side 詩乃

彼は時折、急に家を出ていく。

それも時間帯もバラバラ。

ただ、一つだけ同じことがある。

それは、いつも家を出ていく時は辛そうな顔をしているということと、私のことを1度撫でてから出ていくということ。

いつも少し恥ずかしいけれど、その暖かく大きな手で撫でられるのは好きだった。

……彼と離れるのは嫌だ。

きっと今まででいちばん苦しい思いをする。

……そう、捨てられた時より。

「いつか、黎には伝えられるかな」

彼は、私の秘密を受け入れてくれるのだろうか。

もしもまた…捨てられたら。

「……嫌だよ」

もしものことを考えてしまい 、自分が泣きそうになるのを感じる。

きっと彼は捨てたりなんてしない。

そう考えても、どこかで思ってしまう。

ただ

「…信じよう」

信じてみよう。

昔のせいで出来なかった、いや、出来なくなってしまった『信じる』ということ。

壊れてしまった自分に手を差し伸べてくれた、何も出来なくなった時に助けてくれた。

そんな彼なら信じたいと思った。


今日も彼はいない。


「あなたは、私を助けてくれた人。だから、辛かったら、私にも寄りかかってほしいな」


聞こえるはずのない本音を、リビングで呟きながら寝そべる。

いつか、彼が疲れてしまったら、壊れかけてしまったのなら本当の心の拠り所になりたいと思う。



いつかの自分の最後まで、彼と一緒にいるために。


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死にたい僕と生きたい君の話 夜桜 @yozakularain

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