後日談
プレゼント
「ねぇ、ヒロト」
「ん?」
「えへへ、なんでもなーい」
「なんだよそれ」
十二月二五日。
クリスマス当日を迎えた。
色々あったものの、クリスマスイブに復縁して、こうして今も一緒にいることが出来ている。
現在時刻は十三時を過ぎたところ。
昨日から降り始めた雪は、今もなおしんしんと降り続けていて、数センチではあるが積雪していた。
今は、特にどこかに出かけるわけでもなく、俺の部屋で二人きり。
ちなみに、父さんと母さんは余計な気を遣ってくれたのか、デートと称してどこかに出かけている。
礼奈に関しては、元から友達との予定があるようで、家を空けていた。
俺たち以外に誰もいない状況。まぁ、だからなんだって話だろうけど。
「てか、俺と一緒にいる必要はないよ?」
「んーん。一緒にいたい」
「……そ、そっすか」
「あ、照れてる。かわいい〜」
明日香はだらしなく笑みをこぼしながら、俺の頬をツンツンと人差し指で小突いてくる。
くっ、今日の明日香はいつになく積極的だ。
普段は本心を隠す傾向があるが、今日は隙さえあればデレてくる。際限なくデレてくるせいで、俺のキャパがオーバーしていた。
供給量の見積りからやり直してほしい。
ドギマギしていると、明日香は俺の肩にコツンと頭を乗せてくる。
柑橘系の甘い香りが舞い、俺の鼻腔を刺激してきた。
「今って二人きりよね、ヒロト」
「……そ、そうだな」
猫撫で声でそっと囁かれ、俺の心臓の鼓動が早まる。
暖房の効き過ぎだろうか。顔が熱い。
一応、二年以上付き合っているんだけどな……。
「あ、そ、そうだ。忘れてた」
「ん? どうしたの?」
ふと、俺はある事を思い出して、軽い焦燥感を覚える。
「知奈美さんに、明日香とのこと報告してなかった」
「お姉ちゃんに?」
「うん。けっこう相談に乗ってもらってたから」
「そう、なんだ。ふーん」
「な、なんだよその感じ」
「や、ヒロトとお姉ちゃんって普通に仲良いなぁって思ってさ」
あまり意識してなかったが、明日香視点だとそう見えるのか。
まぁ、知奈美さんは俺のことを弟みたいに揶揄ってくるからな。
姉弟的な仲の良さはあるかもしれない。
「言っとくけど、俺が好きなのは明日香だけだからね」
「……っ。ばっ、ま、真面目な顔して言わないでよ」
「でも、ちゃんと言わないと誤解しそうだし」
「うっ……」
現に、明日香は『俺と知奈美さんが付き合い始めた』と誤解した事があった。
すれ違いを起こさないためにも、ちゃんと気持ちは伝えておかないと。
「一応、言っとくけど、ヒロトのその感性おかしいからね」
「なにが?」
「みんな、お姉ちゃんを好きになるんだから。あたしなんか、お姉ちゃんから良いとこを抜いたようなもんだし」
「誰に言われたか知らないけど、俺は明日香が好きだよ。おかしいのは他の人だと思うな」
「ふ、ふんっ」
明日香は桜色に頬を染めると、さらに俺に身を寄せてくる。
ツンケンした態度をとっているものの、俺への密着度は増すばかりだった。
俺は俺で顔に熱を溜めながら、スマホをポケットから取り出す。
「お姉ちゃんになんて送るの?」
「普通に、明日香とまた付き合うことになりましたって」
「…………。あ、あのさ、あたしがお姉ちゃんに伝えて良い?」
「え、別にいいけど……何か理由あるの?」
明日香の申し出に俺は少し戸惑う。
「うん。あたしから言いたい」
「そっか。じゃあ、俺から報告するのはやめとく」
明日香はコクリと首を縦に下ろす。
俺はスマホの電源を落とすと、再びポケットにしまった。
明日香は一度俺から離れると、何か思い出したようにバッグを漁り始めた。
「あ、そういえば、ヒロトにプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
ちょっとしたサプライズに、俺の意識が傾く。
「うん。昨日、ヒロトはあたしにプレゼントくれたでしょ」
明日香はそう言いながら、左手の薬指にはまった指輪を見せてくる。
突発的に俺が明日香をデートに誘い、プレゼントした代物だ。
始めからお返しなど期待していなかったが、余計な気を遣わせてしまったらしい。
「別に、気にしなくてよかったのに」
「ううん。あたしが気にするの。てか、あたしもヒロトにクリスマスプレゼントあげたかったし」
明日香はぽしょりと消え入りそうな声で呟く。
俺のカノジョ、どうしてこんなに可愛いんだろう。
「で、でね。用意しようにも一日じゃ難しくて、でも、どうしても何かあげたいから、これ」
明日香は僅かに手を震わせながら、甲を上にして右手を差し出してくる。
俺の左手に軽いものを握らせてきた。
「なに、これ」
「み、見たらわかるでしょ」
明日香から手渡されたものを見る。
それは小さな紙切れで、明日香独特の丸字で文字が書かれていた。
「の……『能見明日香所有権』って、いや、意味がよく分かんないんだけど」
「せ、説明させるとか、ヒロトってほんと鬼畜!」
「なんで叱られてるの俺」
「うぅ……。今日だけ、あたしのことヒロトが好きにしていいってこと! どんな命令でも聞いてあげる!」
「神アイテムじゃないか」
「……っ。そ、そうよ。あたしの彼氏じゃなきゃ、こんなのあげないんだから!」
明日香は胸の前で両手を組みながら、プイッとそっぽを向く。
自分でも恥ずかしいことをしている自覚はあるのだろう。
「ホントに、どんなことでもしていいの……?」
「うん……。きょ、今日だけなんだからね」
明日香は照れ臭そうに告げる。
あーくそ、本当にかわいいな。
自分のカノジョに悶えそうになる俺なのだった。
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時間があるときに、またしれっと投稿します。
新作投稿しています。
コメディ重視のラブコメになる予定です。お時間ありましたら是非!
男子には誰に対しても高圧的な一軍女子が、お金欲しさに俺のメイドになった件 〜教室で俺のことをご主人様って呼ぶのやめろ!〜
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