第2話 嫉妬! 恋のライバルは家庭教師でお兄ちゃんな美味しいポジションなわけで
「うわっ! な〜に二人でイチャイチャしてるんだよぉ〜っ!」
僕を差し置いて!
「わわっ!
「カズくんっ!」
僕がガラガラッと美優の部屋のドアを開けた先――
目に飛び込んできたのは、大好きな女の子が他の男に抱きついてキスをせがんでる姿だった。
ガーンッと衝撃が僕を襲う。
美優の家のドアは三世帯同居でバリアフリーな家であちらこちらのドアは引き戸なのだ。
僕は毎度のことながら勢いよく開けてしまったが、美優にドアが当たることはないのです。そこはいつもながらホッとします。
僕が家に帰ったら大学が休講で家にいるはずの太一兄の姿がなく、急に悪寒と胸騒ぎがしたので駆けつけたのだ。
恋の第六感ってやつ!
またしても僕は、恋のライバル『自分のお兄ちゃん』に先を越されてる。
美優は完全無防備な甘くとろんと蕩けた表情で
「勉強なんかそっちのけで二人で抱き合っちゃったりなんかして! もうすぐ期末テストだってのに、なんてふしだらな。けがらわしい」
「けがらわしいって何よっ。美優は大好きなお兄ちゃんに誕生日プレゼントをもらえるところだったのにぃ……」
「いやいや、まだそのキスするって俺は返事はしてないんだけど」
「キ、キキキキス〜!? 僕が許すわけないだろう」
僕は二人の邪魔をしに来たのです。
今日もめげずに!
「僕、美優のおばさんにはちゃんと挨拶してから部屋に上がって来たからね」
「うーっ、いっつもお兄ちゃんと良いところでカズくんが邪魔するんだからっ」
「僕にだって美優と一緒に勉強する権利がある。太一兄は僕のお兄ちゃんでお母さんが僕の勉強もたっぷりしっかり見るように言ってるんだから。ほらほらっ」
僕はこれみよがしに持って来た教科書とノートに参考書、ペンケースを二人の前にぐいぐい突きつける。
「もうっ、カズくんのおじゃま虫。ぷんぷんっ。カズくんは国語以外は出来るんだから自習で充分じゃない?」
「そ、それはまあ、面倒見の良い太一兄のおかげなわけで……」
「ずるいじゃない! おうちではカズくんはお兄ちゃんを独り占めして二人っきりでお勉強してるんだもん」
「この人は僕のお兄ちゃんなんだから仕方ない。そもそも太一兄と二人っきりだからって美優とは違って僕はちっとも嬉しくないんだからね。僕が嬉しいのは……美優といることで」
「こ、この人……。和臣、寂しいぞ。血の繋がる弟思いな兄をこの人呼ばわりするとは」
「弟思いなら美優と近づかないでよ、お兄ちゃん。僕が美優のことを大好きなのは知っているでしょう?」
「やだやだやだ。お兄ちゃんと近づくんだからめいっばい。美優とお兄ちゃんはゼロ距離ですぅっ」
言い合いをしている美優と弟の和臣を見ていると、俺はちょっと微笑ましい気分になる。
和臣の美優を好きな気持ちは分かってる。
本人は周囲にバレてないつもりだ。
でも気持ちがダダ漏れ。
自分も美優を大事に思っているが、和臣の恋も応援してやりたい気持ちもある。
そもそも俺の美優への思いは「妹みたいに大事」以上なんだろうか。
……そのぉ、さっきはそりゃあドキドキしたけど。
キスだって、和臣の横槍さえなければもしかしたら……しちゃってたかもしれん。
「ねぇ、お兄ちゃん! 美優の話、ちゃんと聞いてる?」
「あっ? ……あぁ、聞いてるよ」
「美優が誕生日にキスしたいって言うなら僕が相手になってあげる。僕からのプレゼントにする」
「そういうことじゃないよ。私はお兄ちゃんがイイのっ。カズくんじゃなくて」
「むぅ〜っ。太一兄も僕も顔も頭脳もスタイルも大差ないじゃないか。美優は太一兄のどこがそんなに良いわけ?」
「だってお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから。美優は初めて恋したのがお兄ちゃんで。……ずっと変わらないの。ずっとずっと好きなんだもん」
キュウゥゥゥゥゥゥン!
美優の恥じらいがちな表情といじらしいばかりの思いの告白に、俺の胸が不覚にもときめいた。
――はっ!
