番外編 七夕の想い出
七月七日は七夕の日。年に一度織姫と彦星が会えるというこの暦の日はいつも決まって天気が悪く、
天ノ川を見れることが少ない。
自分の部屋の窓から夜空を見上げても曇り空で覆われていて星を見ることはできなかった。天ノ川を恋人と一緒に見ることができたらどれほど幸せなことか。そう思っていると勉強机に置いてあったスマホが着信音を鳴らした。何でこうタイミング良く電話が掛かってくるのか私には不思議だった。
「もしもし珍しいねいきなり電話かけてくるなんて」
『七夕今年も見れなくて柚月はがっかりしてると思ってな。慰めてやろうと思ったんだよ』
「そんなに子供じゃないから。でもありがとう」
いつもはお調子者でバカやっているのに私に寄り添ってくれる時にはかっこいい所とかズルいなと思ってしまう。
『時に柚月は七夕何かお願い事決めてたのか?』
「私はサンタさんにも七夕の短冊でもお願いしたことないかな。基本的にお父さんもお母さんも良くしてくれてるから」
『愛されてんだな』
「面と向っては恥ずかしくて言えないけど愛されてる自覚はあるかな」
こんな恥ずかしい自分の本音をさらっと言えるようになってしまったのはきっと翔琉のせいだと思う。
『じゃあ俺に何かお願い事ないか?何でも叶えてやるぞ』
「じゃあ直ぐに来て!何てね」
すると家のインターホンが鳴らされた。まさかと思い玄関を開けると翔琉がいた。嬉しさよりも驚きが勝っていたのが顔に出ていたのかお前が呼んだんだろと言われてしまった。
「ちょっとだけ散歩しようぜ」
近所の夜道を二人並んで歩く。こういう時お互いに手を繋ごうとしないのは恋人期間より友達期間の方が長かったからだろうか。それとも私がへたれなだけなのか。
「毎年曇り空で織姫と彦星可哀想だなって思うんだけどさ」
「そうだね」
「俺らが知らないだけで雲の上でしっかり会ってるんだよなって思うと全然可哀想に思えなくなったな」
「そういう発想は翔琉らしいね」
「だからきっと雲でイチャついてるのを隠してるんだよ」
そう真剣な表情で言ってる翔琉が何だかおかしくてつい笑ってしまった。暗い夜でも街灯に照らされて翔琉の顔が赤くなっているのがわかってまた笑うと流石に失礼だと少し怒られた。
何となしに歩いていると公園が見えてきた。私達は少し冷えたベンチに腰掛けると肩と肩がくっついた。少し心臓が煩くなった。キスやハグなど記念日とかはするけどそれ以外は今までのような友達のような距離感だったからドギマギしてしまう。
無意識に隣にある手を握ってしまっていた。私は慌てて離すと今度は翔琉の手が優しく握ってくれた。
「周りに人いないし暗くて見えないと思うからさ…キスして」
私がそう言うと返事はなく変わりに唇が重なった。あぁ…恋人と過ごすって幸せなんだね。織姫と彦星は一年も離れ離れになって辛かっただろうな。柄にもなくそんなことを思っていた時だった。強い風が私達の横を過ぎていった。やがて月の光が差し込み夜空に少しだけ天ノ川が顔を覗かせた。
「綺麗」
「見れて良かったな。いや二人で見れて良かった」
私は隣にある肩に頭を預けながら星空を見つめた。
初めて短冊にお願いを書いてみたいと思ってしまった。書くならきっと…
【来年もこうして翔琉と天ノ川を見れますように】
可愛いくてあざとい後輩に俺は屈しない 秋月睡蓮 @akizukisuiren
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