雑貨屋さんのスズメさん…の置物。

@ramia294

第1話

 スズメさんの置物発見。

 

 ここは、シャッター通り商店街。

 人通りより、シカ通り。

 人の数より、シカの数。

 シカが、主役の商店街?

 小さな不思議の商店街。


 女子高生に、人気の雑貨屋さん。

 今年の目玉商品。

 ハートスコップの抽選会。

 私は、外れてしまいました。


 乙女の味方の目覚まし時計。

 最後の一つを男子が、買って行かれました。

 あの、真剣な、まなざし。

 きっと、恋する彼女に、どうしても告白するつもりなのでしょう。


 でも…。

 私の初恋の彼。

 振り向かせるには、どうすれば、良いのでしょう。


 雑貨屋さんの片隅のスズメさん。

 …の置物。


「チュン」


 と、私に鳴きました。


 雑貨屋さんのおすすめのスズメさん。

 …の置物。


 話しかけると、チュンと答えてくれます。

 スズメさんの置物。

 いつでも話せるお友だち。

 人生の相談相手。

 ただし、一方通行のお喋り。

 少しだけの不思議。

 それだけの不思議。

 私は、連れて帰りました。


 その夜。

 窓を開け放ち。

 瞬く星の夜空の下。

 スズメさんの置物に話しかけました。


「私は、テニス部。万年補欠の球拾い。運動音痴で、試合になんて、出たこともないの」


 私は、スズメさんに、話し続けました。


「チュン、チュン」


 スズメさんの置物のお返事。


 ある日ボールが、コロコロ。

 彼の足元に、転がっていったの。

 私は、球拾い。

 追いかけていくと、彼が拾って手渡してくれたの。


「はい、ボール。部活、頑張ってね!」


 私にかけてくれた声。

 私の大好きなあの声。


 彼は…。

 学年トップの優等生。

 誰もが、憧れる学校のアイドル。

 日焼けを知らない、白い肌とサラサラの髪。

 小学生の時は、仲が良かったのに。

 中学生でも、ふたりのカラオケの好みは、一緒だったのに。

 高校生になり、彼は、急いで、大人の階段を駆け上がり。


 私は、いつまでも、万年補欠の球拾い。

 メガネの奥の優しい瞳。

 まぶしい彼の視線の先に、私の姿は、もういない。


「私ね。小学生の時から、ずっと、ずっと、彼が好き」


「チュン、チュン」


 スズメさんの置物のお返事。


 とても心地良いお返事。

 私は、お喋りを続けてしまいます。


 高校生になると、彼とお話する時間、少なくなったの。

 彼は、急に、勉強に目覚め。

 優等生に。

 女子生徒のアイドルに。


 勉強の苦手な私。

 私は、お友だちのお誘いで、テニス部へ。

 万年補欠の球拾い。


 彼を好きだと、たくさんの女の子たち。

 私のお友だちまで。


 いつから、お喋りが、出来なくなったのでしょう。

 私たちの道は、別れ道。

 振り返るだけで、戻れない。

 子供の頃には、戻れない。

 戻りたい、あの頃。

 

「チュン、チュン」


 いつの間にか寝てしまった私。

 今朝は、スズメさんの声で、起きました。

 スズメさんの置物?

 いいえ。

 本物のスズメさん。


 ピカピカの朝ですよ。

 私に、教えてくれるスズメさんの大合唱。

 夏には、まだ少し。

 それでも、今朝の太陽は。

 キラキラ、とても、まぶしくて。

 あの頃。

 彼と彼の家族。

 私と私の家族。

 遊びに行った海。

 波のきらめき。

 思い出しました。


 開け放ったままの窓から聞こえるスズメさんの大合唱。

 彼の声。


 彼の声?


「おーい。一緒に、散歩しないか?」


「ちゅん、ちゅん」


 置物が返事しました。

 彼は、窓の下。

 慌てる私。

 肩を並べる。

 私と彼。


「さすがに、運動不足気味でね。毎朝散歩しているんだ」


 彼は毎朝、私の家の。

 部屋の。

 窓の。

 下。

 

 彼の散歩コース。

 その頃。

 私は気づかず、夢の中。

 彼の散歩コース。

 夢の中まで、延長。

 お願い、いたします。


 最近の彼の噂。

 医学部進学を考えていると噂。

 逆立ちしても、私には手の届かない、彼の…。

 夢。


 別れ道。

 私は、立ち止まり。

 彼は、力強く進みます。


「どうして、お医者さんに」


 彼の夢。

 私は、応援出来るかな?


「だって、誰かが、溺れるから。あんなに浅い海で、溺れる。あの時決めたんだ。そんなお前の傍にいるために、医者になろう。それなら、お前も安心だろ」


 思い出しました。

 彼と行った海。

 家族で行った海。

 運動音痴の私。

 膝の深さで波に、さらわれ。


 確かに、あの時、溺れたような、心当たりが。

 

「あれは、ずいぶん前。まだ小学生の時。そんな昔のことを」


 あれ?

 さっきの彼。

 何と言ってました?


 お前の傍のお前とは、いったい誰の事かしら?


「僕は、出会った時から、決めていたんだ。いつまでも傍にいると」


 お前の傍のお前とは、きっと、私の事かしら?


「僕は、出会った時から、決めていたんだ。いつまでも傍にいると」


 繰り返す、キラキラの言葉。

 並べる肩が、少し近づき、私は彼の袖口、掴みました。


「ずっと、傍にいてください」


 今朝のスズメさんたちのおしゃべりで。

 きっと私の小さな声。

 彼に、届いていないでしょう。

 それでも、彼は…。


「僕は、出会った時から、決めていたんだ。いつまでも傍にいると」


 キラキラの朝日もお祝いしてくれました。

 スズメさんもお祝いの大合唱。

 置物のスズメさん。

 街のスズメさんとは、会話出来ます。

 彼を連れて来てくれました。

 ふたりの道が、再びひとつに。


 ふたり、一緒の歩く道。

 キラキラ光る朝の道。



          おわり




 

 

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