二百年のタイムラグ

西野ゆう

【コラム】未来に向けた生放送【第一回】

 天の川を挟んで輝く、わし座のアルファ星アルタイルと、こと座のアルファ星べガ。

 十年前の二〇一二年、その中間を漂う浮遊惑星に、極めて電磁波の反射率が高いものが見つかった。その浮遊惑星の直径は木星の約八倍という。

 ラテン語でスペクルム(鏡の意)と名付けられたその惑星は、いわば、百光年先にある巨大な鏡である。

「計画は分かりますよ。分かりますけど『持続可能』とか言っておけば国民が納得すると思ったら大間違いでしょう。馬鹿にするにも程がある」

 そんなヤジ混じりの野党からの非難をもろともせず、一昨年の予算案は審議を通過し、「持続可能な未来へのメッセージ事業」は計画開始から十年後という迅速さで、国を主導に行われたのは周知のとおりである。

 既存の宇宙開発設備を借用する形とはいえ、二兆円に上る予算。それだけの価値があるのかという疑問は、「子供たちの未来」という言葉でごまかされているように感じている国民も多いことだろう。


「地球から、地球に向けた生放送」

 二〇二二年になって、政府によるコマーシャルが繰り返し流されている。テレビはもちろん、ネットや電車内、あるいはファッションビルの大型モニター。

 百光年の先に向けた電波は、百年をかけて届き、百年をかけて返ってくる。

「そんなもの、データで残しとけばよくない? 録画してさ」

 都内の高校生、木村真紀さん(16)は屈託なく友人たちと笑いながらそう語る。当然街では他にも多く疑問視する声も聞かれた。

 しかし、日本中に約千か所設置された二百年遅れのライブカメラの前には、連日多くの人がメッセージを伝えにやってきている。

 わざわざこれだけを目的に海外から訪れる人たちも多い。

 二百年後に「生放送」される映像。

 人々は何を思いメッセージを発信するのか。この日のためにアルバイトで旅費をためてきたというアイルランド人の大学生、サーシャ・オブライアンさん(19)はこう話す。

「現在の世界情勢は決して楽観視できるものではない。しかし、今私たちが笑顔で二百年後の子供たちに語り掛けることで、地球の素晴らしさを伝えることはできると思う。いつの時代でも子供たちには諦めず夢を見続けてほしい」と。


 二二二二年に、この放送をどのような形で人々が目にするのか。

 その受信装置はまだ開発されていない。(文:梶北明日香)

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