13
山賊と名乗ったところで所詮チンピラの集まりでしかなく、三下に期待はしていなかったが大男を銃弾一発で行動不能に陥れた武器を手にする無悪に誰もが距離を縮められず二の足を踏んでいた。
そのなかで最初に雄叫びを上げながら襲いかかってきた二人は、まだマシな部類だったといえよう。
残念なことに馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んで来るだけでは、無悪の目にはただの射撃訓練の的にしか映らないが。
一人を眉間、もう一人は眼球目掛け撃ち抜いてやると、その場で糸が切れたように手足を投げ出して崩れ落ちた。
眼の前で仲間が一瞬にして殺された現場を目撃した連中のなかに、拳銃の仕組みを理解してるやつがいるとは到底思えない。
それでも急所を貫かれると即死するという解に辿り着いたようで、徐々に無悪との距離を開けていった。だが、背後から突き刺さる大男の怒声が響くととうとう逃げ場を失い、板挟みとなっていた。
「なにしてやがる! いいから全員で畳み掛けてそいつを殺しやがれ! いいか、逃げ出したやつはこの俺様が手ずから葬ってやるから覚悟しておくんだなッ」
行くも地獄、行かぬも地獄――ようやく死神の鎌が首元にあてがわれていることに気がついた山賊どもは、無悪とその足元に転がる無惨な死体を交互に眺めると歯の根が合わないまま、「ふわぁ〜〜」と奇声を発しながら特攻を仕掛けてきた。
なんとも醜い、無様な姿。
無悪は刀を振り上げて迫りくる一人一人の表情を観察しながら、心中でさんざん悪態をついていた。
強者と呼ばれるライオンであっても、安全な檻の中に閉じ込められてしまえばいつかはサバンナの過酷な環境を忘れてしまう。
自らは二度と致命傷を負う心配がない檻の中で、卑しくも弱者から利益を得ようと考える姑息な連中は、いざ自分が死と隣合わせの環境に身を置くことでその無様な本性をさらけ出す。
より強い強者と対峙したときこそ真価が問われるというのに、どいつもこいつも「どうして俺がこんな理不尽な目に遭わないといけないんだ」と、今にも泣き出しそうな顔で死にゆく。
「もういい。お前らはとっとと死にやがれ」
敢えて集団の中に飛び込んだ無悪は、グロックをベルトに差し戻すと代わりに懐から
眼の前で恐怖に体を
腹腔内の内圧に押し出された腸がその場で
匕首を引き抜いた勢いで背後から飛びかかってきた男の首を一閃すると、豆腐に包丁を入れるような僅かな抵抗すら感じさせない切れ味で皮膚を斬りつける――いや、撫でるといった表現が相応しいかもしれない。
何が起こったのか解せないといった表情のまま生首は宙を舞い、斬られたことに気付いていない体は数歩前進すると、遅れて死を迎えた。
辺り一帯に飛散した
次に殺されるのは自分の番ではないかと、恐慌状態に陥り背中を見せて逃げ出した数人の山賊の後頭部をそれぞれヘッドショットで射抜いて黙らせた。
「や、や、やめてくれ……。金ならいくらでも分けてやるから……超越草の利権もくれてやるから……どうか見逃してくれよぉ……」
最初の威勢は消え失せ、たった一人の生き残りとなった大男は、顔を引き攣らせながら裏社会の組織の頭とは思えない無様な言い訳をくり返す。
「お前から頂くもん頂くとして、それは死んだあとでも構わないだろう。それと、月並みな言葉だがお前は今までそうやって助けを求めた人間を見逃してきたか?」
「そ、それは……」
「別に善人ぶるつもりはないが、お前も一応は組の看板背負ってる立場ならよ、最期くらい華々しく散ってみせろ」
「そ、そんなぁ……やめてくれ、頼むっ……やめ」
引鉄にかけていた指に力を込め、全身の急所を撃ち抜くと残り僅かだった寿命は瞬く間に尽き、最期は呆気なく事切れた。
✽✽✽
「サカナシ殿……お主はやはり只人ではあるまい」
物陰に隠れ一部始終を見ていたガランドは、姿を現すと畏れを抱いたような口調で無悪の戦いぶりをそう評した。
「この程度の雑魚をいくら相手にしたところで、なんの自慢にもならんだろ」
「馬鹿言うな。全盛期の頃のワシならいざ知らず、一人でどうこうできるほど生易しい集団ではないわ。お主からすれば単なる雑魚かもしれんが、その凄まじい殺気にあてられたアキツ組の連中には同情心すら抱いたよ」
「だからはじめに言ったじゃん。サカナシさんは強いって」
会話に割って入ってきたアイリスは、何処から連れてきたのか器用に馬を二頭引き連れていた。
日本のサラブレットに似た体躯の馬で、山賊がエペ村まで移動するのに利用していたようだ。木に括り付けられていたところを拝借しようという魂胆らしい。
「これで近隣の町まで移動しましょう」
手綱を手渡されたものの、さすがに困り突き返した。
「俺は馬に乗れん。代わりにお前が手綱を握れ」
「え、サカナシさんって馬に乗れないんですか?」
「悪いか。そもそも元いた世界で乗馬する機会など皆無だったんだ。大目に見ろ」
ガランドは義足でも何ら問題はないらしく、既に鞍に跨って待っていた。
次いで背に跳び乗ったアイリスの後ろに跨ると、軽やかに駆けていく二頭の馬は闇の中に消えていった――。
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