第4話「4年ぶりの再会」


 大学に入学してからあっという間に一年が経ち、俺も晴れて大学二年生なった。


 一年生の時は色々な出来歩とがあって、良いことも悪いことも経験した。これからは羽目を外さずに楽しくやっていけるように頑張っていきたい。


 というわけで、今日。

 俺は入っていたサークルの副会長として、新入生歓迎会を主宰していた。市内の穴場の居酒屋を貸し切りにしてもらっていた。


「では、これからの一年に幸せがあることを願って、カンパーイ!」


「「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」」


 コールをかけて新入生歓迎会と言う名の飲み会が始まる。もちろん、一年生にはジュースやお茶を出しているが、先輩や誕生日が早い同学年は早くもビールを頼んでいてどんちゃん騒ぎになってきていた。


 ただ、俺たちは大学生だ。居酒屋のおっちゃんからは「青春してこい、金は払えよ」と言われているので多少騒いだって問題はない。


「うえぇええええええええええええええいいいいい」


「う、うぁ! 先輩、どうしたんすか!」


「うぇ!? お前、何、付き合ってるんのぉぉぉ!?」


「は、んなこと言ってな!」


「マジぃ!?」


「すげえんあぁ!」



 しかしまぁ、この感じじゃ朝までコースだな。


 後輩にダル絡みする同世代のやつらが飛ばし過ぎてるし……別に明日は休日だからいいんだけど。


 金曜日くらい、羽目を外したほうがいいだろう。


 そんなこんなで俺はと言うと、みんなの浮かれ具合を端のカウンター席から俯瞰しながらジンジャーエールをちびちび口に運んでいた。


 このジンジャーエールって言うのが凄まじく旨い。生姜の風味に炭酸と甘みが絶妙にマッチしているし、何よりこういう場で飲んでいても恥ずかしくはない。

 

 あぁ、かっこいいからな。副会長ながらオレンジジュースなんぞ飲めまいて。


「——あ、副会長さんっ」


 そんな俺に声を掛けてきたのは新入生の子だった。


「ん、どうしたの?」


「あ、あのお話したくて……その、お隣とかいいですか?」


 少しだけ腰を低くして、さりげなく髪を耳に掛けながら訊いてくる彼女。特段話しているわけではないので頷いて了承する。


「ありがとうございますっ……」


「いやいや、大丈夫だよ。なんか飲む?」


「あぁ、えっと……じゃあオレンジジュースでも」


「ん、おっけー。店長! オレンジジュース一つ!」


「あいよ~~」


「よし、これでいいかなぁ」


「ありがとうございますっ」


 せっせと働く店長に頼むとニヤついた視線を送られる。生憎とそういう関係ではない。だいたい、なんて俺は思ってないからな。


 ただ、可愛い後輩としゃべるのもたまにはいいだろう。


「それで、話ってどうかした?」


「あ、えと…………色々大学について聞きたいことがあって」


「あぁ、大学についてか」


 なんだ、そっちか。

 いや、別に気にしていたわけじゃないんだけどね。なんかこう、そっちだったのかぁって……。


「あ、あの……?」


「ごめんごめん、大丈夫。それで、あれかな、サークルとかについてから話したほうがいいかな?」


 そんなこんなで俺は少しだけがっかりしながらも、新入生に大学について説明していった。


 話の中で、色々と自己紹介を踏まえながら話していく。彼女の名前は椎名朱音しいなあかね。人文学部歴史学科の一年生だった。


 俺は工学部電子情報学科だから、おそらく直接的な関りはないだろう。


 大学デビューで染めたのか茶髪のボブに、大学でよく見る服装。所謂量産系女子大生ってやつだ。顔も整っているし、高校時代は色々と恋愛もしていたことがあるらしい。


 それになんかこう、雰囲気がどこか元カノに似ている。立場は逆だったけど。


「バイト先とかって……その、どうすればいいんですかね?」


「あぁ、俺は家庭教師とかしてるけど……どう、今度面接受けてみる?」


「いいんですか!?」


「もちろん、問題ないよ。俺から塾長に話しつけておくよ」


「ありがとうございます!」


 ニコッと微笑む椎名さん。いやはや、俺も先輩風を吹かせられる年になったと思うと考え深いな。元カノを思い出しちゃうのはなんか、チクッとするけど。


 そんなこんなで数十分二人で話に花を咲かせていると、後ろの方から声が掛かった。


「あ、椎名ちゃんっ。あっちで先輩が呼んでるよ? 会長が呼んでるっ」


 どうやら俺ではなかったようだ。


 しかし、何か妙だった。


 この声、どこかで聞き覚えがある。

 昔、本当にどこかで話したかのような、胸の奥底を擽る声だった。


「え、そうなの!?」


「うん、ほら早く行ってきなよ」


「あ、うん! ごめんね。せ、先輩! ありがとうござました! これからもよろしくお願いします!」


「え、あぁ……また」


「はい!」


 そう言って椎名さんは小走りで去っていく。会長からのお呼出しか。会長って結構女食いってイメージあるし、大丈夫かな。


「——あの、先輩?」


 心配していると再び声が聞こえる。さきほど椎名さんにお呼び出しを伝えていた聞き覚えのある声だった。


 しかし、なんだ?


 先輩って……新入生なのか。でも、初対面でそんな馴れ馴れしく呼ばないよな。


 疑問が増えて埒が明かないので、振り返って声のする方向を見てみると俺は唖然としてしまった。


「え」


「せーんぱいっ、お久しぶりですね?」


「……ぇ」


 そう、そこに立っていた女の子を俺はよく覚えている。


 いや、よく覚えていたわけじゃない。今、ちょうど思い出した。脳の奥底にしまってあった記憶が一気に掘り起こされる。


 聞き覚えのある声と、見たことがある清楚可憐な整った顔。


 今からちょうど、4年前。


 地下鉄に現れた殺人鬼に殺されそうになっていたあの時の女の子。


 俺が命投げ打って間一髪のところを助けて、最後に紙袋を受け取ってそれっきりだった女の子。


 三苫涼音みとますずね、その人だったのだ。


「どうかしましたか? 私、追いかけて会いに来ちゃいましたよ、せーんぱい?」


「————えぇ!?」














<三苫涼音>


 はぁ、一馬先輩に近づいてる椎名さん。さっき、話して仲良くなったと思ったらすぐこれだもん。


 まったくぅ。


 本当に許せないなぁ。

 ほんと、これだから女の子は。


 なんでさ、あんな短いスカートで先輩にアプローチしてるのでしょうかね。


 気持ち悪いなぁ……。


 よし、会長さんに紹介しちゃおう。

 会長さんはどうやららしいし、それに私がこのサークルに来たのも先輩に会いに来ただけだから……。


 もうすぐ、会えるよ。

 せーんぱい。




 


 












 

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