罪悪の想いを貴方へ(中編)

 これはとある場所であった少女の人生の一端である。



 時代は1866年。欧州の国、フューレンからこの物語が始まる。

 私が18歳の頃から話を始めようと思う。

 私の名前はヴェルデ・ド・アルトワ。西の国フューレンのアルトワ家である。アルトワ家はフューレンの中でも子爵の階級を授けられている。

 私はアルトワ家の1人娘として大切に育てられたと思う。母は幼い頃に病気で亡くなり、立派な子爵夫人として振る舞えるように父からは礼節を叩き込まれた。18歳になるまでそれは厳しく過酷で辛かった。貴族の世界の辛さを知った。しんどかったけれどやるしかなかった。だけれど、その中で母から遺していた娯楽小説が唯一の息抜きで、それを楽しみにしてひたすら耐えてきた。だから私は本が大好きだ。礼節とは違う広い世界を視ることが出来る。想像する事が出来る。特に恋愛小説なんて好きなのだ。人を想う想われる、すれ違った先で結ばれる。まだ18年しか生きてないのだから、そんな経験ある訳ない。だからこそ考えてしまうものだ。そんな娯楽小説の話を周りにすると、

「そんな事を思っていられる貴方は、いいですわね」

 なんて嘲笑われたりするけれど、自分の中での楽しいことを考えながら。私は周りからは世間を知らない箱入り娘だなんて言われながらもそんなことは知りません。私は私らしく生きていきます。

 おっと、無駄話をしすぎました。

 私は今、自分の家からそっと抜け出し近くの街へ来ていた。近くの街には、本を読むのに丁度いい広場がありそこには大きな木があって、木陰で涼しく緑に囲まれながら本を読むことが出来るのでここ最近ではお気に入りの場所がある。今日は、ここで1日を過ごすことを決めていたのです。息抜きは大事。料理はそこまで出来ないのでサクッと作れるサンドイッチをコソコソ作って向かっています。



 鼻歌交じりにいつもの場所へ向かうと、そこには上半身裸で動きやすさを重視したズボンを履いた青年が倒れている。

「あらあら、まぁまぁ!大丈夫ですか!?」

 私は驚いた。昼間からこんな所で倒れているのだから。

「な、何か……」

 彼に近づくとグーっと、お腹を鳴らしていた。

「お腹が空いたのですね!これを食べてください!」

 私は手に持っていた袋からサンドイッチを取り出し、彼に渡す。すると彼は喉が詰まるんじゃないかという勢いで、渡したサンドイッチを食べきった。その後私に身体の向きを合わせ、

「大切であろう、食物を頂きありがとう!頭が上がらない!」

 と言いながら土下座をしてきた。私はまたびっくりしてしまった。そんなつもりはなかったから。困っていたから助けただけなのだから。

「お気になさらないで下さい!お腹はいっぱいになりましたか?」

「はい!やっと生きた心地がしました!」

 とても元気そうに返事されて、少し心が温かくなりました。

「えっーと、名乗らないでお話してすみません。自分の名前はシルド・ロドスと申します。こんな見た目してますが、一応二十才です。今回は助けていただき、本当にありがとうございました」

「シルドさんと言うのですね!私の名前はヴェルデ・ド・アルトワと申します。先程も言いましたがお気になさらずに!人は助け合いですから」

 私の中の第一印象は、とても素敵な好青年だなと。ただ上半身はガッチリとしていて筋骨隆々だ、裸だけれども。彼は何かしていたのかしらなんて考えてしまった。これは失礼ですね。しかし、男性の身体をあまり見ることがなかったため少し恥ずかしいが言うのが礼節だと思ったのでここは思い切って、

