恩人の正体 2

 ロボの疑問は、しかし、思わぬところから解答を得た。


「一緒に来て欲しい」


 ラウドが自分の時代に帰ってすぐ、図書室に再びレイが現れる。何の、用だろう。もしかして、第三王子を殺した下手人としてロボを王都に引き渡し、厄介払いをする気なのだろうか。様々な予感を無理矢理押さえ込むと、ロボはレイから渡された新しい白い制服に袖を通し、レイの後ろからどきどきしながら廃城の抜け道を通り、戦乙女騎士団の詰所へ出た。


「何処へ?」


 不安が高じて、思わず声が出る。


「黙って付いて来い」


 レイは相当気が立っているらしく、ロボをきつく睨んで背を向けた。何も聞くことができないのなら、黙って従う他無い。ロボは口を閉じて、レイの大柄な背中を追った。そして、辿り着いたのは。


「ここは」


 思わずぽかんと、口を開く。レイがロボを連れて行ったのは、副都の太守が住まう王宮の離れ、ロボの母が匿われている、レイの母が暮らす一室だった。


「ようこそ、ロボ。我が騎士団の一員よ」


 レイに似た、しかし小柄な影が、ロボを見て相好を崩す。


「昔助けた時はまだ抱えられるほど小さかったのに」


「え」


 レイの母と、その横にいるロボの母を交互に見遣る。言われたことが、信じられない。


「私の母は、私が生まれてからもずっと、戦乙女騎士団の団長として先頭に立っていた」


 戸惑うロボの後ろで、レイが静かに言葉を紡ぐ。


「君を助けたことも、ずっと覚えていたそうだ」


 確かに、レイの母は、レイと同じ濃い色の髪と灰色の瞳を持っている。そしてレイよりずっと小柄だ。不敵な笑みを除けば、どちらかというとラウドに似ている。


「レイ、ロボを、古き国の騎士として認めることは、できないか?」


 諭すように、レイの母がレイに言う。


「ロボは、あなたと同じように、迷い、しかしその迷いを力に変えることができる者だと、私は信じていますよ」


「母上……」


 それでもまだ納得はしていないらしく、レイがロボを見て苦い顔をする。


「分かりました」


 レイの口からその言葉が出るまで、長い時間が掛かったような気がした。


「良かった」


 ほっと息を吐くレイの母に、ロボの心もほっとする。


 ここに居て、良いんだ。そう感じたロボの脳裏に浮かんだのは、ぽろぽろと泣きじゃくる小さなラウドの姿。そうか。はたと気付く。あの時のちびラウドを、笑えない。ロボ自身も、ちびラウドと同じ、泣きそうなほどの不安を、持っていた。だから。


「ありがとうございます」


 殊更大きな声で、ロボは、お礼の言葉を、口にした。




 古き国と新しき国の双方を裏切った者。


 後世の人々は、後に副都の騎士団長まで登り詰めた彼のことをそう呼ぶ。


 しかし、この言葉が嘲りに聞こえないのは、何故だろうか?

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