ループ少女の可能性

りーす=れんたる

第1話 お目覚めは、鈍痛と共に(特別版)

 最悪だ。

 知識もあった。覚悟もしてた。けど、それを軽く上回ってきた。


「まずいことになった……」


 学校を早退し、その足であわてて駆け込んだ先は、お風呂場だった。


 服のまま飛び込んで、シャワーに繋がるコックを捻る。


 当たり前のようにお湯が吐き出される様子に少しほっとして、湯気で曇りつつある鏡を見つめる。


 映るのは、見慣れた姿。今朝も出掛けに見た女の子。つまりは自分だ。



「あー……」


 言葉にならない? 言葉が見つからない? とにかく、今の状態を言い表す、うまい言葉が出てこない。


 考えが纏まらないのは頭痛のせいだろうか? 下腹部の鈍痛のせいかもしれない。


 おそらくそれは正解ではあるが不正解なんだろう。肝心な部分が抜けている。



「――できることからしよう」


 まずは服を脱ぐところから始める。

 浴室で着衣のままは不自然だ。そして、想像よりずっと気持ち悪い。


 脱衣所に戻る気力もないまま、その場でゆるゆると脱ぎやすいところから脱いでいく。


 上から下、すっかり濡れてしまった靴下と、汚れてしまった下着が一番脱ぎにくかった。


 傍から見れば、はじめての生理に戸惑う、若干11歳の少…… いや、美少女。


 そう、少女は今日、ひとつ成長を遂げた。


「だけなら、良かったんだけど……」


 自分を見失うほど、意識が乗っ取られるような感覚はない。

 私は私、自我? 自己? どれもブレてはいないように思う。


 だが、そんなわけはないのだ。自覚が全く足りていない。


「これ、タイムリープ? いや、ループか?」


 唐突に理解し、確信している。


 少なくとも一度。この世界は時間遡行している。

 


 なぜそれに気づいたか?


「生理…… だよなぁ。どう考えても」


 感覚、不快な痛み、重だるい意識。


 今朝から昼にかけてゆっくりと着実に、やがて自己の同一性までも歪めた。


 それに気づいたとき、最悪の可能性を理解できる自分が居た。


 

 かつての自分は男性だったのだろうということを。


 なぜそう思うのかって? 


 実のところ、確信を客観的に示せる証拠があるわけではない。


 ただ、妙に達観した感性と自意識。それに比して、生理現象にまったく免疫のない、身体的、精神的な反応。


 フラッシュバックのように強烈な既視感という矛盾した感覚の中で、この現象生理痛だけが鮮明に過ぎる。


 幾度か繰り返しているであろう人生で、女性特有の事象でループに気づいたのだから、まず間違いなくなのだろう。



 そしてそれは、とてもマズい状況なのではないかと、私の中の私が警鐘を鳴らしている。



 状況から推測するに――


 私は、時間ループに巻き込まれた間接的な被害者であり、女としての生は一週目なのではないか? という強い疑念。



 それの何が問題なのか。もちろん問題大ありだが、それらをスマートに説明できる自信がない。


 正直、狼狽しないでパニくらないで居ることだけで精いっぱいだ。


 まずは、状況の整理をしよう。



「わかっていることは……」


 ・誰かが過去に何かをした結果、私の性別が入れ替わった。

 

 ・つまり、自分は主人公ではない?


 ・最短でも十数年単位のループが発生中、またははループを脱した後の世界。



 一つ目は簡単だ。性別が変わったということは、時間歴史が私が生まれる以前まで遡った証拠だ。


 二つ目も同様だ。その時代に何かが起こったことで、私の性が変わった。狙ってできるとは考えにくいので、私は何かの拍子に出来上がった副次的な産物に過ぎない可能性が高い。



 そして、三つ目。これが一番の難物だ。


 悩みのほとんどは、結局ここに集約する。



 十年単位のループってなんだよっ!