「あ、あのー、申し上げにくいのですが……上半身は何か羽織った方が……」

「あっ、えっ?」

 彼は自身の姿を再確認すると、

「あぁ!!すみませんでした!」



 彼はなぜか落としてきた上着を拾ってきて、きちんと身につけた上で再度土下座をしてきた。

「いや、お腹が空きすぎて気づいたら上着脱いで倒れてただけなんです……本当にすみません……」

「いえ……。私も目のやり場に困っていたので……」

「昔からあまりこういう事を気にしてませんで……今後は周りの事も考えるようにします」

 彼は先程までの元気が無くなり、縮こまってしまった。私自身もう少し気を遣って言えば良かったと後悔した。彼は、

「でも、この街外れのここに誰か来るなんて珍しいですね!」

 なんて話題を変えて気を逸らしてくれた。私もそれには答えねばと会話を続ける。

「週一回来るお気に入りの場所なんです!それこそシルドさんはどうしてここに?」

 そう返すと、

「いやー、ここには最近流れ着いたもので……。」

「と言いますと?」

「まぁ、なんと言いますか……。家出みたいなもので……」

「家出!?それはさぞかし大変だったでしょう……」

 家出、私では思いつかない考えだ。さぞかし壮絶だったんだろうなと思った。

「いやいや、そんなことは……。お金はある程度持ってこの街に来て、働いてはいるんですが……。仕事に慣れず辛いなと思っていたら、故郷を思い出してついここに……。」

 上半身裸だった彼も色んな事情を抱えていたんだなと……。私の知見はまだまだ狭いなーと。ただ、

「私もここには気晴らしで来ますから、気が合うのかも知れませんね」

 ふとそんな言葉が口から零れていた。言うつもりなんてなかったのに……!!突然そんな言葉が出てきて、娯楽小説の読みすぎだったのかな今凄く恥ずかしい……。少し俯く私に、

「そうですね。きっと気が合うのかも知れませんね。」

 と、爽やかに答えてくれた。そんな彼の顔はとても眩しく見えた。

 そのまま私は、

「良かったら今度もまた休日を一緒に過ごしてみませんか?」

 とまたするする言葉が出ていた。彼は少し驚いた様子だったが、

「いいですよ!!僕も息抜きになりますし!!」

「えっ、いいんですか?」

「構いませんよ。こちらに住み始めてからずっと一人だったので友人が出来るのは嬉しいので!!」

 まさかの答えで、私も驚いた。

「では、毎週今日と同じ曜日のお昼に集合しませんか?」

 彼からの更なる提案。

「いいですよ。私、建前だけの友達しかいなかったのでこうして友達が出来るの嬉しいです。」

 私は、少し嬉しかった。外の世界でこうしてお話出来る友達が出来るなんて今まで考えたことも無かったから。

「じゃあ、これから何しましょうか?」

「あ、あの……」

「ん、どうかしましたか?」

「良かったら、私が読んでる娯楽小説のお話なんてしてもいいでしょうか?」

 私は、鞄の中からちょうど読み返そうとしていた本を出した。

「娯楽小説ですかー!いいですねー!どんなものを読んでいるんですか?」

「えーっと、これはある国を救う英雄のお話なのですが……」

 私が一方的に話をしてしまったけれど、彼はとても興味を持って頷きながら話を聞いてくれた。こんなに話をしっかり聞いてくれた人は初めての事だった。

 するとあっという間に時間は経ち、日が暮れようとしてるではないか。今の時間がずっと続けばいいのになんて思いながら、私は立ち上がる。

「そろそろ日が暮れてきたので、私帰らないと……」

「もう日が暮れてますもんね。今日はとてもいい息抜きになりました!!ありがとうございました。」

 彼は律儀にお辞儀までしてくれて……。私の方こそ話を聞いてくれて嬉しかったのに。

「こちらこそ、一緒に過ごせた時間とても楽しかったです!ありがとうございました!」

「また来週ここで会いましょう。生きることは大変ですが、楽しみがあれば人間頑張れますから。」

 彼は笑顔でそう言った。そんな彼の笑顔と今暮れそうな夕日が重なってとても輝いて見えた。

 そんな彼に手を大きく振りながら、私はそこをその場から立ち去る。そろそろ帰らないと家に帰って何言われるか分からない。家路を急いで歩く。

今日の行動は父に対する小さな反抗心な訳だ。その理由としては父の言う事に背く行動から始まり、今回は話が弾んでしまい、予定よりもかなり遅くなってしまった。ここまで遅くなるつもりはなかったので、流石にこれは少し私も反省しないといけないなと思っていた。



 そんなことを考えて歩いていると、もう家着いてしまった。

(どうやって、何も無かったように家の中に入ろうか……うーん。)

 家の門の前でひたすら考えるが思いつかない。とりあえず、行きはこっそりと出られたんだ。同じルートで行こうと思った。その場所は裏門だ。音を立てずにそろりそろりと歩いて裏門へたどり着く。すると、

「お嬢様!どこにいらっしゃったんですか!?」

 背後から大きい声がすると思えば、家で使用人をしているシイナが立っていた。私はそれに驚いたと同時にシイナの肩を掴み共に隠れた。

「シーっ!!うるさいよー!!」

「大声出したくなるこっちのことも考えてください!周辺もかなり探して見つからなかったんですから。まぁ、いつもの樹の下で息抜きしていたんでしょ?全く……」

 彼女は私が小さい頃から仕えてるため、何でもお見通しなのだ。それでも見逃してくれているのはきっと私のこの家の事情を理解しているからなんだろう。ただひたすらに家に缶詰にされ息抜きもない環境で生きている私の事を思って。

