第10話 詐欺師に鉄槌を (※三人称)
「不良を辞める? まさか、そんな? だって」
「も糞もない。今すぐには無理でも……俺達は、普通の奴等に戻る。普通の奴等に戻って、自分のこれからを見詰め直す。それがきっと、『俺達のチャンスだ』と思うから。自分達の未来を変える」
そう仲間達に言われて「ハッ!」とする、頭目の少年。少年は彼等の変化に驚いたが、それが「自分への裏切りだ」と気付くと、今までの恐怖を忘れて、彼等の顔や体を殴り始めた。
「ふざけんなよ!」
仲間の腹に一発。それから、頭も一発ぶん殴った。
「『グループから抜ける』って、そんなのが!」
今度は、脇腹を一蹴り。これは全力で、当てに行った。
「『許される』と思っているのかよ? ああ?」
少年は彼等の裏切りが許せなくて、彼等の異変に全く気付いていなかった。彼等の抵抗が全く見られない事に。
「お前等!」
「『許される』とか、『許されない』とかの問題じゃない」
「え?」
「これは、俺達の意思だ。俺達が『こうしたい』って思う事、それを只」
「『話したから許される』って? はぁ? 俺を舐めるのも大概にしろ! お前等は、俺の」
「奴隷じゃない」
「なっ!」
「俺達は、俺達だ。お前の奴隷じゃない。今まではずっと、耐えていたけど。俺達は、俺達の思う様にしたいんだ」
少年は、その言葉に押し黙った。それが衝撃だったから、ではない。彼等の考えに苛立った訳でも。彼は「動物」としての主従関係、「人間」としての階級制度を忘れた彼等に苛立ってしまったのだ。彼等が(彼等の言葉を借りるならば)「普通の奴等に戻る」と言うのも、「自分達の特権意識を忘れた行為」として許せない。そんな奴等には、「生き地獄を味わわせねば」と思った。少年は彼等の体をボコボコにして、その頭を思い切り踏み付けた。
「
「奴隷に出来る、訳がない、だろう?」
「何?」
「俺達は……うっ、いつか、大人になるんだから。大人になったら、こんな事を」
「知らねぇ!」
「じゃない! お前は、チンピラにでも成るのか? 普通の奴等が普通に働いている横で、其奴等の金を巻き上げるのか? 人様の金で、自分の家族を養うのか?」
「さあね? つうか、結婚するかも分からねぇし。相手の女が金持ちか、その腹にガキが出来たら別だけど。そうでなかったら」
「終わっているよ、お前」
「ああん?」
「ガチで終わっているよ。悪い人間が格好良いなんてさ。頭の中が終わっている」
それに苛立ったので、仲間の腹にまた蹴りを入れた。だが、それでも止めない。彼等の事をどんなに痛め付けても、その考えが
「終わっているのは、お前等だよ。『これから普通の人間に成ろう』とか、人生舐めているにも程がある。第一、周りの奴等が」
「許してくれない。いや、許してくれなくても良い。俺達は周りの人達に許されたくて、普通の人間に成りたい訳じゃないから。周りの許しなんて、どうでも良い。俺達は、俺達が変われれば、それで良いんだ」
少年は、その言葉に吹き出した。まるで、彼等の言葉を
「自己満だな」
「そうだよ? でも、今までよりはずっと良い。人様に迷惑を掛けるよりはさ? これからは……自分の出来る範囲でだけど、人の役に立ちたい。人から怖がられるよりも、愛される人間に成りたい。お前は、『それがダサい』と思うかも知れないけど。俺達はそのダサいが、『今よりもずっと格好良い』と思うんだ」
少年はまたも、彼等の言葉に吹き出した。今度も、彼等の言葉を嘲笑うかの様に。
「また、自己満」
「そうだよ? でも、それが『生きる』って事じゃねぇ? 格好悪くても、格好良く生きる。俺達が今までやって来た事は、格好良くても、格好悪い事じゃん?」
「……気持ちは、変わらないのか?」
「変わらない」
「俺の前から居なくなる事も?」
「変わらない。でもまあ、学校とかで会ったら流石に」
「挨拶なんて
「死には、しないよ? アヤメちゃん、あの幽霊はもう、お前の事を襲わないし。今のこれは別だけど、これから見る物は」
「信じない」
「え?」
「もう、何も信じない。俺達の先輩が見付けた霊能者……確か、
少年の元仲間達は、その言葉に押し黙った。その言葉を聞いて、「此奴にはもう、何を言っても無駄だ」と思ったらしい。少年が彼等に「そうだろう?」と聞いても、それに俯きこそしたが、その質問自体に「そうだ」とは頷かなかった。元仲間達もとえ、少年達は、床の上からゆっくりと立ち上がった。
「もし、こっちに来たくなったら」
「うん?」
「いつでも来いよ? 俺達は、お前の仲間だからな」
「お前等は、俺の仲間じゃねぇよ」
「そうか」
「そうだ、ついでに先輩も。あんな役立たず、もう先輩ですらない。今回の事が起こったのもみんな、彼奴の所為だわ。彼奴が使えなかった所為で」
「悲しい」
「うん?」
「先輩にもこの事、話して置くよ。『お前の事はもう、放って置いた方が良い』って」
「ああ、そうてくれ。それと」
「まだ、あるのか?」
「鞍馬天理、其奴も殴りに行って来る。悪霊の一人も祓えない霊能者なんて、只の詐欺師だからな。詐欺師には、鉄槌を下さないと」
それに青ざめた、少年達。少年達は改めて、彼の無知を思い知ったらしい。「これはもう、本当に救えない馬鹿だ」と。だから、別れの挨拶も素っ気なかった。少年達は彼の顔から視線を逸らして、その前からゆっくりと消えた。
……彼が現実の世界に帰ったのは、それから直ぐの事だった。
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