 よくよく考えてみれば、そりゃ時間ループなんてものが現実に存在するとして、まるで人間の都合に合わせたかのように、数日程度の範囲内に収まる道理など、よほどな理由でもない限り、論理的ではない。


「これが自然現象かどうかはともかく、宇宙の歴史からしたら十年も千年も…… 仮に億単位だったとしても誤差みたいなもんだしなぁ」


 つまり、場合によっては、手も足も出ないまま、私は詰んでいる可能性すらある。



「……ハハッ」


 分かっていることだけ並べても、笑いがこみ上げる程度には狂ってる。


 

 とはいえ、逆に言えば、私にはなーんにも関係のない話と、問題を一刀両断、ぶった切ってしまってもいい可能性だってあるのだ。



「んー……、一応、他の可能性も反証してみるか」


 浴槽にのんびりと湯を溜めながら、ぼんやりと思考を進める。


 漠然とした不安から、ということはできそうもない。



 まず疑うのは、精神疾患。


 統合失調、解離性同一性障害等の可能性。



 結論から言うと、考慮に値しない。と考える。


 まず、自身での対処が極めて困難であり、対処に時間が掛かる。ハッキリ言ってしまえば、コスパが悪い。


 まあ、その辺は気の持ちようだ。周りからしたら大迷惑だろうが、私自身の認知の問題だと言うなら、今後の問題の大部分が消失するのでむしろ安楽ともいえる。


 まあ、実際にそこまで患っているこじらせているのだとしたら、私もにでも引っ越すことにしよう。


 少なくとも、これからの青春時代をドブに捨ててまで考慮すべきとは思えないので却下。



 次にジェンダーの問題。



 現状、問題なし。ただし要警戒(後述)。


 性自認は、女性で一致している。今の自分を否定しているわけではない。



 中二病


 ない。こちとら深夜ラジオの頃から知ってる原理主義者だぞ。意味改変されたあの言葉は、私にとって地雷じゃい!



「……他にも色々あるだろうけど、どれも自己完結できないからパス」


 乙女の時間は貴重なのだ。んなことにまで構ってやれるほど暇ではない。



「まあ、何もかも忘れて、今の人生を謳歌するのが最適解なんだろうけど……」



 懸念すべきことが、少なくとも三つ。


 ・この時間ループの始点と終点はどこか。


 ・このまま自我を保てる保障がない。


 ・時間干渉者の存在が近くにいる可能性。


「懸念材料がどれもくっそ重いんよなぁ……」



 まずループの起点。どこでループが発生するのか不明なのは痛い。


 私が生涯生きていくのに困らない程度の未来にあるなら、ひとまず安心と言いたいところだが、それはそれで別の問題が発生する。


 数千年先の未来だというなら、自然の摂理と受け入れよう。それは、定命の身で憂慮する理とは思えない。


 だが、想定より直近だったら?

 

 自分の生きてるうちに起こるとしても、それが運命だというなら受け入れられるだろうか?

 

 イレギュラーな自分は、これ一回きりの人生かも知れない。

 だが、普通は一度きりなのだし、それはいい。と、今は納得しておこう。


 だが、それは今の、

 —―自身の幼さを覆いつくすほどの情報知識で埋めつくされた、枯れた思考だからに他ならない。


 これがもし、子や孫の世代が、その未来を閉ざされるのだとしたら?


 それもまた運命と、私は諦めて生きれるだろうか? 次もまた女として生まれてくるとは限らない。たとえ女として生を受けても、同じ人生を精密に辿らなければ、もう二度とその子たちには会えないだろう。

 

 会えたとしても、またその子たちの未来を奪うことになる可能性の方がはるかに高い。

 悲劇は繰り返す。今度は自身のエゴによって。


「……(んー……ダメだ。生理のせいもあって考えが良くない方に流れてる)」



 とはいえ、次の懸念も先述したことと関連する。


 もし、私の中の彼が今行った仮定のような立場だとしたら?


 正直、私個人の性別が変わっただけなら、おそらく受け入れるだろうと思う。

 少なくとも拒絶はしない。と、信じたい。


 けれど、彼には彼の人生があった。恋人もいただろうし、避けえない運命に直面したことも少なからずあったろう。


 自分の為いざ知らず、誰かの為、愛する子や孫の為、己の人生を変えたいと願った時、彼は私の人生を尊重してくれるだろうか?


 自分自身の幸せを、他の誰よりも、なによりも、大事に思ってくれるだろうか?


 自己愛はある。自覚もしてる。決して軽いものではないが、正直、それがすべての悲喜をも超えるものとは到底思えない。


 エゴとエゴが対立したとき、どちらが勝つのか? 若くて鮮度の良い私か? それとも生きた年数だけ思いを重ねてきた彼か?


