカーのポケットから小箱を出して、私の手に握らせる。


「も〜! 太一兄、こんなトコで〜。まさかのタイミングじゃんか。花火大会の時にしようって言ってたのに」

「ごめん、ただ泣いてる美優を見てたら慰めてやりたくなって。いつもの美優の笑顔が見たいなってさ」

「……お兄ちゃん。ありがとう、美優嬉しい」


 チュッ。


「「――えっ?」」


 太一兄が美優のほっぺに口づけた!


「キッ、キスしてんじゃん、抜け駆けじゃんか! ずるいじゃないか、太一兄」


 僕も慌てて遅れを取るまいと美優のほっぺに軽いキスをした。

 やわらかい頬の感触に頭がぽわんとなる。


「えっ、えっと〜」


 お兄ちゃんとカズくんの二人がいっせいに私を見つめてる。

 笑顔が眩しい。

 胸がきゅうぅんっとなる。

 ときめきで切ない。

 疼くように。

 とくんとくんと打つ鼓動は早くて幸せな胸の甘い痛み。


 なんだろう、私。

 お兄ちゃんにも当然ドキドキしてる。

 それから、えっとえっと……。

 カズくんにも? ドキンとしてる。


「後で俺と和臣からのプレゼント開けて着けてみて」

「太一兄! 美優に『着けてみて』とか言っちゃだめじゃん。プレゼントの中身がだいたい何だか美優にバレちゃうでしょう?」

「あっ? そっか悪い悪い」

「ありがとう! 二人とも」


 ――ちゅっ、……ちゅっ。


 美優は背伸びをして素早くお兄ちゃんの唇を奪った。立て続けにカズくんの唇も奪っちゃった。

 ぽかんとした顔、呆然とする二人の顔がおかしくて。


「二人に美優からのお礼だよっ」

「お、お礼って、お礼って……。美優っ、俺と和臣に、……キキキ、キスしたよなっ?」

「美優、なんでそんなに平気そうなのっ!? 僕と太一兄には大事件なんですけど……」


 平気なわけないじゃん。

 わざと澄ました顔にしてるだけ。

 美優だって恥ずかしいよぉ。

 ドキドキが止まらないんだから。


 夏がいけないの。

 誕生日がいけないの。

 美優を、大胆にさせてしまうよ。

 ……けど、ほんっとの本当は、うーんっと焦ってるの、恥ずかしいのっ。

 めっちゃ、顔が顔が熱〜い!


 美優の誕生日はまだまだこれから。

 時間はたっぷりあるし、イベントは盛りだくさん。

 お兄ちゃんともっとも〜っとラブラブになれそうなシチュエーションが待ってる?


「お兄ちゃん、夏の思い出た〜くさん作っちゃお?」

「あっ、ああ……」

「僕もいるんですけど」

「花火大会のあとは星空デートしようね? お兄ちゃん!」


 私、今年はすごく素敵な最高の記念日になりそうな予感がしてる。


 美優ってば――

 もうファーストキス、しちゃったんだ。

 お兄ちゃんと、とうとうキスしちゃったんだね!?


(ついでにカズくんにもキスしちゃった、どうしよう。……うーん、お礼だからね、お礼だよっ! そうそう、うんうん)


 えっ、もしかして。やだ、美優ってば記念日なのにロマンチックに欠けてたかな?


 だってお兄ちゃんったらね、なかなか美優にキスしてくれないんだもん。

 いいかげん、我慢の限界だったんだから。

 うふふっ。美優、お兄ちゃんとの念願のファーストキスしちゃった!


 スキがあったから、チャンスだったから。

 これを逃したら、美優には当分こんなタイミングないって思ったんだよ。


「バーベキューも花火大会も楽しみだね。二人とも行こっ。まずは肝試しを楽しまなくっちゃ。お兄ちゃんもカズくんも私を守ってくれるんでしょう?」

「あっ、ああ」

「……もちろん。守るよ」


 私は二人と繋いだ手をぶんぶん振った。

 お兄ちゃんとカズくんの顔も真っ赤になっていた。

 夏の陽射しのせいばかりじゃない。


 これって美優のせいだよね?



 幼馴染みで妹みたいで。最近小悪魔なあの子。

 太一と和臣、兄弟の気持ちはざわざわと落ち着かない。

 美優のことでいっぱいな夏休み。



    おしまい

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「お兄ちゃん! 美優ね、誕生日プレゼントに欲しいものがあるの♡」 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

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