「とりあえずこんな所で隠れてても仕方ありません。家に入ってください。ささっ、ね」

「分かったから、シイナ押さないで」

 私はシイナに押されて、無事家に入る事に成功する。玄関に着いた私は、シイナに急かされながらドアを開ける。すると、

「お前、どこに言っていたんだ。勉学を放って」

(うわっ、最悪だ……)

 そこにたまたま居合わせたのは私の父、チャールズ・ド・アルトワだった。私は後ろに振り向きシイナに助けを求めようとしたものの、彼女は顔に手を当てていた。想定外だったんだろう。

「外には出るなと口酸っぱく言っているだろう?なぜ出るんだ?」

 父はかなり怒っている様子だった。むしろ今まではきっと見過ごされていたのだろう。しかし、今日はなぜか言及された。シイナは私の耳に近づき、

「今日は、色々あって機嫌悪いみたいなんですよチャールズ様」

「おい、シイナ。何を耳打ちしているんだ。余計な真似はするなよ」

「は、はい!!申し訳ありません!!」

「で?何故外に出たんだ?理由はあるんだろうな?」

 荒々しい口調で私にそう問いかけてくる。私は怯みかけたが、

「私にもやりたい事があります。それをするために外に出てはいけないんですか?」

「お前がやることは、この家を継ぐ為にしっかり教養を身につけることだろう!!何を言ってるんだ!!」

 そう言いながら、私に詰め寄り殴りかかろうとする父。その私と父の間に割り込むシイナ。

「お父様、失礼致します。ヴェルデお嬢様にも息抜き等は必要だと思います。そこまで怒る必要はないかと」

 と、私の事をシイナは庇ってくれた。そのせいで父のターゲットはシイナに向かってしまった。

「使用人ごときが、口を挟むな。立場を知れ馬鹿者」

 思いっきりドスっと音がする。私を庇ったシイナが殴られたのだ。シイナは殴られた勢いで倒れる。頬には拳の跡が残るくらい。

「なんでこんなことするんですか!?」

「お前が私に逆らうからだろう?簡単な事だ」

「なら、私を殴ればいいじゃないですか!?」

「お、お嬢様。それ以上は言わないでください……。私が口を挟んだだけですので……」

「で、でもっ」

 私のせいだ。私が父に口答えしたせいだ。

 シイナは、何も無かったように立ち上がり、

「お嬢様、荷物を置きに1度部屋へ向かいましょう」

 そう言いながらこちらを一瞥してきた。私は察し、シイナに着いていく形で部屋に向かう。

 私の部屋はこの家の2階の奥の部屋。そそくさと向かい部屋へと入る。

「シイナ、本当に大丈夫なのそれ!?」

 だんだんと頬が赤く腫れてきているのが分かるくらい赤いのだ。

「えぇ、こういうのは慣れてますから……。ご主人様に対してタイミングが悪かったのもありますので……でもあそこでこうしていなければお嬢様が殴られていたので仕方がありません」

「私の事なんて気にしないでよ!!父の気性が荒いことと自尊心が高いのは昔からですもの!!それを貴方が受ける必要は無いのよ!!」

「それはいけません」

 シイナは私の肩を掴む。

「きっと1度でも受けてしまえば、ご主人に恐怖心が湧いてしまうでしょう。そうしたら貴方が貴方でなくなってしまう。私はそうなって欲しくないのです。だからいくらだって庇いますよ。貴方がいるから。貴方のお母様がいたからこそ、ここに仕えてるのもありますので」

 彼女は昔から姉妹のように思ってくれたのだろうか。昔から一緒に過ごすことが多かった私はシイナの事を姉のように思っている所がある。だからこそ、父から手を上げられることには耐えられない。

「貴方がそんな無理することはないの!!今回、父の気分を害したのは私の行動のせいですから。罰は私が受けなければいけないのです」

「それは違います。これは私が選択して受けたことです。貴方はあの父からきっと自由になりたいから今日のような行動をとったのですよね。ならその行動は正しいのです。だから罪悪感は抱かないで、貴方は貴方らしくいてください」

 彼女は笑顔でそう言った。私の今日の行動はなんて無責任だったんだ……と。

「貴方がこうなるのなら、私は父に従います。そうすればきっと……」

「ダメですよ。そう思ってはいけません。貴方はあの人の人形ではありません。意思があります。そして毎日あんな辛い教育を受けて必死に堪える姿は見ていられません。だから今日みたいな息抜きは大事ですよ、私も誤魔化しておきますから、また来週も息抜きしに行って下さい」

