第5話【真・我こそはカピバ=ランヴォルギーニャ!】


 今日は出勤なのだ。

 出勤という名の決戦の日である、のだ!


「おはおーっす、のだ」

「おせ〜⤴︎ぞカピバラ⤵︎が! はやく着替えてホール出んかぁ⤴︎⤴︎⤴︎〜ぁ↑!」


 出勤時間三十分前に到着した者に飛んでくる言葉とは思えないのだ。しかし、これはいつものことなのだ。そして、こんな『いつものこと』は、


「モブ原さん、話があるのだ」

「あ⤴︎ん? いいから早く——」

「話があるのだ。新人ちゃんのことで」

「お、おまえ、何が言い⤵︎たぃ」

「モブ原さん、新人ちゃんに言ったらしいですね、のだ。新人ちゃんに、俺と付き合わないとカピバラを辞めさせてやるって」


 モブ原の顔色が変わったのだ。図星、のだ。

 当然なのだ。これは新人ちゃんが我に告白してくれた事実なのだから、のだ。

 新人ちゃんは、我のようなカピバラを気遣ってくれたのだ。新人ちゃんが断れない性格なのも知っていての行動なのだ。モブ原、いや、ゴミ原、許すまじ、のだ。


「こ⤴︎ん⤴︎きょ⤴︎ぅぇぇぉぉぉ⤴︎のないこ⤴︎と⤴︎言ってん⤴︎⤴︎⤵︎↑じゃねーっ⤴︎」


 声が裏返っているのだ。相当に驚いているみたい、のだ。けど、ここで引かないのだ。


「我は情けないのだ」

「そ、そうだ⤴︎! お前はクズだ!」

「弱虫だった我が情けない、のだ。大好きな女の子に、知らず守られていたことが、情けないのだ」

「⤴︎⤴︎⤵︎↑⇄↑⤴︎⤵︎⤴︎???」

「隠しコマンドは効かないのだ。我は変わる、のだ。これからは新人ちゃんの為に強く生きるのだ。世界とか、支配とか、もうどうでもいいのだ。我は、我は、お前にだけは敗けるわけにはいかないのだ!」


 ゴミ原が言葉を失っているのだ。今がトドメの時。そう思った時、外野が出現したのだ。

 金魚の糞子達だ、のだ。


「ちょっとカピバラ! 何調子こいてんのよ!」

「ブスは黙るがよい、のだ」

「はぁ!? ブスとか、そんなこと言われたことないし? これでも結構モテるんだから!」

「確かに、君達は外面は綺麗かも知れないのだ。我が言っているのは、内面のことなのだ。わかりやすく言えば、性格がブスなのだ」


 金魚の糞、完全に沈黙、のだ。


「モブ原さん、我は本日付でここを辞めるのだ。新人ちゃんと一緒に、のだ」

「なっ……」

「我は新人ちゃんと結婚することにしたのだ。これからはもっと働かないといけないのだ。それは、ここではないのだ」

「馬鹿野郎⤴︎!? 新人ちゃんは俺の」

「我、新人ちゃんと同棲中だけど、何か? のだ」

「↑⇄↑⤵︎⤴︎⤴︎⤴︎↑⇄⤵︎A B L R↑⇄ S」


 そう、我はあれから新人ちゃんと半同棲状態なのだ。人間とカピバラ、勿論、正式な結婚なんて許されないかも知れないのだ。けれども、新人ちゃんはそれでもいいと言ってくれたのだ。


「クソ野郎がぁ⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎」


 む、往生際の悪いゴミだな、のだ。

 仕方ない。秘技!


「かぴ汁噴射ーーーーーー!!」

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


 噴射したらスッキリしたのだ。帰ったら新人ちゃんとこれからの話をするのだ。世界征服のためにしていた貯金もたんまりあるのだ。

 急ぐことはない、のだ。


 我は今まで、ずっと我慢していたのだ。

 自分はカピバラだからとか、ヒトと付き合うのが少し苦手だからとか、自分で自分を諦めていたのだ。でも、そんなことどうでもよくて、本当は皆んな自由に生きていいのだ。


 そんな簡単で、それでいて大切なこと


 それを教えてくれた新人ちゃんに、我は恩返ししたいのだ。


 真の愛に目覚めし、ただの齧歯類!


 我こそはカピバ=ランヴォルギーニャ!


             おしまい、のだ




 ※モブ原はその後、カピバラになりました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カピバ=ランヴォルギーニャ カピバラ @kappivara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