第2話 犬死

 私は、歩いた。どこへ行くわけでもなく、歩き続けた。

 誰かに取り憑く?それで私は、幸せになれるのか?私が忌み嫌った、人間になれと言うのか?

 裕福な人間に取り憑いたら幸せになれるのか?違う!

 じゃあ、幸せそうな家庭の主人?違う!違う!

 じゃあ、顔立ちの良い男に取り憑いて、いっぱい女を抱く事か?それも、違う!


 結局のところはね、人間も犬みたいなものなのだよ。鎖を付けられ、餌付けされ、排泄し、せっせと交尾する。どこに、行くわけでもなく、どこへ向かうでもなく、ただ死を待ち望む。皮肉なものだね。犬と、同等なんて、ああ、皮肉な話だ。


 私は、どれだけ歩いたのだろうか。気が付くと、飲み屋街まで来ていた。飲んだくれ共が、会社の上司がどうとか、あの女はいいとか、くだらない話をしながら歩いている。


 あの人間共は、生きながらにして、死んでいる。そのことをご存知ではない。ああ、お気の毒さま。まさに犬死そのものではないか。


 しばらくすると雨が降り始めた。私は、ずぶ濡れになりながら、彷徨った。

 公園のベンチまで来た時、私は、ベンチの下で、震えている犬を見つけた。犬は痩せこけていて、雨に打たれ、ぐっしょり濡れていた。以前の私にそっくりだった。


 私は、人間なぞにはなりたく無い! 


 「私は、犬だ。犬で良いのだ。」


 そう言うと、私は、犬を抱き抱え、首筋に噛み付いた。意識が遠のいていく。


“太郎、、、。太郎、、、。”と、またあの優しい声が聞こえてきた。“よく頑張りましたね、、、。ゆっくりと休みなさい、、、。”


 目を開けると、ベンチで絶命している父親の姿を見ていた。


 私は、犬に戻った。しかし、この体は長く持ちそうにない。空腹と、雨による体温の低下。私は、よろよろと、公園の中心へと歩いた。そして、天に向かって、力の限り吠えた。

    “ワォーーーーーーーン!!”


そして、私は、倒れ、絶命した。


 結局のところはね。私の死は、犬死なのさ。私の死なぞに意味などない。でもね、それでいいのさ、、、。それでいい。


                   完

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犬死(いぬじに) 伯人 @Takashi2525

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