 私はこんな人に護られて、幸せ者だ。そして私はなんて無力なんだと実感した。

 シイナは一度部屋を出て、数分後に夕食を持って「今はご主人様と食べるのは気まずいでしょ?」と気を遣ってくれた。

 ほんとにこの人には頭が上がらない。何もかもお見通しなんじゃないかなって思ってしまった。

 家の中とはいえ、父と鉢合わせしないように行動を気をつけ、家でのやる事を終わらせてベッドに横になっていた。

 今日を振り返ってみると、シルドさんとの出会いが少し運命だと思ってしまった。あんな人目も少ない場所で、今まであの場所に何度も行っていたのに。誰とも会ったことなんてなかったのに。

 彼の「また会いましょう」その言葉が忘れられない。約束してしまったんだ。来週も何とか家を抜け出して会いに行こう。シイナに迷惑かけないよう立ち回りつつも、そしてもう一度彼に会うためにも一週間必死に耐えていこう。私は瞼を閉じて眠りにつく。私の中で少し楽しみが増えた一日だった。



 ヴェルデさんが黒い半球体に閉じ込められてから十数分が経とうとしている。その半球体は宿屋を覆い、私たちは黒い半球体から距離をとった。その半球体からは淀みのような黒い人型の具現化体がとめどなく溢れてくる。この具現化体は銃を持ってこちらを打ってくる。私とスティマはその溢れ出る存在の攻撃に対して避けつつも、スティマは身体を丸くしピンボールのように複数相手に突進を仕掛けたり、私は中刀での斬撃を行っていた。いつもなら“ オモイ”はここまで溢れ出ないのに、今回は様子が違う。

「おいおい、今までと勝手が違うじゃねぇか。どういうこった?これ」

「私にも分からないよ!!でも溢れ出てくるからやるしかないよ!!」

 この戦闘向きじゃない白装束から着替えていつも通りのラフな服装に戻りたいけれど、その時間も作るのも難しいくらいに今回は数で押され手こずっている。

「あー、キリがない!!スティマ、どうにかならないの!?」

「あぁ??どうにかできる方法はあるさ。ただそれには時間が少しだけ必要だ。お前その時間稼げるか?」

「出来るの??なら何とか時間稼ぐからお願い!!」

「力の消費激しいからあんまり使いたくなかったけど仕方ないか……」

 そうボヤきながらもスティマは行動を起こす。

 重い溜息を吐くと、スティマの周りには前が見えなくなるくらい真っ白な煙に包まれた。

 するとそこには、見た事のない背の高い痩せ型の男性がそこに立っていた。髪は長髪で髪の根元が黒髪であり、そこから毛先に向かって白髪へと変わっている。動きやすい白黒をベースとした中華服を身にまとい、彼の手元には彼自身と同じくらいの長さの槍を携えていた。

「やれやれ、弱いから群れるのか?全くコイツらの事は分からんね」

 そう言いながら溢れ出ている“ オモイ”の具現化体を一体一体、的確に攻撃し消滅させている。

 私は、

「アンタ!!誰!?」

 と驚きを隠せなかった。

 その背後には溢れ出ていた“ オモイ”の一体が襲いかかろうとしていた。私は気づくことに一歩遅れた。

(まずい、攻撃される……)

 咄嗟に目を瞑る。しかし攻撃は来なかった。

 スティマが迎撃を行っていたため、消滅していた。

「全く、油断するなよ。フォローがめんどくさい」

「あ、ありがとう、助かった」

「とりあえずこの劣勢を打破するから攻めるぞ。俺に着いてこい」

「あ、あのー、スティマさんでいいのかえ?」

「あ?あぁ、俺だが。何か変か?」

 私は口が塞がらなかった。変身みたいなこんなことした事無かったから。

 今までマスコットみたいな姿の時でも戦えてたことが多く、こうしてリードして戦況を変えていく姿を見て、

(本当にあのスティマなのか……)

 と不安になるレベルだ。

 スティマは手に持つ槍を構え敵陣へ凄まじい速度で駆け抜ける。

 私も武器である中刀を構え、スティマに合わせにいく。しかし、その速さは人間が到達出来るほどの速度ではなく私は私なりの全速力で攻撃を行う。

「弱い!弱い!!弱い!!!全くもって手応えがないな!!おい!!」

(全く容赦がないな……元の性格はどこ行ったんだ……?)

