こちら鬼遣探偵事務所
世も末
第1話鬼遣一族
「あああああああああああああああッ! クソッ! クソッ!」
眼前には完全に異形と化した女性体、義姉の姿が見える。
幼き頃に素質があると一族の物に連れてこられ本当の姉弟のように生活を続けていた二人だ。
一族の秘術で強力な鬼を封印しその身の宿すための儀式を行っている最中だった。
文献にも過去最強の鬼と記されており最高の依り代とされた義姉に取り込ませるはずだったのだが儀式は失敗し一族のものは皆殺しにされてしまう。
義弟であるフツは愛する義姉を心配し儀式には反対していたのだが、義姉であるミタマは異形と化し人間をその巨腕で縊り殺している。
最愛の義弟への感情がかすかに残っているのだろうか義弟のフツは後回しにされその惨劇を特等席でまざまざと見せつけられている。
血が飛び散り人間を構成する内容物が散乱している。
おもちゃで遊ぶのに飽きたのか義姉の顔をした美しき偉業はフツに目を向けるとニタリを口角が上げ嬉しそうに微笑む。
変わり果てた義姉に対し呆然自失のフツは抵抗する事も出来ずに捉えられてしまう。
「姉さん…………」
諦念だろうか、愛しき義姉に力なく声を掛ける。
ミタマの顔をした鬼は掴んだフツを眼前に見定めると嬉しそうに顔を見つめて来る。
「ああ、なんてなんて美味しそうな瞳。あなたはわたしもの。その瞳を頂戴? ね? いいでしょう?」
すでに会話は成立しておらずぶつぶつと呟くように語り掛けて来る。
異形と化した指先の鋭い爪でフツの瞳をえぐり始める鬼。
あまりもの痛みに耐えきれず叫び散らし失禁してしまう。
「ああ、ああ、なんて可愛い声で鳴くんでしょう。可愛い可愛いフツ。愛してるわ」
そのえぐり出した瞳を鬼は口元に運ぶと美味しそうに咀嚼を始めた。
愛しい義弟の体の一部を鬼を構成する身体中に巡らせると恍惚とした表情を浮かべる。
腕の中にいるぐったりとしたフツをじっと見つめると愛おしそうに頭を撫で始める。
「ふふふ、あなたはわたしの物、わたしはあなたの物。ちょっと張り切り過ぎたわね――ヒトトキの間あなたの中に眠らせてもらうわ」
異形となった体は所々綻び始め皮膚や指先などが崩れ落ちて行っている。
再びフツの空いた眼窩に長い舌先を差し込むとぐちゅぐちゅと搔きまわす。
義姉を構成する要素がドクドクと流し込まれ、体を作り変えられているのかフツの身体が痙攣し始める。
「もう、暴れないの。あなたの愛しいお姉ちゃんはあなたとひとつになるのよ? それはそれはとても――素晴らしい事なのよ?」
すでに異形と化した義姉の倫理観は鬼へと寄ってしまい、義弟に対する愛しいという気持ちが肉体諸共混ざり合いひとつになりたいという感情へと変貌してしまっている。すでに彼女は人間ではなくなっているのだ。
周囲に散乱した死体の只中に倒れ伏す鬼遣フツ。
その惨劇の中には義姉だったミタマの姿はおらず、血まみれのフツの左目には鬼が宿っているだけであった。
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