「今はまだ、おぼろ気だけど……」


 彼の知識だけでなく記憶まで目覚めた時、私はどうなる? ジキル博士とハイド氏のようにはっきりと二分されるものなのか?


 考えても詮無いが、さすがに他人事と割り切れるものでもない。




 だから、今だけは物理的に断ち切ることにする。



 ザプン……っと、思いのほか勢いがついてしまったが、ようやく溜まった湯に全身浸かる。


「まあ、風呂が心地いいのは、おっさんも同じだろうし、一時休戦~♪」


 生理中に入浴していいのかとか知らないんだけど。とりあえず、ほっとしたいから入ることにしたのだ。


 はあ。ほんと、日本人で良かった。と思える瞬間である。


 何度ループしても、性別が変わろうと、風呂とゲームとマンガとアニメのある日本に生まれることが約束されてるのだから、そんなに悪い話じゃないような気さえしてきた。


 少し熱いと感じた湯が、身体と一体化していくのを感じながら、私はまだ考えを続ける。



「次の問題もなぁ……」



 時間干渉者の存在。


 たまたま偶然の事故の可能性も否定はしないが、誰も何もしない状況下で、本来の因果から結果が変わるなんていう、科学がどうの以前の事象は認めようもない。


 そんなんで性別が変わるなら、世界はもっところころと姿を変えてていいはずだろうし、なによりループの自覚者が爆発的に増加してないとおかしい。


 少なくとも、いわゆる都市伝説のような噂ですら、十年単位の時間ループなんて聞いたことがない。


「――って、そんな扱いにくいギミック、思いついても誰も使わんだろうし。当たり前か」


 噂や都市伝説は、まことしやかで、尾ひれが付けやすくないといけない。


 こんなぶっ飛んだ設定じゃ、話の広げようもない、か。



 ともあれ、私は稀有な存在事例だということにして、仮説を進めていく。



 となると問題なのが、くだんの干渉者の存在である。


 私の出生に間接的にでも関われる人物がいた。


 下手すれば千年規模のループだ。

 風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな、遠因で私が生まれた可能性も無くはないと思うけど、それは私にとって、あまりに意味がないので、ここでは言及しない。


 少なくとも私の両親と関われる人……?


 としたら、近所に居てもおかしくないわけだ。もちろん、両親が干渉者の可能性だってある。


「……(まあ、人外の可能性もあるけどさ)」



 実はその可能性にも心当たりがまったくないとも言い切れない。


 そもそも、私の記憶はどうやって継承されている?


 男か女かは、この際別にしても、脳が形成される以前まで時間が遡った時点で、本来なら物理的に記憶が初期化されるのではないだろうか?


 ループ物のうさん臭さは、大体此処に行きつく。


 どうやって記憶保持してんだよ! って話。


 私の場合、性別すら変わっているのだ、どのあたりで同一個体だと認識する? 細かく言えば、日々の暮らしだって性別が違えば変わるだろう。


 例えば七五三とか、桃の節句とか、性別で大きくズレるものがある。


 なにか、外部に記憶ではなく記録があるのではないか?


 とかね。


「だとしても……だ」


 こんな美少女捕まえて、おっさんだった頃の記憶を植え付けるとか、発想が変態的すぎる。

 もし意図してやったんなら、素直に引く。



「それともあれ、世界は五分前に作られたんだ! ……みたいなやつ?」


 そこまでいくと、どっかの財団案件だよ。関わりたくねぇ。 



「あるいは魂とか? そのうち超能力とか月での記憶が蘇ったりすんの?」

 

 おいおいおい。おねショタするには、最低でもまだ五年は先だぞ。つーか、現役で同級生とか見てる限り、あんな自意識過剰なスケベ小僧共とロマンスとか、マジであり得ないんですけど。


「それとも魔術、呪いまじないの類? 先帝の無念を晴らせばいいの?」

 

 もうよくわからん。


 が、自分が貴重なサンプルとして扱われる可能性は、決して小さくない。


「少なくとも、干渉者が誰か分かんないうちは、大人しくしてるしか安パイがない」


 そもそも、その人物? が黒幕や原因とも限らない。


「つまり、それらの要素を掻い潜って、青春を謳歌しろってか?」


 なんと前途多難なことか。


 ………………


 これ、ハッピーエンドあるんだろうな?


