第2話探偵事務所
草臥れたデスクに薄暗い室内、煙草の煙で色褪せた壁紙。
薄汚れたソファーの上に艶めいた湯気を晒している男女がいた。
男、
「んっ……」
女が体内に取り残された薄緑色の避妊具を粘性を伴う音と共に抜き出している。
激しい行為の末、そのまま突っ込まれていたためだ。
「あむ……これが鬼遣くんの味……うぇっ……まっず」
何を彼女がそうさせたのか自らの体内に入っていたゴム内に残留した体液を口を上に向けて開くとドロドロと流し込み始めた。
口に含んだものの味が悪かったのか、備え付けられたキッチンへ全裸のままに口をゆすぎにに向かっていく。
小走りで向かっているためたわわな乳が縦に揺れている。
口を綺麗に洗浄したのかスッキリした顔をしてに戻って来ると開口一番『病気?』と呟くと男は呆れた顔をしている。
「失礼な奴だな、これでも生まれてからずっと健康体だぞ? ――煙草をやめるよう医者に言われたが」
鬼遣の膝の上に弾力性に富んだ汗ばった尻をのせ腕の中に納まる女、どうやらお気に入りの体勢らしい。
――彼女曰く支配されている感じがイイのだそうだ。
「それヤバたんじゃん、死んじゃうよー」
「大丈夫だ、問題ない」
会話も続かず女の小柄な体を鬼遣の身体にスリスリと擦り付ける仕草をしている。
またしても空気は妖艶な雰囲気に染まりそうになるも男が静止する。
「――今日は依頼者が来る日だ。そろそろ準備するぞ」
「えー、もっかいしよーよぉ。いつもお客さんなんてまったくこないじゃん」
「うるさい、これで飯食ってんだ――まともな大人なんだぞ……これでも」
「ぶーぶー、まともな大人はJKに事後のゴム突っ込む特殊性癖はもってないですよー。あ、これ犯罪の証拠になるかな……」
そういうなり
男は慌ててブツを奪い取るとゴミ箱へシュートする。
ご機嫌取りに女のオデコにキスをすると頭を撫でて誤魔化し始める。
「むぅ。しょうがない、誤魔化されてやるか……でも早くお嫁さんにもらってくださいねー?」
押しかけ女房ならぬ押しかけ女子高生。
とある依頼がきっかけで知り合い、男が絆され女子高生に押し倒されてしまったのだ。
それ以来彼女は嫁宣言をしており、こうしてちょくちょく学校帰りに男の職場へやって来るようになる。
小柄な体に見合わぬ豊満な乳に掴んだ指を押し返す弾性と言う特性をもった尻。
塩素焼けしたボブカットの薄い茶色の髪に汗を弾き滴り落ちる褐色肌。
特徴的な口元にあるホクロと艶やかなプルリとした唇が妖艶な雰囲気を醸し出している。
上気した表情は世の男性をどれほど篭絡したのかわからない。
――料理上手で床上手のホクロと昔の人はよく言ったものだ。
実際、鬼遣は幼いながらの千景の絶技に参ってしまっている。彼の心の内で千景のことを妲己と呼んでいるのは内緒だ。
女子高生の彼女を傾国の美少女と言っても過言ではない。
鬼遣もまんざらではないのか苦笑いしながらも胸元にすり寄って来る猫のような生き物の顎先を指で優しく撫でる。
ふと何かに気づいた鬼遣が急にパチンを指を鳴らし部屋に響かせる。
「
「あー、部活の後輩君だ。急にわたしが部活をやめたもんで告白された……」
「まあこれくらいなら問題ない。異変を感じたらすぐに連絡しろよ?」
千景と呼ばれた女子高生は不思議な“ナニカ”を寄せ付ける体質であり、男はその“ナニカ”を払う力を持っている。
二人は割と息の合うコンビでありパートナーだ。
ここ、
仕事でも簡単な案件では同行しており、その誘因体質を利用している。
何度も付いてくるなと注意する鬼遣だが『旦那の仕事を手伝うのは今からでも遅くない』と言い張り仕方なく折れた形だ。
この二人の出会いもこの事務所の噂を聞きつけた彼女が訪れ、鬼遣と彼女に由縁のある問題を解決したことによる。
当初彼女は疑心暗鬼になっており、詐欺だなんだと鬼気迫った表情をしていたが、問題が解決して以来事務所に入りびたり現在の状況となっている。
彼女の家庭は片親でありずっと異常な状態をひた隠しにしていたのだが、事件解決以降、家族ぐるみで外堀を埋めに来ている始末だ。稀に母親までもが娘である千景を連れて挨拶に来ている。
「うん、わたしの瞳には鬼遣くんしか映ってないよ? ――こんな人外になっちゃったけどそれでもずっと一緒に居てくれるんだから……」
千景の瞳は見えてはいけない“モノ”を見て縁してしまったためその身に異形を宿してしまっている。
外見上と特に目立つものすれば色覚異常が起こり瞳の色が両方とも碧眼になっているし、こめかみのあたりから小さな角が生えてきている。
彼女の見ている世界は全てモノクロとなり見えないものがより鮮明に認識できるようになった。
それは人を黄泉へと案内する鬼の能力である死の気配が見える瞳。
