第26話 予想通りと展開と予想外の結果

 一旦 《マイルーム》に戻り準備を整えた大河達は直ぐにダンジョンにダイブし、現在は6階層に繋がる《ゲート》の前で休憩していた。

大河は駆け足で進むつもりだったのだが、フレアがモンスターを発見する度に襲いかかるので予想外に時間が掛かった。

大して消耗していないが、久しぶりの《ダンジョンガーディアン》戦ということもあり一休みして気合を入れ直していた。


 大河がモンスターとの契約について調べていた間に、攻略勢の何組かは《ダンジョンガーディアン》の攻略に成功している。

特に攻略の最前線に居たいと大河は思ってはいないが、他プレイヤーが攻略出来ているなら負けられない、という負けず嫌いな思いから今回の《ダンジョンガーディアン》戦は気合が入っている。


 一方フレアはそんな大河の肩の上に座り足をプラプラさせて寛いでいた。

戦闘中以外は基本的に大河の周りをふわふわ飛び回っており、時折こうして肩や頭の上に乗ることがある。

大河の規格外の体格とフレアの小ささの対比の違和感が凄く、2人を見かけたプレイヤーが思わず二度見してしまうこともある程だ。


 今から《ダンジョンガーディアン》だということを大河はフレアに伝えているが、フレアに緊張は見られない。

別に理解していないわけではなく、敵が目の前にいたら戦うだけだとフレアは思っている。


 そんなフレアを頼もしく思いながら大河は足を《ゲート》に向ける。

フレアも大河の肩から飛び上がり、戦いの始まりに笑みを浮かべる。


「さぁ、フレア、行こうか」


「ーーー!」


《ダンジョンガーディアン》戦の始まりである。




 大河とフレアが転送された先は《ゲートキーパー》戦の時と同じ闘技場だが、

《ゲートキーパー》戦と違いそこには複数のゴブリン達が待ち構えていた。


 弓や杖を含めた武装したゴブリンが4体が大河達を睨みつけており、さらに奥の門が開き中からその場にいるゴブリン達よりも大きなゴブリンがゆっくりと現れた。


 そのゴブリンはホブゴブリンと呼ばれ、大きさは平均的な成人男性と同じくらいだが、太い手足や首周りなど筋肉で覆われた体つきや、左右の手に持つ刃の大きな両刃斧や鈍く光る盾からは歴戦の風格を感じさせる。


