第114話 Later Talker Ⅱ

「その部屋のキリクさんなら、今朝方けさがた退院されましたよ?」


「ッ?!」


ドんッ


「ちょっと、ソレ、一体どういう事ッ?」


「痛っ。えっ、えっ?ちょっと、どうしたんですか?苦しいです。離して下さい。けほっ」


 少女はもの凄い剣幕で、たまたま通りすがってたまたま言葉を掛けて来ただけの看護師に掴みかかり、掴んだ状態でそのまま壁ドンした。

 本来の使い方は違うかもしれないが気にしてはいけない。



「いいから、アタシの質問に答えなさいッ!キリクは、キリクはなんで退院したのッ?!」


「お、落ち着いて下さい。けほっけほっ。お願いですからぁ」


「おい、どうしたどうした?」 / 「ケンカか?」 / 「なんかオトコのコトでモメてるらしいぞ?」


「うっさいッ!!外野は黙っててッ!」


 少女は掴んで壁ドンした看護師に対し、てワケも分からないまま怒鳴り散らしていた。騒ぎを聞き付けた他の看護師達やら、周辺にいた患者や見舞い客などが、少女を取り囲むように人だかりを作り、瞬く間に大騒ぎになっていった。




「それでは、順を追って説明しますね?」


「えぇ、お願い……します」


 ——少女は現状、ベッドの上に縛り付けられる形で拘束されてる。そして、その前には1人の看護師長が立っていた……。



-・-・-・-・-・-・-



「うっさいッ!外野は黙っててッ!」


「看護師長、どうしますか?」 / 「私達じゃ近寄れなくて」


ぽんぽん


「あぁ、あの人はあの時のお嬢さんか。ここはボクに任せて。キミ達は部屋をどこか空けておいてもらえるかな?」


「先生!はい、分かりました」


「ほら、早く話しなさいッ!」


「けほっ。は、離して下さい。けほっ。私が一体何をしたって言うんですかぁ」


ぷすッ


「アタシは聞きたいだけなのッ!なんで……えっ?頭が……回る。あれ?あれれ?」


ばたんッ


「あっ、コレ、鎮静剤ね♪」


 1人の医師の機転に拠って、騒ぎは落ちついた。首に注射器を刺され、鎮静剤を打ち込まれた少女は意識を失って、その場に崩れ落ちていった。


 意識を失っている少女は、病院スタッフによって医師が指示した部屋に連行される事になった。

 こうして運び込まれた病室のベッドの上に縛り付けられ、拘束された状態の少女が完成したのである。




「キリクさんは今朝方退院されました。まだ、右腕と脚のリハビリも途中でしたし、折れた左腕の骨も完全に付いているとは言えませんでした……その為、私達としましては全力で引き止めたのですが、キリクさんの意思は固く、付き添いの妹さんと一緒に退院されたと聞いています」

