第3話「プロローグ③」
見えたのは座席にそのまま落っこちていた長い棒のようなもの。
おそらく、竹刀だろう。
電車に入り込む前に竹刀を袋に入れて背負っている女子高生を見かけたから多分彼女の物だ。
あれを使えば多少は有利に持って行けるかもしれない。
それにだ。
竹刀、剣の扱い方なら自信は少しだけある。生憎と俺の母親は剣道5段だった。そのおかげで小さい頃は剣道をやっていた。
小学六年生までずっとだ。馬鹿みたいに竹刀で叩かれてしごかれていた。
俺は検定をやる前にサッカーがやりたくてやめてしまったから何か持っているわけではないが、最後の方には初段の大人や2段あたりと互角に戦えていた。
死ぬわけではないがそれなりに暴力を振るわれてきた過去がある。その時の痛みと比べてみれば、こんな殺人鬼の攻撃なんか。屁でもない!!
「っ—————‼‼‼‼‼」
気勢をあげながら突進してくる殺人鬼。
ここであたふたしていれば絶対に負ける。俺は思いっきり走り出し、振りかざしたナイフを再び躱す。
「っち!!」
今度は危なかった。服の端が少しだけ避けている。これをお腹に食らった確実に死ぬ。
しかし、その一瞬が功を為し竹刀の場所までたどり着いた。
カバーを開けて中から取り出す。やはり中身は竹刀だった。全長は1メートル強。リーチも殺人鬼のナイフよりも長い。
なんとか奴に攻撃を与えながらナイフを取って無力化できれば、あとは警察官の到着を待つだけだ。
「ほーう、竹刀ねぇ……でもそんなんじゃ、俺はコロセナインダケドナアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
ニタニタ、余計に笑みを深めてまたもや突進してくる。
今度は突きではなく、思いっきり振りかざして一刀両断するつもりのようだ。
「っぁ‼‼‼」
竹刀を横にして、ナイフを受け止める。やはり、母親の動きに比べてみればまだまだ遅い。これなら、確実に仕留められる。
竹刀を揺らして、ナイフを思いっきり飛ばす。すると、男の手からはナイフが外れて、足元に落ちた。すかさず俺は蹴りをかまして、男を後方に突き飛ばし、ナイフを男から反対側に蹴り飛ばした。
「がぁ!!!!!」
「……ふぅ」
「お、おいっ……何しやがるんだよぉ!!!!!!」
叫び散らかす男、そいつの目の前まで歩いておれは再び竹刀を振り上げて、頭に一発。
バチンッ!!!!
綺麗な音が鳴り響き、脳天直撃の衝撃で意識が無くなったのか男はその場にばたりと倒れ込んだ。
「っ……はぁ」
さすがに気を張っていて、気を失ったのを見てすぐに背中に疲労感がドシッと押し寄せる。溜息が漏れると、次に電車のアナウンスがなった。
『次は、××駅、緊急停車いたします』
どうやら、助かりそうだ。
十数秒ほど待って、扉が開くのを待ち、気を失った男を思いっきり蹴り飛ばした。
結局、その通り魔殺人事件では一人も死ぬのことはなかったが重傷と軽傷者が数人出てしまい、俺も念のため病院で診察を行った。診察後は警察署で事情聴取などもあり、帰ったのは翌日の朝。
そして、ここからが彼女との出会いだった。
警察署を出ると、一人の女の子が紙袋を持って立っていた。
知らない制服に綺麗にまとまった長い黒髪。清楚可憐な少女を彷彿とさせる彼女は俺の存在に気づくとてくてくと小走りで近づいてきた。
徐々に顔が露わになっていき、俺はすぐに気が付いた。
「————お、お兄さん!」
「あ、あの時の……」
「私、その……あの時助けてもらって、本当にありがとうございました!」
少しだけ頬を赤らめながら彼女は頭を下げる。何か、告白でもされている気分になって少し恥ずかしくなった。
「いや、別にいいんだ。たまたまだったから」
「で、でも……私、あの時誰も助けてくれなくて、死ぬと思っていたので……それでも来てくれたお兄さんには本当に感謝してもしきれなくて……っ」