 私はスティマの性格の変わりように戸惑う。なんだこの殺戮兵器のようだ……。私もその勢いに合わせながら中刀を振り回し“ オモイ”を消していく。

 そしてその場にいたあらかた“ オモイ”を一掃する。すると半球体からは今までとは何か違う雰囲気を持った“ オモイ”の具現化体が現れた。

「ナゼ……ナゼナンダ……」

「おい、この“ オモイ”なんか言ってんぞ」

 言葉を発している。こんなタイプの“ オモイ”、私も初めてで驚いている。

「何してくるか分からない!油断しないで!」

「ならば、何がする前に消せばいいだろう!何!簡単な事さ!」

 スティマは瞬時に攻撃に移行し、槍が音を置いていく程の速さで襲いかかる。しかし、その攻撃では消滅せず敵の左腕で受け止められてしまう。それに分かったスティマは、敵と距離を置いた。

「なんだアイツ。めちゃくちゃ硬いんだけど。俺の槍が通らないんだが……」

「私にも分からない……」

 スティマの攻撃の方が威力があることは見てわかる。それが通らないとなるとあの“ オモイ”は何か硬い意思か何かがあるということなのか……。

「ここからは私の推測だけど、あの“ オモイ”は何か硬い意思があるんだと思う。良い意味か悪い意味かは分からないけどきっと中にいる彼女にとってそうなんだと思う」

「俺は頭が回らねぇから、シオンの推測に乗るわ。コイツは硬いなら俺の攻撃が通るか分からねぇ。お前の武器なら通る可能性あるだろ?だから、手数で隙を作る。その隙をお前が狙え。行くぞ!」

「分かった!なんとかついていく!」

 私とスティマは同時に攻める。スティマの槍さばきで攻撃をし、その攻撃で出来た隙に中刀で斬り込むも弾かれる。それからどれだけ攻撃を当てても通らないけれど。

「クソっ、やっぱダメか!!」

「でも、倒せなさそうだから時間稼ぎしかないよ!」

「だよな。早くどうにかしねぇと、な!!」

 敵はこちらには何もしてこない。ただひたすらに攻撃を受けるだけだ。その隙を脇腹が空いてたのを見つけたスティマは、先程の一撃よりも早く、勢いをつけた一撃をくらわせる。しかしそれすら通らなかった。

「あぁー!!なんなんだよコイツ!!ムカつくぜ、ちくしょう!!」

「冷静さは無くさないで!!諦めずに攻撃していこう!!」

「分かっている!」

 スティマは深呼吸して、イライラを抑えもう一度槍を構える。こういうのは冷静さを無くしたら不利に陥っていくから。

「落ち着いた所でもう一度、攻撃しよう!!」

「オーケー!!次はシオン主体で殴れ。俺はそれに合わせる!!」

「了解!!」

 私はその“ オモイ”の懐に入り、腹部へ斬撃を複数回撃ち込む。それも全て身体の硬さによって弾かれるが、その隙にスティマは背後を取り左胸を突き刺すことを試みるがそれも弾かれる。弾かれたのを確認し距離を取る。

「ほんとなんなんだよ!コイツ!!」

「何しても効かないなんて……何が目的なんだ……」

 その瞬間、あの動かなかった“ オモイ”が目の前に現れた。分身なのかと私は考えたが先程攻撃をしていた場所には居ないことを確認した。

 目を逸らしたその時、腹部にとてつもない痛みが。腹部を高速で殴り振り抜いてきたのだ。私は受け身を取れず、宙を舞い地面へと墜ちる。

「シオン!!」

 スティマは叫びながら全速力でこちらへ近づいてきて、槍を構え護る体勢をとってくれた。

 私は血を吐きながらも立ち上がる。

「おいおい、無理すんなよ……」

「でも、私がなんとか意識保って半球体の維持しないと……」

 私が意識を失えば、儀式は中断され“ オモイ”の昇華が出来なくなる。だからここは無理をしてでも立ち上がらなくてはならない。

「ワタシニサカラウカラダ……スベテオマエガワルイノダ……」

 そう言いながら私に何度も襲いかかる。それを寸前でスティマは受け止める。

「コイツ、執拗い!!なんだってんだ急に襲ってきやがって!!」

 私を護れる範囲で攻撃を受けつつ、この場をしのいでくれている。

 私は私がやれることをやらなくては……、怯んでいられない。

 私が出来ることは、彼女が“ オモイ”と向き合い終わるのを待つしかないのだが……。

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オモイの旅の果て 化霧莉 @KEmuri913

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