「——何かの手違いで…………」


 少女は頭を冷やし冷静になってその話しを聞いていた。だが、最後のその言葉に衝撃を受けていたのは事実だった。



 キリクはアタシじゃなくて「リュウカを選んだのだ」と、そう思ったからだ。そう思った時、少女の瞳から大粒の涙が溢れて頬を伝っていく。

 少女が寝かされている白いシーツの上にはシミが広がっていった。



 少女が呆然と流す涙に、話しをしている看護師長は少しばかり戸惑った様子をしていが、淡々と話しは続けられていった。


 少女は耳を塞いでいたワケでも無いのに、何故か言葉が一切入って来ていなかった。それは「ちゃんと聞いていたにも拘わらず」だ。



 最後に看護師長は手紙を少女の枕元に置き、更には少女が落とした「とある物」も一緒に置くと、どこかへと立ち去っていった。


 その後少女の拘束は解かれ、部屋には少女と手紙と2つ星だけが置いてけぼりにされたのである。



 少女は呆然とした状況の中で、渡された手紙を開けていく。そこにはキリクが動かない手で、必死に書いたと思われる文字の羅列があった。

 その手紙に書かれた、お世辞にも綺麗とは言えない文字1つ1つに、少女は時間を掛けてゆっくりと目を通していくのだった。




「   何も言わず、黙って勝手に退院する事を許してくれ。


 昨日、マムから使いが来て、お前の快挙を聞いた時、オレはいても経ってもいられなかった。

 だから先ず、これだけは言わせてくれ。



 2つ星昇格おめでとう。


 オレは負けず嫌いだからな、病院で安穏あんのんと回復を待つのを止めるコトにした。お前の自慢話しを聞きたくもないしな。


 そして、再び闘える身体に鍛え直して、ハンターとして復活してみせる。



 復活したらお前の前に必ず現れる。これは、約束だ。


 そして、その時までにお前の気持ちに応えられるように、オレ自身の気持ちも整理しておくよ。



追伸


 リュウカは家を失ったって聞いたから、しばらくはオレが面倒を見るコトにしたよ。

 それにオレのリハビリのサポートもして貰う。



 そして、オレの傷が癒えたら1人前のレディにして、この世界で独り立ち出来るように支援していくつもりだ。


 それがオレに出来る唯一の恩返しだからな。



 ま、そういう事だから、リュウカを恨まないでくれよ。



 それじゃあまた、会えるのを楽しみにしてる。


キリクより   」



「バカ……。いっつもそう。1人でなんでもかんでも決めちゃってさ……。なんで、アタシに相談してくれないのよぉ……」

「——アタシはそんなにお荷物なワケぇ?うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ」


 少女はその瞳は呆然と流れ出た涙を止めてなどいないし、止めようともしなかった。だから涙で視界がゆがみ、ぐちゃぐちゃな字がかすんで更に読みづらかった。



 でも最後までちゃんと読み終えると、その手紙を抱き締め背中を丸め盛大に泣いていた。


 体裁ていさいも何もかも気にせずに、ただ泣きじゃくるだけの「か弱い」少女の姿がそこにあっただけだった——。




 それから更に月日は流れていく。


 季節は夏から短い秋を経て、木枯こがらしが吹く季節になっていた。


 近頃の天気は全ッ然。晴れなのか雨なのか分からない、どっちつかずだ。

 それこそ「女心と秋の空」を体現しているような天気だと言えるだろう。


 まぁ、既に木枯らしが吹いているので「秋」ですら無いが、それは言葉のと言うヤツだ。

 時には察するのも大事な事である。




 それはとある依頼クエストからの帰り道の事だ。少女はセブンティーンのステアリングを握り、いつものように軽快なエグゾーストを奏でながら、屋敷への道を突き進んでいた。



 空模様が宜しくない。いつ泣きだしても可怪しくないから、急いで屋敷に向かっていたのは事実だった。



 しかしここで少女は運転中にふと、違和感を覚えたのである。大通りから路地に入ってしばらく走った、農村地帯の真ん中に覚えた違和感だった。


 少女はセブンティーンを停めて降りると、周囲を見渡していく。



「何か……ある。あれは何かしら?」


 少女は違和感の元凶を探るべく、枯れ始めている背の高い雑草畑ざっそうばたけの中に分け入って行く事にした。



 そこには、1つの「目」があった。1mくらいの黒い球体の真ん中に、たった1つの「目」だけが見えていた。



「?!ッ」


 「目」は最初から少女に気付いていたのか?それともここで少女に気付いたのか?

 そこまではよく分からない。


 口の端を「口角こうかく」と呼ぶならば、「目」しかないこれは、目の端の「眼角がんかく」とでもいうべきその部分を、両方共に下げていった。



 それはまるで下を向いた三日月のように、わらっている「目」であって、それは少女を見据えていたのである。

 そして少女が何かしらのアクションに移るより一瞬だけ早く、少女のいた空間ごとワームホールをこじ開け消滅していった。


 その空間にあった物は全て、根こそぎ消失した。それは少女もモチロン、例外では無かった。




 ポツッポツッと、冷たい雨が降り始めていた。次第に雨足は速度を上げ、いつしか本降りになっていく。



 少女の生体反応が確認出来なくなったセブンティーンは、緊急事態エマージェンシーを告げるアラームをかなで始めていた。



 その音色は単調で、どこか物寂しい雰囲気をかもし出していたと言える。

 だが聞きようによっては、親が餌を持ってくるのを待ち侘びる小鳥の鳴き声のようにも聞こえる音色だった。



 しかし本降りになった雨とのセッションを聞いているモノは、誰も何もいなかったのである。ただそこにある雑草以外には……。




-・-・-・-・-・-・-


~あとがき的なモノ~


 この話しは「不思議なカレラ」の一章部分になります。ただ、この不思議なカレラシリーズは二章から始まっています。

 二章は前後編に分かれ、二章前半は一章の前に、二章後半は一章の後に繋がります。



 物語は2章前半→1章→2章後半です。時系列的には1章→2章前半→2章後半です。

 色々なフラグを織り交ぜた結果、こうなりました。フラグの回収は2022.7現在で6割くらいです。

 後ろの章でポチポチっと回収していきます。


 ちなみに設定は概ね、二章後半までに七割程度放出されます。



 ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。

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不思議なカレラ ~Became a shooting star~ 酸化酸素 @skryth @skryth

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