12
「おうおう、部下が戻ってこねぇと思ったら……こりゃあいったいなんの騒ぎだ」
アイリスの訴え通りに誰一人傷つけることなく、威嚇射撃を織り交ぜながらモーゼの十戒さながらに割れた住民の間をガキとジジイを引き連れ歩いていると十数名からなる部下を引き連れて近づいてきた男が立ち塞がった。
その姿を見た村の住人たちは、慌てて土下座の姿勢を取って地に額をつけてひれ伏す。住民の中で最も高齢だと思われる老婆が、皆が土下座の姿勢で固まっている間を縫って男達の前に躍り出ると、必死に赦しを乞いた。
「お頭さん……これは違うんです。決して子供を逃がそうなんてつもりは」
「黙れ、クソババア」
「え――」
集団の中央、大勢の山賊を引き連れ歩いていた一際大柄な男が振るった刀は、釈明しようとしていた老婆の首を一切の躊躇もなく切り落とした。
間欠泉のように血飛沫を上げて頭部を失った体は崩れ落ち、他の人間は声も出さずにただただ震えているだけだった。
圧倒的な暴力に屈した人間の姿は、かくも醜い。
「アンタ、この村では見かけない顔だな。そこのガキを勝手に連れて行ってもらっちゃあ困るんだよ」
たった今切り捨てた老婆の血が、ぬらりと光る
「このガキをどこに連れてこうが俺の勝手だ。それより、死にたくなかったらその汚ねぇ刀をとっとしまえ。刃物をちらつかせるやつほど弱く見えるぞ」
「はは、やはり余所者だな。俺様を前にして口答えする度胸は買うが、少しでもアキツ組の恐ろしさを知っていりゃ、そのような馬鹿な真似はしないはずだからな」
よほど看板に自身があるのだろう。
日本でも金バッジをこれみよがしに掲げながら肩で風切って歩く輩をそれなりに見かけたが、そのような男の寄せ集めは往々にしてメッキが剥がれるのが早いのが世の常と相場決まっている。
「あんたがナニもんかはこの際どうでもいい。ほれ、素直にそのガキを渡しやがれ。でないとこの村の住人を一人ずつ殺すぞ」
「それは脅しのつもりか? あいにくアキツ組なんざ眼中にもない。それに強者に媚びへつらう人間がどうなろうと俺には一切関係のないことだ」
宣言とともに手にしていたグロックを大男の大腿部に向けて発砲すると、情けない声を漏らして片膝をついた。
狙いは大動脈からの
「な、なにしやがるッ! 貴様……一体ナニもんだ!」
「俺が誰だろうとどうでもいいだろう。これから死ぬ人間に教えたところで無駄でしかない」
まさかの反抗に気を動転させた住民はその場から逃げ出し、余裕ぶっていた態度を豹変させた大男は部下に「さっさと殺しちまえっ!」と怒鳴りつけ自分は後ずさっていた。
向かってくる有象無象との対決は命のやり取りには程遠いが、せめて暇つぶし程度にはなってくれない困る。
しばし契約の範囲外の闘争に身を投じた――。
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