第5話 ダメな奴でも

     六


 楓花とサキが、残業を受け入れた。

 うさぎが言い含めた型である。

 カレンダーの証しは、デリバリーを行う日を記したもので、議員や医者などの太客をもてなす日だったのである。


 健全とは言い難いが、風俗店に入ることの出来ない者たちの為に始めたデリバリー。

 需要と供給を揃えるには、教育が必要であった。

 教習という名目で奴隷的な奉仕を強要する。教官となる者が組織の幹部である以上、暴力的に脅すことは必須である。


 従順を演じられない者は監禁され、薬で自制心を奪われた。

 尊厳は剥奪され、逃げれないように三下に宛がわれる。性の奴隷となり、金を生み出すだけの慰み者。情婦として生きるには、縋るものが必要であった。


 陽子は、同じ傷を持つ楓花を護る為に、デリバリーを断った。

 肩で風きる荒くれ者の店長が、陽子をはたいた。石と小野が直ぐに寄り添い介抱する。


 うさぎが間に入り治めようとするが、頭に血がのぼった者故に拳銃を向けてどう喝する。

「まぁまぁまぁ」

 斉藤まるが割って入り、リボルバーを廻らないように押さえた。拳銃ごと手首を捻り取りあげる。直ぐさま拳銃を投げ捨てた。

 拳銃はワックスで黒光りする廊下を滑って、陽子の前に来た。


 陽子が拳銃を拾い、店長に向けた。

 うさぎがダイブして、陽子に抱きついた。引き金には、石の指が入り弾けない。

 店長の手下であるボーイが、うさぎらに体当たりして拳銃を奪おうとした。

 小野がその手を取り、ボーイの躰が宙を廻った。受け身のとれないボーイは、関節を決められて、顔を顰めていた。


 石が拳銃を取りあげ、小野に渡した。そのまま流れ、後ろ手にされた店長の両親指を結束バンドで締めあげる。次に、うさぎが後ろ手に関節を決めるボーイの両親指も締めあげた。


 斉藤が、デリバリーに出た女性陣を引き連れ戻って来た。荒井も一緒であった。



 同時刻


 県警の一斉摘発で銀竜会が一網打尽にされた。

 一課は、浮島のフェリー乗り場にあるブイ(波消し)を割、中から出た死体で殺人及び死体遺棄で、市内を根城に暗躍する暴力団を検挙した。


 二課は、建設関連の企業舎弟と、組する会社 (談合事件等)を検挙した。


 四課は、銀竜会傘下を銃刀法並びに恐喝事件で検挙した。


 市内に散らばる半グレ集団は壊滅した。

 直ぐに近隣から流れ込むのは予想がつく。

 

 ひとときの夢は覚めないで欲しい。

 人が変わらなければ、世の中が変わるはずがないのだから。



     七


 斉藤まると、サキが結婚して、ミチの養子になった。

 朝宮家は零細企業に縮小して、長沼を役員に引き込み落ち着いた。

 楓花を養女に向かい入れる魂胆が見え透いていた。

「あたしは、うさぎ赤瞳の娘だから、型に嵌まらないわ」

 世間体を気にするようになったのは、うさぎと一緒に図書館に通っているからであった。

 

 うさぎは時々上の空になっていた。

 加藤家の曰くは、高度成長期の歪みが起こしたものであった。脚の引っ張り合いが起こした歪みを修復しても、その基は解決していない。

 大いなる力が齎す矯正力は、虎視眈々こしたんたんと準備中ということだ。

 

 お告げの型で送られて来たものが口をついた。


 成らぬは人の為さぬなり



 取り敢えず、第一段階をした。



            




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躓き うさぎ赤瞳 @akameusagh

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