彼女には素質があったのか黄泉を現世に存在する通常の瞳で捉えてしまえば存在が確定してしまう。
身体に段々と異変が起こり始め、彼女の身に黄泉への扉が現界し始めていたのだ。
鬼遣でもその現象は未経験であり事件解決のために右腕が犠牲になっている。
存在はしていないのだが存在している、いわゆる不安定な状態のまま異形と化しているのだ。
他人からは右腕に包帯を巻いた奇妙な男にしか見えない。
物に触れようとすれば触れれるが、特殊な溶液に浸した呪鬼封布で右腕を纏わせなければ触れたものを異形化させてしまう。
もともと鬼遣の一族は鬼を払うことを専門としておりその身には隷属、支配した鬼を身に宿している。
身体にも異常は現れており左目の瞳孔は縦に裂けておりとても人間の目には見えない。
ボサボサな黒髪短髪に顎に髭を生やした格好に、特殊な文様を刻印された眼帯をした姿はとてもミスマッチであり彼はそれをカッコいいと思っている。
千景に事件解決の際右手が異形化したことにより“責任を取る”とよく言われたものだが当人の鬼遣は左目を見せ、ちょっと右手がカッコよくなっただけだと取り合わなかった。
千景の裸の身体を抱き寄せると頭に顎を押し付け両手で強く抱きしめる。
汗ばむ幼い身体からフェロモンでも発しているのか脳が甘い香りに襲われるも踏み止まりつつ、髪の匂いを嗅ぎ始める。
「こんないい匂いを漂わせてる女を放っておくわけないだろう」
鬼遣は手櫛で薄い茶色の髪の毛を
「髪の毛フェチにロリコンはタイーホですよ? ま、もらってくれるならおめめを瞑りますけど。それにしてもタプタプのアレをわたしの中に残す性癖やめない? ――異物感半端ないんだけど」
沈黙。超常に関わる者はひと癖もふた癖もある。まだ鬼遣の性癖など誤差みたいなものだ。
誤魔化すように千景を脇に手を差し入れ持ち上げるとそのまま脱衣所へ二人の汗を流しに向かう。
その時事務所入り口からけたたましいドアを叩く音が響く。思わず千景を落としてしまった鬼遣。
床で打ったお尻を涙目で撫でる千景、すまんとひとこと謝ると慌ててスーツのズボンのみを履くと玄関前向かう。
玄関ドアに付いているドアアイを右の片目で覗き込むとコワモテの中年男性が口元が笑っていない笑顔で何度もドアを叩いている。
ドアを叩く様子から尋常な雰囲気ではない。
鬼遣の特殊な左目が薄っすらと碧く輝くと周囲にいる魂の根源を捉えると共用部のマンションの廊下には数十人もの人の生命を感じる。
事件捜査の関係で何度も感じたことのある警察関係の人の魂の波動も感じる。
いそいそと下着が付け終わりかけている千景にまさかという思いで鬼遣は問いかける。
「千景……まさか警察に通報とかしてないよな? こわーいおっさん達が一杯いらっしゃってるんだけど」
「えーそんなことしないよ? まさか他の子にも手を出してる――とか? この前可愛い子いたじゃん?」
「あほう。何が悲しくてちっちゃい幼児に手を出さねばならん! いなくなった猫を見つけて感謝されただけだ」
「でも将来を誓ってたじゃない? 案外小さくても女は女よ――わたし……わかるのあの子の気持ち」
およよ、と下着姿で目尻に両手を当て泣き真似を始める、一切涙は流れておらずウソ泣きだとは明らかだ。
その頭を軽く小突くとそれどころではないと衣服を早く切るように急がせる。
鬼遣もスーツを着なおし事務所に残る淫靡な香りを排除するために窓を全開にして消臭剤を振りまく。
身なりを正した千景をソファーに座らせると玄関前で相変わらず叩かれているドアを開きに向かう。
扉を開くと逮捕状を突きつけて来る中年男性がニコニコと冷徹な雰囲気で告げる。
「鬼遣フツだな? 十時十分。強盗強姦致死の罪で逮捕する」
突然のことに呆けている鬼遣い腕には冷たい手錠が掛けられる。
ついでと言わんばかりに家宅捜索令状も突きつけて来ると問答無用で刑事たちが事務所に侵入してくる。
もちろん千景の存在を確認されると『犯罪者め……こんな若い女子高生にまで……』と怒りを込めた恨み言を呟かれる。
逮捕され、腕を引かれて警察車両に千景とは別々に押しまれる。
参考人、もしくは被害者として丁重に扱われている千景とは違い、鬼遣への扱いはぞんざいな扱いであった。
「あの。身に覚えないんだけど……?」
「言い訳は署で聞く大人しくしてろ」
刑事が言うと大人しく警察署へ連行されることになる。
両隣に挟まれたガタイの良い刑事たちからは汗臭さと煙草の匂いしか漂ってこなかったためしかめっ面をする。
巻き込まれた千景に悪い事したなとボンヤリと考えつつ目を瞑ると精神を落ち着けた。
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