いかんいかん。
「さあ君たち、そろそろおしゃべりは謹んで期末テスト勉強しようか〜? 適度なおしゃべりは気分転換になるかと思うけど、手は動かそうか。美優も和臣も高校に受かって入ったばかりで気を抜きがちだけどな、楽しい夏休みを迎えるにはここが高校生活最初の踏ん張りどころだぞ」
「うーん、夏休みっ! そうだよね。もうすぐ夏休みか〜。今年も夏祭りと海水浴とキャンプと、あとあと遊園地もお兄ちゃんと一緒に行きたいな」
「去年の夏休みのお出掛け、そこには僕もいたんですけど。ついでに言ったら美優の家族もうちのお父さんとお母さんもいたよね。美優ったら、まるで二人っきりの思い出みたいに語ってるけどぉ?」
「いいのいいの。そうそうウフフ、写真は美優とお兄ちゃんのツーショットばっかりだったから、勘違いしちゃってたかも。周りの人たちは美優とお兄ちゃんのラブラブなオーラに霞んで景色みたいになっちゃうの」
「美優〜。この写真、僕も写ってるんですけど」
和臣……、ああ不憫な弟よ。
美優の勉強机に飾られた可愛いハートの形のフォトスタンドの写真には俺と美優と小さく確かに和臣の姿が収められている。
「ひどいや。美優の中では僕なんてちっぽけな存在でしかないんだね」
「うんっ。当たり前じゃない、カズくん。美優はお兄ちゃんが一番だから。お兄ちゃんだって知ってくれてるもん。ねぇ〜、お兄ちゃんっ?」
「あっ、えっ? ……ああ、ははは」
太一兄はしどろもどろ。美優のことで張り合ってる太一兄が奥手で草食系なのは、恋のライバルとしてはありがたいんだけど。
美優がいつもいつでも見てるのは太一兄で、僕が視界にすら入らないトコ、いつもへこむ。
僕はしゅうんと沈んだ気持ちのまま、しょうがなくようやくテスト課題と宿題に取り組む。
「さて、そろそろ気持ちを勉強モードに切り替えていこうな。今日はふたりとも物理基礎をやろうか。等加速度運動に鉛直投射、相対速度なんかも面白いぞ。数学もそうなんだけど問題が並んでると俺、めっちゃわくわくするのだよ、君たち。そう解いてる時はきっとクイズ番組に参加してるかのような、難解の事件に挑むまるで探偵かのような気分だな。ヴァーチャルの世界だと思ったりゲームのごとく楽しんでやれば勉強は娯楽だよ。俺の脳は喜んでいる。うんうん」
勉強大好きな太一兄は熱苦しい持論を唱えて心酔陶酔しきっている。僕はそこまで勉強が好きにはなれない。
「太一兄、物理って面白いかあ?」
「物理か〜。美優、あんまり好きじゃないな。……ねぇねぇ、お兄ちゃん。約束覚えてる?」
俺だけに向けられた、美優の特別甘ったるいかわいい声。
下から見上げてくる上目遣いなくりくりはっきりパッチリな瞳。潤んだ黒目がちな瞳は俺を映してる。
伝わってくる。
美優のまっすぐで、迷いない強い気持ち。
ドキンッとした。
……実は約束をもちろん覚えてる。
は、はぐらかそう。
「すぐにでもお兄ちゃんのお嫁さんにして。約束したでしょう? ねぇ良いでしょう?」
「美優。太一兄の方はね、そりゃあさ誰かと結婚出来る年齢になったよぉ? だけどさお嫁さんって、だって……。そもそもまだ美優は18歳じゃないよね? ……僕だって早く美優と結婚したいけど」
「も〜、ひどいよね。16歳になったらお兄ちゃんのお嫁さんになるんだってきめてたのに! 美優の幼稚園からの夢だったんだよ? 法律が変わっちゃうだなんて」
あーあ、美優は僕なんて僕の気持ちだなんてまる無視だ。てんでまるでホント目に入ってないみたい。
太一兄のどこがそんなに良いんだか。勉強が昔から人よりちょっと余計に出来て〜、顔が少しばかり良くて、優しいだけ……。普通じゃん、平々凡々な男じゃん!
――僕の方がだんぜん美優を楽しませてあげられると思うっ。
僕と美優と太一兄とは幼馴染みで三角関係なんだ。
率直に言ったら、美少女を奪い合う彼女の虜になった兄弟。
太一兄っていつも疑問に思うけど、美優のことをどう思ってるんでしょうか。
太一兄は恋人なんかいた試しはない。
弟の僕がいうのもなんだけど太一兄は顔も悪くないし(むしろ格好良い方じゃないかと思う)、頭も賢いし、性格も良い。
なんでか彼女は出来ないし、好きな子もいなさそう。……美優以外は。いや、美優を太一兄は本当の本当はどう思ってるの?
太一兄は恋愛には疎くて奥手。
僕は太一兄よりは女心が分かってるつもりだよ。美優をそばで見てきて、その一途で純粋な気持ちに気づいている。
これでも女子の友達はいるから、相談も乗ることが多い。
太一兄の
僕は美優のこと大好きだから、諦める気なんてさらさら無いけどね。
僕の横に座る美優のむくれ顔がかわいい。
太一兄との二人っきりの甘い時間を邪魔されて怒っているわけですが、そんな拗ねた表情も僕にとっては見れてラッキーなのです。
◇◆◇
僕と美優は太一兄からみっちり特訓され頑張った結果、期末テストで苦手な科目が平均点よりわずかばかり上をいけた。
充分僕と美優にとっては合格点だった。
そして待ちに待った夏休み。
毎年恒例の家族ぐるみのキャンプに今年の夏も行くことになった!
わーい、やったね。
ところが今年の夏休みキャンプは事件が起きる。
僕と美優と太一兄にとんでもない出来事が……。
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