  



 ◇



 あとがき

 (↑※嘘ではないですけど、嘘です。読み飛ばしていただいて構わないので最後までスクロールお願いします)




 動きがないから、裸で釣るっっっ!!!


 という裏コンセプトはともかく、


 無理やり詰め込んでみました。


 小説書くこと自体、初心者過ぎて、どういうフォーマットで書くのが正解か分かんなかったので、ほぼ伝えたいことだけに集約しました。


 設定はいたってシンプルなんですが、ご覧いただいた通り、前提となるシチュが自分の知る限り、あまりメジャーとは思われないため自然な流れ1万字以内でこれを伝えつつ真っ当な小説の体を維持するのは私の技量では無理でした。


 なので独白形式で、設定の解説のみになります。

 (ちな、普通の小説で書くつもりなら、ここまで赤裸々に手の内晒しません)


 ゲームとしても小説としても、マルチ シナリオ/エンド を意識してます。


 かつての小説のスタイルでは難しいでしょうが、読み手が気軽に選択できるweb小説なら可能じゃないかなー……と、考えていたところに、非常に参加してみたい企画が転がってきたため、急遽ゲーム方向に寄せてこしらえました。



 時間ループを起点に、日常 SF サイコホラー サスペンス/ミステリー等々、放射状に分岐させれば、昔のノベルゲーみたいなのはたぶん作れると思います。が、


 まだゲーマーの端くれとして、そんな無難な提案はしたくない。


 ――ので、少しだけ補足。



 まずゲームとして設定を見た場合、


 先述の独白劇の通り、少女は時間に能動的に干渉する立場にありません。関わりたいとも思ってません。


 それ故、ループものでありながら、その設定に世界観や少女の言動が、きつく縛られることがないのは、大きなアドバンテージと考えます。



 個人的には、ループ設定はプレイの足かせ+イベントの多様化に用い、本筋はポップで可愛い美少女の日常を、いかに 維持or壊す かに焦点を当てた、見守り/育成型のゲーム(プレイヤー≠少女)を想像しました。

 (※以下、一例として、その体で話を進めます)


 少女が日常を歩む中、プレイヤーが変化を促すことで、彼女の未来が変わる。


 プレイヤーは、俯瞰でそれを眺めつつ、何らかの方法で手に入るポイント分だけ彼女の生活に強く干渉できる。


 ここでループものの面目躍如として周回要素を追加、いつでも1クリックで一部の状態(ステータス/フラグ/アイテム/上記の干渉ポイント)引継ぎではじめからやり直せる。


 誰でも気軽に遊べるイージー要素と同時に、一週目ノーリセで最高(ゲーム難度的な意味)エンドを目指すやり込みプレイもできるようなゲームデザインは……難しいですかね。


 時間ループをギミック言い訳として使う場合、登場キャラやアイテムに、多少異質なものが混ざっても許容される範囲が広いというメリットがあります。



 例えば、メイドロボオーバーテクノロジーがしれっと我が家に導入されたとします。

 

少女はその違和感に気づけないかもしれませんし、自分の日常が侵食されてることにおののくかもしれません。


 それともで、したたかに状況を利用することも考えられます。



 配置したオブジェクトが同じでも、少女の疑心ステータスによって、効果が様変わりするなんて言うのも面白いかなと。


 少女が、積極か消極か、あるいは適性値に到達してるかでイベントで得る効果が変わる。テキストも変化する。


 とか、

 

 嗜好的なジャンルとしても、


 真っ当に【子育てもの】【学園もの】


 キャラ特性を生かして【TS】【百合】【乙女】


 と、幅広く網羅しつつも設定上許容されるかな?(作り手の苦労は考えない)


 あとは、昨今よく見られる追加アップデートが、シナリオの設定上、嫌われにくいというのもあるかもしれません。


 プレイヤー視点で見れば、


 いわゆる【やり直し】ものとして気軽にプレイする層。

 

