「お兄ちゃん! 美優ね、誕生日プレゼントに欲しいものがあるの♡」
天雪桃那花(あまゆきもなか)
第1話 ねぇ、お兄ちゃん。美優と約束したよね? 覚えてる?
ねぇねぇ、お兄ちゃん!
お兄ちゃんってば聞いてる?
あのさあ、……約束したよね?
私、もうすぐ誕生日だよ。
お兄ちゃん! もちろん知ってるよね!
私とのアノ約束覚えてるかなぁ?
その前に……、もう一つお願いがあるんだ。
お兄ちゃん、少し早い誕生日プレゼントくれる?
美優が欲しいのは物じゃないから安心して?
ずっと欲しかったの。
私、この日が来るのを心待ちにしてたんだから。
◇◆◇
「美優! くっ、くっつきすぎ。そ、そんなんじゃ勉強できないだろ?」
私はすかさずお兄ちゃんの腕を抱き寄せ、頬をぎゅっとくっつける。
くっつけてからの〜、すりすり。
お兄ちゃんと密着すると胸の奥があったぁかくなるの。
ドキドキもしちゃうけど、お兄ちゃんの温もりに安心するぅ。
お兄ちゃんってば背が高くって細くて華奢に見えるのに、案外筋肉質でたくましい腕が心地良いんだ〜。
男の人って感じ。
いつからかな。お兄ちゃんが男らしくなったのって。
声も気づけば低くなって、喉仏も出てる。
背だって美優よりうーんと高いんだもん。
かっこいいなあ。
私の大好きなお兄ちゃん。
優しくてかっこよくて、面倒見が良くて頭も良い。
みんな知ってる某超有名大学に合格しちゃった理系のお兄ちゃん。
サークルは農業と科学の融合サークルとかなんとかいうのに入ったらしいの。好きなゲームのキャラクターの研究サークルに入るって言ってたのにな。大学に行ったらやりたい事がたくさん出来たんだって。
お兄ちゃんが大学生活が楽しそうなのは私も嬉しいけど、美優との時間が減ったら寂しいな。
お兄ちゃん。
美優はね、お兄ちゃんにいつでも構ってほしいの。
お兄ちゃんは完璧かと思いきや、ほんの少し方向音痴で不器用でお料理すると焦がしちゃったりとおドジなところがあるけど、そこがまた美優はきゅんってしちゃう。
お兄ちゃんは私のお家の隣りのお家に住んでいて、ずっとずっと仲良しの幼馴染みのお友達なんだ。今はまだね。
そのうち……、っていうか近々必ず! 私はお兄ちゃんの恋人になってぇ、お嫁さんになるんだからっ。
だってお兄ちゃんと約束したんだもん。
お兄ちゃんはね、美優を世界一幸せなお嫁さんにしてくれるって。うふふふっ。
「も〜っ! お兄ちゃんのイジワル。今の美優はお勉強よりお兄ちゃんとイチャイチャしたいんだから〜」
お兄ちゃんってば、照れちゃって。
「期末試験はもうすぐだろ? 俺は美優の家庭教師を引き受けた時から、真面目に美優には成績アップをさせてやりたいって真剣なんだからね」
「ゔーっ。だって数学は好きになれないんだもん。いくらお兄ちゃんが教えてくれてもあんまり数学とは仲良くなれませんっ」
「そのうち両思いになれるよ」
「数学と? 有りえないよ〜。どうせ両思いになれるならお兄ちゃんとが良い! ……っていうか、私とお兄ちゃんは両思いだよね? 美優のこと好きだって昔言ってくれたもんね」
「ゔっ……」
そ、それは言ったけど……。
今の美優が求めてる好きとは違うわけで……。
あの頃はお互い幼くて、よく考えなしで言えたあの時はもっと気軽で好きって意味は単純でさ……。
「お兄ちゃん? 美優のこと好き?」
「エッ」
「変わらず美優のこと、好きでいてくれてるよね?」
勉強机の椅子から立ち上がり、美優は俺に抱きついてくる。
美優の温もりと肌の柔らかさがダイレクトに伝わってきてヤバい。
そんなんされたら理性が吹き飛んでしまうじゃないかあっ!
こ、ここはグッとこらえて、抑えるんだ俺!
