すべてがMになる

          ☆    †    ♪    ∞


[二〇××年 某月某日]

[午後一時二〇分]

[公立春日峰かすがみね高校 一年一組教室]


 昼食を食べ終え、いそいそと弁当箱を片付けていたヨリの前に、音もなくマユナが現れた。

 世紀末劇画風のいかつい顔つきに、頭にはアメリカの星条旗を模したような縞模様と星型がプリントされた青いシルクハット。


 どう見てもただならぬ雰囲気ではあった。


「い、乙海いつみさん……?」

「…………」


 おずおずと呼びかけるヨリに対し、マユナは無言でヨリの机にある物を置いた。


 ――ピンポンブザー。ボタンを押すとピンポンというブザー音と共に丸印のパネルが跳ね上がる、クイズ番組/大会などでよく見る装置。


「――突然ですがここで問題です」

「えぇ……?」


 脈絡もなくマユナからクイズを仕掛けられ、困惑するヨリ。


「問題。二人で向かい合って話すことを『対談』といいますが、では三人で向かい合って話すことをなんというでしょう?」

「え……えーと……」


 ヨリはおそるおそるボタンを押して、ピンポン♪とブザーを鳴らした。


「か、会談?」

「――ブブー! 正解は『鼎談ていだん』です! よって罰ゲーーーーーム!」

「えぇ……!?」


 地味に難しい問題によって、マユナから無慈悲な宣告を受けるヨリ。

 マユナの真の狙いはここにあった。


「ば、罰ゲームって、なに……?」

「それはね…………ちょっとアマネちゃんこっちおいで!」


 怯えるヨリに、マユナは唐突にぴこぴことアマネを手招く。


「うむ」

「はいちょちょいのちょいで――アマミー完成」


 アマネの髪を素早く手際よくいじるマユナ。


 その髪型はお下げが二つ――ヨリとほぼ同じだった。


「――問題を間違えるたびに、他の子の髪型がマミーとおそろいになっていくという恐怖! ククク……ふるえるがいい!」

「…………」


 渾身の罰ゲームを炸裂させてご満悦のマユナに対し、ヨリは微妙な面持ちとなった。

 実際、内容的にも微妙だった。

 直接的な被害はないものの――恥ずかしいといえば、それなりに恥ずかしい。


「かわいいか?」

「かわいい!」


 むしろ巻き添えを食っているのはアマネの方だが、当人はまったく気にしていないどころか突然のイメージチェンジに満足げだった。マユナも満足げである。


「では続いての問題は『意外と知られてない名前シリーズ』です。この部分の名前は――」


 言いながら、自分の膝の裏をヨリに見せながら指をさすマユナ。

 急いでピンポン♪とブザーを鳴らすヨリ。


「ひ、膝裏ひざうら……?」

「――膝裏ですが」

「あれ……!?」


 単純なフェイントに、ヨリは綺麗に引っかかった。


「膝裏とは別の名前はなんというでしょうか?」

「そ、そんなのあるの……?」

「じゃあヒント。全部で四文字です」

「……四文字」

「そして最初の文字は『ひ』です」

「……………………膝裏?」

「罰ゲーーーーーム!」


 さもありなん。あるいは、むべなるかな――といった、よどみない流れで二度目の罰ゲームが炸裂する。


「はいちょちょいのちょいで――コマミー完成」


 マユナの手によって今度はコマリがヨリと同じお下げ髪となる。

 コマリ本人は相変わらずの無反応だったが、アマネには新鮮だったのか「うむ。これも中々」とやはり満足げだった。


「ククク……次はヒダリーがマミーとおそろいになっちゃうぜ!?」

「なっちゃうぜー」


 悪役のような笑みを浮かべるマユナに、すでに髪を下ろしてスタンバっているジュン。


 ヨリに逃げ場はなかった。


 ――が、その時、


 ピンポン♪とヨリに代わってブザーを鳴らしたのは――ランセ。


ひかがみ


 短くも、明瞭とした回答。


「――――――――………………正解!」


 そこそこにもったいぶりながらも、マユナは正解を告げた。


「あ、ありがとう……刻さん」

「いや……このゴリラの奇行に無理して付き合わなくていいからな?」


 代わりに正解したランセに礼を言うヨリだったが、ランセは『優しすぎるのもどうかと思う』と言わんばかりの心配してそうな言い方だった。


「……で、正解したらどうなるんだ?」

「え? えーと……」


 ランセに聞かれ、目を泳がせるマユナ。

 正直な所、何も考えてなかった。

 目を泳がせた先でアマネとマユナの目が合う。マユナはおもむろにアマネの目線まで腰をかがめた。


 ちょいちょいとマユナの髪をいじるアマネ。


 マユナの髪型も、ヨリとおそろいのお下げ髪となった。


「「…………………………」」


 なんだかんだで恥ずかしいのか、二人して顔を赤くするマユナとヨリだった。

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