 人生を非ループで踏み外すことなく導く【縛りプレイ】


 最適解を求めてループを利用する【RTA】


 とにかく数値を最高値にするだけの【やり込み】 


 と、プレイヤーに、遊び方の幅を持たせて阻害しない。



 とまあ、悪いところつっこみどころは敢えて無視して、良さげな部分のみ書きましたが、


 本音を言えば、


 愛らしい少女を期限を気にせず無限に育てたい。でも、エンディングの達成感も味わいたい。

 という矛盾した気持ちわがままをまるっと内包できないものかな、とひねくりだしただけで、具体的には何にも纏まってません。


 あと、ゲーム原案というお題でゲーマー釣っといて、ゲームデザインついては考えなくていいですよ、は、一見親切っぽいようで、一番キッツイ縛りだと思います☆





 ◇




 カタカタカタカタ ッターン!!!


「――っと、よし! これだけ書けば「なんだティーンの妄想小説か……」ってなるだろう」


 快晴の真昼間っから、私はしこしこと、テキストを打ち込んでいた。


 まかり間違っても精神疾患を疑われないためだ。


 うっかり家族の前やらかして、精神病院送りとかマジ勘弁だからな。


 夢見がちな子供を演じて、伊達メガネでもかけておけば、少年探偵にあこがれてる系女子ってことで誤魔化せるだろ。


 とはいえ、うっかり興が乗って、誰とも知れない相手に、色々愚痴のような妄想を垂れ流してしまった。


 なーんか、近くて遠い未来じゃ、こんな素人丸出しの文章でも小説を発表できる場所があるらしい。


 少なくともネットが普及する頃には、意味を成すことだろう。


「ふはは、見た目はこんな可憐な美少女でも、知識は未来を先行くおっさんなのだ。これくらいの予防線を張るなど造作もないわっ!」



 中二病は地雷と言ったな?


 ………………


 あれは嘘だ。

 


「大体さー、おっさんが美少女になったら、やることなんて決まってんだよなぁ」


 つまり、アレもしないコレもしないって時点で、おっさんは良いロリコンなんだよ。

 

 お風呂で鏡を見る時間が増えたりとかしてないから。


「まず、紳士なおっさんは黙って見守っててくれる。私は、おっさんに愛想付かされないように、このまま理想の美少女道を突き進む」


 なんだ、簡単じゃないか。


 これはあれだな。未来を知ってるチートで現代無双とかいうやつだな。



「ふっ…… 勝ったな」


 

 —―さーん。



 ――なか、さーん。


 たなかさん!!!



「ああ、まーたお隣の田中か」


 なんか知らんけど、自室に閉じこもって出てこないとか、お母さん言ってたな。


 ま、なんかあったんだろうな。


 うるせーけど、大人は色々あるんだろう。だからそっとしておくのが美少女にできるせめてものことだよな。


「っとそうだ。私もラムネ食べる時間じゃん!」


 ………………ん?


 あれ、サプリの時間だっけ?


「まあ、いいや。てかこれ、粒がちっちゃいんだよなぁ。なにが、おいしくなって新登場! だよ。消費者をナメやがって」


 掌に全部出してパクり。


 うん、少し美少女らしくなかったかもしれない。


 まあでも、全然足りないのが悪い。


「……にもっと量増やしてもらうかなぁ」


 でも、この間増やしたばかりだって怒られるかな?


「いや大丈夫。月に一回しか来ないんだから、子供らしく甘えればいいんだよ」


 ほんと、時間ループなんて忘れるくらい穏やかな日々だ。


 今日も外は、私の気分みたいに晴れやかだし、こんな日は外で遊ぶのもいいかもしれない。


「ああ、でも、お母さんが今日は一日台風だから外に出ちゃいけないって言ってたなぁ」


 うん。


 外で遊ぶのは、明日にしよう。ゲームもやりかけだしね。



 目の前には、駄文の元ネタになったゲームが、


 真っ白く、これから何物にもなれる、どんなものでも描ける優れものだ。


 なんて言ったっけ? おっさん世代は、ツクールとか呼んでたんだけど……


「んー……?」


 まあ、遊ぶ側にはさして関係のない話だ。


 今はやりかけのゲームを遊びたいだけ遊ぶのだ。



「――だって、のままとか、気分が悪いもんな」





 ……次は、どんなエンディング出るかなぁ。




 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ループ少女の可能性 りーす=れんたる @lela

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