《ダンジョンガーディアン》にたどり着いたプレイヤー達は相応のオーラ強度を持っているはずだが、威風堂々と歩くホブゴブリンの姿に威圧されることもあるくらいだ。


 この恐るべきホブゴブリンと計4体のゴブリン達が《ダンジョンガーディアン》であり、これら全てを打倒しなければ初心者ダンジョンを攻略したとは言えない。



 ゴブリン達はホブゴブリンと合流するのを待っているのか、直ぐに大河達に襲いかかってこない。

悠長に構えるホブゴブリン達だが、挑むプレイヤー達がホブゴブリンに威圧されていたり、状況が把握できていなければ問題なく合流できただろう。


 しかし今回挑むのは《ダンジョンガーディアン》経験者と敵を発見すると問答無用で突っ込む妖精だ。

のんびり待っている敵を見逃すほど2人は甘くはない。



 まずいつもの戦闘のようにフレアがゴブリン達に突っ込んでいく。

経験値を積んで強くなったからか、大きくなった槍を構え空から襲いかかるフレア。


「ーーー!!」


 その動きに対応出来なかったゴブリンがフレアの奇襲を喰らい悲鳴を上げる。

ゴブリンを倒し切ることは出来なかったが、フレアは直ぐにその場を離れ別のゴブリンに狙いを定める。


 狙われたゴブリンアーチャーやゴブリンメイジは近づかれないように攻撃をするが、空を飛び回り避けるフレアに当てることは出来ない。

しかしその間に残るゴブリン達は近距離手段に乏しいアーチャーやメイジを庇い守りを固める。

フレアは縦横無尽に空を飛び回り魔法や槍で攻撃を続けていき、ゴブリン達もそれに応戦する様相になった。



 ゴブリン達は見事な連携でフレアの奇襲と耐えきったが、その後のフレアの猛追もあり意識はフレアに集中している。

ホブゴブリンはそんなゴブリン達に加勢しようとするが、それは大河が許さない。


「お前の相手は俺だ!」


 立ちはだかる大河に苛つくホブゴブリンは、柄が軋む程の力を込めた両刃斧を大河に叩きつける。

横薙ぎに襲いくる両刃斧をしっかりと盾で受け止めた大河は、お返しとばかりに右手のロングソードでホブゴブリン両刃斧を持った右手を狙う。


両刃斧を受け止められたホブゴブリンは直様右手を引き戻すが、左から迫るロングソードに浅く斬りつけられる。

大したダメージではないが、攻撃を受け止められ反撃までされたことにホブゴブリンの苛つきは怒りに変わる。


「ゴアァァァァァ!!」


 ホブゴブリンは怒りの咆哮を上げるとそのまま大河に突っ込んでくる。

完全に残るゴブリン達のことを忘れたその姿に、大河はここまでは作戦通りだと気を引き締める。



 《ダンジョンガーディアン》戦で一番厄介なのは、ホブゴブリンではなくゴブリン達だと大河は思っている。

1体1体はホブゴブリンほど強くはないが、その分を連携で補ってくる。

アーチャーやメイジがいるため油断も出来ず、ゴブリン達から倒すには時間が掛かる。

無視してホブゴブリンを相手にしようとしても、これも横から後ろから攻撃されるためどうにも出来ない。


 そのため彼らと戦うには、ホブゴブリンとゴブリン達を切り離した上で、ゴブリン達を引きつけ続ける必要があり、大河はこれに頭を悩ませていた。


 しかしこの問題はフレアとの契約でほぼ解決できた。

フレアがゴブリン達を引きつけ、大河がホブゴブリンを相手にする。

フレアの戦闘力ならそのままゴブリン達に勝つことが出来るだろうし、あとは大河がホブゴブリン相手に凌ぎつつ、フレアの援護を待てばいい。


 早速実践で試してみたが、大河の想像以上にことは上手く運んでいるのだった。



 フレアとゴブリン達の戦いは、少しずつフレアがゴブリン達を押し始めていた。

フレアに対する攻撃手段が少ないゴブリン達に比べて、フレアは遠近両方絡めた攻撃を繰り返すためゴブリン達は防御に回るしかないのだ。


 しかしフレアの攻撃力が上がったきたことで一気に形勢はフレアに傾く。

大河とホブゴブリンの戦いで発生している《いばらの目覚め》の効果で攻撃力が上がってきたフレアのファイヤアロー(炎の矢)が、アーチャーとメイジを守るゴブリン1体を貫き倒したことでゴブリン達の陣形が崩れた。

 

 後衛を守る壁が一枚減った隙間をフレアは見逃さず、今度は頭上から急降下した槍の一撃でメイジを串刺しにして倒す。

フレアは急降下した勢いをそのまま利用し、アーチャーを守るゴブリンに近づき至近距離からファイヤアローを放つ。


 ゴブリンは咄嗟に横に飛び回避するが、タイミングの悪いことにゴブリンの後ろにいたアーチャーにファイヤアローが当たり倒れてしまう。


 思わぬ不幸に一瞬呆然としてしまったゴブリンはフレアを見失ってしまう。

急いで辺りを見回しフレアを探すゴブリンは、空に浮かび自分を見つめるフレアを見つけた。

フレアの頭上にはファイヤボール(炎の塊)が掲げられ、ゴブリンが見つめる間にもそれはどんどん大きくなる。


 自らの体より大きくなったファイヤボールをフレアはゴブリンに向かって解き放つ。

ゴブリンは逃げることはせず迫りくる灼熱から目を逸らさなかった。

ファイヤーボールがゴブリンに命中すると、小さな爆発が起こりゴブリンを焼き尽くす。


「ーーー♪」


 ゴブリンを倒せたことにフレアは満足げにうんうん頷くと、大河とホブゴブリンの戦いに向かうのだった。



 大河とホブゴブリンの戦いも佳境に入っていた。

当初はフレアが援護に来るまで捌き切ればいいと思っていた大河だが、《フェアリーの加護》と《いばらの目覚め》の効果が想像よりも高く、ホブゴブリンと十二分に渡り合うことが出来ていた。


 ホブゴブリンの攻撃は右手に持った両刃斧による連打が主になっている。

強靭な肉体から放たれる一撃は重く、怒っている状態でも力任せではない巧みな斧さばきを見せる。

時折スキルも混ざるこの連打があるからこそ大河は倒し切るのではなく捌き切ることを選んだのだ。


 しかし大河が十分に経験値を積んでオーラ強度を上げていたことと《フェアリーの加護》が合わさり、ホブゴブリンの連打を余裕を持って捌くことが出来ていた。

横から下から迫る両刃斧を盾をしっかり構えることで防ぎ、隙を見ては回復薬で回復する。


 連打が止めば今度は自分の番だと大河が斬りかかる。

そうすると今度はホブゴブリンがしっかりと盾で大河の攻撃を捌いていく。

ホブゴブリンは攻撃だけでなく、防御も巧みで大河も攻めきれずお互いの攻防を繰り返す展開になっていた。


 均衡が変わりだしたのは、フレアの時と同じく《いばらの目覚め》の力によるものだ。

ホブゴブリンの攻撃を受け止める回数が多いため、《いばらの目覚め》の発動も多くその度大河の攻撃力は上がっていく。

しっかりと盾で攻撃を受け止めているホブゴブリンだが、次第に大河の圧に押されるようになってきた。


(《いばらの目覚め》の効果は凄いな。発動を繰り返すと力が湧いてくるのを実感できる。これならフレアを待たずに押しきれるか?)


