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無悪が関わっていた鬼道会系列の闇金の顧客に、その昔頭のイカれた男がいた。
大した才覚がないのにもかかわらず、町工場の二代目を引き継いだその男は瞬く間に会社を傾かせ、被った損害をどうにか補填するために軽い気持ちでウチに借金を申し込んだ。
その結果はいわずもがなだが、法定利率を遥かに超えた利子で元金は数十倍にも膨れ上がっていった。
とうとう返済の目処が立たなくなった男は、ある日事務所に顔を見せるとまるで質屋に質入れでもするような気軽さで、高校一年生になる実の娘を売りに来たのだ。
強面の事務員が
顔は
確かにその筋の
「お前もちゃんと挨拶せんか」
父親に無理矢理頭を下げさせられた娘は、これから自らがどのような運命を辿るのか、何をさせられるのかを想像してとうとう泣き出してしまった。
無理もない。突然父親に地獄行きの片道切符を手渡されたのだから、絶望の一つや二つはするだろう。
「コレで幾らか、目を瞑って貰ってもいいでしょうか?」
手揉みしながら意地汚い目つきですり寄ってくる男の、膨れ上がった元金の風船をどうにか小さくしてくれないかと訴えかけてくる浅ましさには反吐を通り越して殺意すら沸いた。
だが、どんなクズでも一応は客だとなけなしの理性を総動員し、殴り殺そうと固く握りしめていた拳を必死に抑え込む。
当然男には茶も出さず、娘には伊澤に買ってこさせたオレンジジュースを与えてやったが、コップを持つ手は終始震えっぱなしでオレンジジュースは波打っていた。
その姿を横目に見ながら、無悪は父親の質問に答える。
「あのな、ウチが一度裏に流した『商品』がどうなるのか、わかってて提案してるんだろうな」
「それは、ええ、はい」
「ウチは手広くシノギを展開している。儲けになる
血を分けた身内を平気で人柱に差し出す父親は、ある意味ヤクザよりもよほどヒトデナシなのかもしれない。
無悪の最終通告に、とっくに正気を失っていた父親は拍子抜けするほどあっけらかんとした口調で答えた。
「お願いします。それより娘はいかほどの金額になりますかね。自慢ではないですが母親に似て目鼻立ちは整ってると思うんで――」
✽✽✽
無悪が関わっていた鬼道会系列の闇金の顧客に、その昔頭のイカれた男がいた。
大した才覚がないのにもかかわらず、町工場の二代目を引き継いだその男は瞬く間に会社を傾かせ、被った損害をどうにか補填するために軽い気持ちでウチに借金を申し込んだ結果、法定利率など遥かに超えた利子で元金は数十倍にも膨れ上がっていた。
とうとう返済の目処が立たなくなった男は、ある日事務所に顔を見せるとまるで質屋に質入れでもするような気軽さで、高校一年生になる実の娘を売りに来たのだ。
強面の事務員が
顔は
確かにその筋の
「お前もちゃんと挨拶せんか」
父親に無理矢理頭を下げさせられた娘は、これから自らがどのような運命を辿るのか、何をさせられるのかを想像してとうとう泣き出してしまった。
無理もない。突然父親に地獄行きの片道切符を手渡されたのだから、絶望の一つや二つはするだろう。
「コレで幾らか、目を瞑って貰ってもいいでしょうか?」
手揉みしながら意地汚い目つきですり寄ってくる男の、膨れ上がった元金の風船をどうにか小さくしてくれないかと訴えかけてくる浅ましさには反吐を通り越して殺意すら沸いた。
だが、どんなクズでも一応は客だとなけなしの理性を総動員し、殴り殺そうと固く握りしめていた拳を必死に抑え込む。
当然男には茶も出さず、娘には伊澤に買ってこさせたオレンジジュースを与えてやったが、コップを持つ手は終始震えっぱなしでオレンジジュースは波打っていた。
その姿を横目に見ながら、無悪は父親の質問に答える。
「あのな、ウチが一度裏に流した『商品』がどうなるのか、わかってて提案してるんだろうな」
「それは、ええ、はい」
「ウチは手広くシノギを展開している。儲けになる
血を分けた身内を平気で人柱に差し出す父親は、ある意味ヤクザよりもよほどヒトデナシなのかもしれない。
無悪の最終通告に、とっくに正気を失っていた父親は拍子抜けするほどあっけらかんとした口調で答えた。
「お願いします。それより娘はいかほどの金額になりますかね。自慢ではないですが母親に似て目鼻立ちは整ってると思うんで――」
✽✽✽
その後の会話は覚えちゃいないが、そこそこの金額で買った娘は最初の客の相手を任せたその日の夜中ち首を括って自殺した。
ガキの感性では耐えられない倒錯プレイを強要され、この世への恨みと父親への呪詛を
今の今まで忘れていた記憶を思い出しても悔恨の念を感じるわけではないが、あの娘と襲われかけているガキの顔がどことなく似通っていた気がしたことに原因不明の苛立ちが募った。
「いや、何をどうするかなどお前らに聞くことではないな」
「ああ!? テメェ、さっきから舐めた口聞いてんぎゃっ」
名も知らぬ男に最後まで好き勝手に口を利かせる気はなかった。一歩足を踏み出した瞬間――素早く抜いたグロックの
周囲の地面や木々には頭髪や骨片、歯に眼球、脳組織が飛び散り死の臭いが満る。
「……は?」
何が起こったのか理解できていない様子の残りの男は、上半身を相方の鮮血と脳漿で斑に染めて呆然と立ち尽くし、言葉をなくしていた。
「お前らみたいな虫ケラ風情が、この無悪斬人の行く道を遮るんじゃねぇ」
「ちょ、ま、待ってくれっ! 殺すな、いや、殺さないでくれっ」
腰が抜けた男は、まさに虫ケラと変わらない姿で這いずりながら後退る。硝煙漂う銃口を眉間に向けながら、無悪は抑揚のない口調で言い捨てた。
「月並みな言葉だが、今までそうやって命乞いをしてきた人間をお前は見逃してきたことがあるのか?」
「ひっ……や、やめてくれっ」
最初の男は咄嗟のことで
肺の
「ゴホッ、た、たすけて、くれ……」
「見苦しいんだよ。暴力を生業にするのなら自分が地獄に堕ちることくらい覚悟しておけ」
仰向けに倒れ、数分間みっともなく体液と命乞いを垂れ流している男の眉間に照準を合わせると、死を運ぶ
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