夢のまた夢
🌻さくらんぼ
夢のまた夢
入道雲が、真っ青な空にどっしり腰をおろしている。辺りには海が広がり、ゆらゆら波を立てている。空では海鳥が飛び交い、海では魚が群れで泳ぐ。そんな穏やかな日のことだった。
水中で、キラキラと太陽の光に体を輝かせながら、イムは言った。
「私、大きな羽が欲しいの」
とたんに周りで泳ぐ魚たちが、ギョロッとイムを見た。しかし次の瞬間には、スッと視線を外している。
「ちょっと声が大きかったみたいね」
夢はある? とイムに聞いていたサニーは、苦笑いした。イムは気にせず言った。
「サニーは欲しくないの? あんな風に空を飛んでみたいと思わない?」
「そうね、あのクチバシに捕まるくらいなら」
「そういうことじゃないのよ。もっと楽しくてワクワクして……」
「あんたのそういうところ、好きよ。見習おうと思って聞いたの。だけど私にはそんな突拍子もない夢なんてない。それどころか、小さいのですら。こんなところじゃ希望なんて持てないわ。いつ死ぬかわからないんですもの」
「そうだけど、そんなのつまらないじゃない。きっと鳥だって思うのよ。誰よりも早く泳げるヒレが欲しいって。そうしたら素敵じゃない? ただ食べて食べられるだけの関係じゃないのよ」
「あんたにとってはいいかもしれないけれど、私は嫌だわ、そんなの」
二人は会話に夢中だった。だから、何も気づかなかった。いや、ほかの魚たちだって気づかなかったし、避けようがなかった。前触れなどなかった。
ゴボッと水面を、クチバシが突き破る。魚たちの心臓はぎゅっと縮み、蜘蛛の子を散らすように逃げる。
クチバシはすぐに、ザバッと水面の上へ消えた。
皆、恐る恐る列へと戻っていく。
「イム……?」
サニーはキョロキョロと辺りを見た。
「イム、イム……?!」
魚、魚、魚。けれど、イムではない。姿はなかった。
「イム、イム……!!」
目の前の海水に、赤黒い血が滲んでいる。
それが全ての答えだった。
海鳥のホヨヨは、先程捕まえた魚をゴクリと飲み込んだ。
そこへ、同じく海鳥のガルが、バサバサとやってきた。
「よう! おまえ、見せ物に出来そうなくらい魚を捕まえるのがうまいよな」
「そりゃあどうも。見せ物の報酬として魚に生まれ変われるんだったら、いくらでも見せてやるよ」
「まだそんなこと言ってるのか? お前は本当に変わってるよな」
「きっと魚の中にもいるよ。鳥になりたいっていう、変わり者の仲間がさ」
日差しが、ホヨヨの羽をキラキラと照らすのだった。
(完)
夢のまた夢 🌻さくらんぼ @kotokoto0815
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