 大河は湧いてくる力と高揚感に身を任せてホブゴブリンを追い詰めていく。

身長差から大河の胴を狙った叩きつけるようなホブゴブリンの攻撃に対して、大河は盾を構えたまま強引にホブゴブリンに突っ込む。

両刃斧の重い一撃の衝撃が盾越しに伝わるが、それに構わず大河は攻撃直後で硬直しているホブゴブリンに斬りかかる。


 袈裟斬りの一撃をホブゴブリンは盾で受けようとするが、体勢が整っていない状態での防御では今の大河の攻撃を受け止めきれない。

攻撃の衝撃を殺しきれず後退するホブゴブリンに直様大河は追撃を仕掛け攻撃の手を緩めない。


 ホブゴブリンの反撃を許さない大河の怒涛の攻め様はまるでフレアのようで、遂にホブゴブリンの盾が大河の一撃で跳ね飛ばされる。

大河はその隙を見逃さず、ホブゴブリンに向かって力強く踏み込むと再度袈裟斬りを叩き込む。


 強烈な一撃にふらつくホブゴブリンだが倒れることはなかった。

大河はそのままトドメを仕掛けようとするが、その前にホブゴブリンは大きく後ろに飛び距離を取る。

そして片手持ちだった両刃斧を両手で握りしめると大河を睨みつける。


 ホブゴブリンは大きく息を吸い込むと、決死の覚悟で咆哮を上げ大河に襲いかかる。

その勢いは今まで受けたダメージを感じさせず、両刃斧を持つ腕は大きく膨れ上がり、ホブゴブリンがその一撃に全力を込めていることがわかる。


 大河に迫るその様子からはホブゴブリンが満身創痍であるようには見えないが、確かにそうであることは変わりはなく、この一撃を受けきれば大河の勝ちだ。

ガードを固めしっかりと受け止める準備も出来たはずなのに、大河は自分でも気づかないうちに前へ踏み込んでいた。


 お互いが射程圏内に入ると、ホブゴブリンは大地を踏みしめ大きく右に腰を捻り、両手持ちの両刃斧を構えたまま十分に引き絞り、解き放つ。

回転から生み出された勢いは凄まじく、大河を上下に裂こうと迫る刃にはスキルの輝きも加わっていた。


 対する大河は走りながら右手のロングソードを腰だめに引き絞り、ホブゴブリンに向かって勢いよく地面を蹴ると飛び込むようにして右手を突き出す。

突き攻撃に補正の掛かるスキルであるスラストも発動させた一撃は一条の閃光となりホブゴブリンに向かう。


「うおおおおおおおお!」


「ゴガアアアアアアア!」


 喉が裂けんばかりの咆哮を伴った互いの全力の一撃だが、届いたのは大河の一撃のみだった。

飛び込み突きという攻撃手段と元のリーチの差によって、ホブゴブリンの一撃より僅かに早く大河の一撃がホブゴブリンの胸に突き刺さった。

満身創痍だったホブゴブリンはそれが致命傷となり、攻撃が大河に届く前に光となって消えていった。



 大河がホブゴブリンを倒し切ると、ちょうどそこにフレアが飛んできた。

ゴブリン達を倒せたことを褒めてほしそうなフレアの頭を撫でながら、大河は先程の戦いに違和感を感じていた。


(最後のぶつかり合い、あれは素直にガードを固めていれば良かったはず。ホブゴブリンの一撃のほうが先に当たっていれば負けていたのは俺の方だった)


 勝てたから良かったものの大河のほうが負けていてもおかしくない状況だった。

戦闘中に感じていた高揚感はすっかり消え、何故あの時そんな判断したのか大河はわからない。


(今までの戦闘と大きく変わったことといえば、《フェアリーの加護》と《いばらの目覚め》か。そういえば《いばらの目覚め》にはデメリット効果があったな。もしかしてそのせいか?)


 戦闘中楽しくなっても我を忘れるほど興奮したことはなかった大河は、戦闘が終わると直ぐにそれが治まったこともあり《いばらの目覚め》のデメリット効果のせいかもしれないと考えた。


 しかしはっきりとしたデメリット効果ははっきりにしない。

なにをすればデメリット効果がはっきりとわかるかわからないが、今回のようなことが起こるなら注意しなければならないと大河は心掛けるようにした。

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