俺はどんなことがあっても美優にとって良いお兄ちゃんでありたいんだ。
オオカミになんてならないぞ〜!
もっと美優も俺も大人になったら、その時はその時で考えたい。
今は美優は高校生になったばかりだし、俺も大学生になったばかり。
大学をきっちり卒業し安定した仕事に就いて独り立ちして稼いで、そうして自信を持って胸を張れたら、美優とのことを真剣に考えていきたいんだ。美優のおじさんとおばさんにコソコソして付き合うのではなくて、挨拶をきちんとしてだな……。
――あっ。俺、美優のこと……好きだ。
けじめはつけてから。
美優のことを傷つけたくないから。
俺はなだめるために美優の頭をポンポンしてやる。
「お兄ちゃんにもらいたいの。……あのね、美優の誕生日プレゼント」
「うん、良いよ。美優の誕生日の日に買いに行こうか? バイト増やして貯金したからさ、なんでも買ってやるよ。遠慮しないで欲しいものをねだって良いんだからな?」
「ありがとう、お兄ちゃん。……嬉しい。あのね、でも違うの。……美優が欲しいのは物じゃあないんだ。今ね、美優がお兄ちゃんからもらいたいプレゼントはお金じゃ買えないよ?」
「お金で買えないプレゼント? ……まさか『高い高いして〜』とか、お姫様抱っことかか?」
「ち、ちがう! まあ、お姫様抱っこは嬉しいけど、『高い高い』は幼稚園の時の話でしょっ」
そりゃあ、大好きなお兄ちゃんに高い高いしてってせがんだことがあったけど……。いくらお兄ちゃんと年の差があるって言ったって、小学生のお兄ちゃんにはお父さんみたいに上手く抱き上げられるわけもなく……。
「ごめんな、あの誕生日の『高い高い』は二人ですっ転びそうになったもんな〜。今ならいけそうだぞ?」
「じゃあ、お兄ちゃん。どうせならお姫様抱っこして! ってちがーう!」
「違うのか?」
抱きついたまま、ぷうっとむくれて俺を見上げて見てくる美優がかわいい。
い、いかん。抱きしめ返してしまいそうだ。
「お、お兄ちゃんっ! チューして」
「……はっ?」
「チューして欲しいの……」
「はあ……? 美優の口からチューって幻聴が聞こえたんだが」
「幻聴じゃな〜いっ! だ・か・らっ! 美優の誕生日プレゼントに、お兄ちゃんにファーストキスを奪われたいの」
は、はい〜っ!?
美優の、美優のファーストキスっ!?
じょっ、冗談だろう?
ジョークだよな?
な、なあ?
美優は初心な俺をからかっているだけだよな?
こんなに切なげにせがんでくるだなんて……。
こんなに勇気を出して「キスして」と言った
良いのか?
良いのか、それで、俺っ!
それに俺にとってもファーストキスなんだが……。
経験がまあぁったくないんだけど、美優に「お兄ちゃんってキスが下手くそ」とか思われんだろうか?
いやいやいやいやいや、そーいう問題じゃないだろ〜、俺!
しっかりしろ、俺!
理性を保つんだ。
ふ〜、はー、ふ〜、はー。
深呼吸で思いとどまるぞ。
よしよし、少し落ち着いてきたな。
しかしだ。美優がキスとかこんな大胆なことを言い出すとは……。
まさか口と口ではあるまい。
ほっぺとか、おでことか、手の甲にキスとかだよな。きっと。
たぶん、美優は少女漫画や恋愛映画を見て憧れてるだけに違いない。
そうだ!
そうに決まってるっ!
瞳を閉じ唇をつんとさせて、美優はまるで本当に俺からのキ、キスを待っているみたいだ。
きゅうぅぅ〜んっ、と胸が高鳴り切なく疼いて甘く甘く痛む。
かわいいっ!
かわいいよ〜、美優っ!
――はっ。
でも、良いのか?
うーっ、こーなったら俺も男だ!
覚悟を決めて美優にキスしちゃうか。
美優と俺が……、妹とお兄ちゃんみたいな関係なのに。
「お・に・い・ちゃん。美優にキスして。ねっ? 早くぅ」
う、嘘だろ〜。
美優がキスして欲しいって、マジかっ!?
マジですか〜!?
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