「まぁ……そうだね。生きててホッとしたよ」
「そ、その……これ、地下鉄内に置きっぱなしだったので」
すると、彼女は両手で抱えていた紙袋を差し出してくる。
中身を見ると、俺の高校の制服とワイシャツが入っていた。そうか、あの時流れで置きっぱなしにしていたのか。今の今まで気が付かなかった。
「俺の制服……」
「大事なものだろうと思って持ってきて……」
「あ、あぁ! ありがとう。ごめんな、こんな他人の物を」
「お兄さんは他人じゃっ……い、いえ、大丈夫です。私のことを助けてくれたことを考えればこの程度じゃ返しきれませんから」
「別にいいんだ。本当に、それよりも君が無事でよかったよ……」
「はい……その、私はこれで。また、どこかで会えたら……絶対に」
「え、あ、あぁ……絶対にな」
そう言うと彼女は母親らしき人に手を引かれて、歩いていく。しかし、途中で俺の方に振り向いて、手を振ってきた。
「私、
そんな唐突な自己紹介に動揺しながらも、俺は手を振り返してこう告げた。
「俺は……
結局、そんな出会いと別れを経てから4年間。俺は三苫涼音と言う少女には出会ってはいない。
名前すら忘れるほどに時間が立ち、一年二年、そして三年と時が経っていく。俺もいつの間にか高校を卒業し、二度目の受験勉強の末地元の国立大学に進学した。
適当にサークルに入り、その間に女の子と付き合ったりもした。でも別れて完ぺきとは言えずとも甘酸っぱい青春を過ごしていった。
あの出会いすらも消えかかっていて、歳も、出身も、性格も知らない彼女との出会いは最初で最後だと思っていた。
そう、思っていたのに……なぜか、唐突に、またしても急に。
————
「せーんぱい、お久しぶりですねっ」
「え」
そんな呑気な声を向けて、あか抜けてより一層美人になった三苫涼音はあの時の笑顔を浮かべる。
<三苫涼音(中学2年生)>
警察署からの帰りにて。
「あのお兄さん、カッコよかったなぁ……」
「スズを守ってくれたんだって?」
「うんっ‼ もう、ヒーローみたいで、王子様みたいで……私、運命感じちゃったんだ!」
「もう、あんたは……運命って言って、まだ一回も付き合ったことないでしょ?」
「お、お母さん! そういうのは言わないでよ! 私だって、これからだし! 絶対にあのお兄さんと付き合うもん!」
「……まぁ、あんたが好きにすればいいと思うけどさ。ほどほどにね、来年は受験だってあるんだし、絶対に国立大学に入ってもらうんだからいい高校に行ってよね」
「分かってるもん! 私、頭いいから大丈夫だし!」
えへへ。
今日はかっこいい人に会ったなぁ。三好一馬さんかぁ。私の将来の夫……あぁ、運命感じるなぁ。恋
するの初めてだけど……これが恋愛っていうものだよね……。
私の初恋。
王子様……、絶対に結婚しないと。
あ、濡れてきちゃったなぁ。
私ったら、さっきしたのに。警察署のトイレで。
もう、ほんとにだらしない。
そう言えば、一馬さんに気づかれてないかなぁ。一馬さんのワイシャツで……。
濡れちゃってないかなぁ……。
<あとがき>
プロローグはここまでです。初めてヤンデレものを書いていきますが個人的には乙女でラブラブな純愛ヤンデレちゃんを描きたいと思っているので暴力描写はさほどないと思いますが……物語の行く末は髪のみぞ知るって感じで。
こういう女の子も案外悪くないですね。僕は女の子の友達がいないので……(笑)
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「仕事に疲れて家政婦さんを雇ったら、垢抜けた元カノだった。}
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